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美人姉妹が映し出すトルコ社会の真実ーー『裸足の季節』監督&キャスト陣来日会見レポート

2016年06月09日 18:21  リアルサウンド

リアルサウンド

『裸足の季節』記者会見の様子

 6月11日より公開される第88回アカデミー賞外国語映画賞ノミネート作『裸足の季節』。本作のPRのため来日中のデニズ・ガムゼ・エルギュヴェン監督とキャスト陣が6月9日、都内にて記者会見を行った。


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 『裸足の季節』は、トルコ出身のエルギュヴェンによる長編デビュー作。トルコの小さな村を舞台に、自由を奪われた5人姉妹の末っ子ラーレが、運命を掴み取るため奮闘する姿を描き出す。


 記者会見には、メガホンを取ったエルギュヴェン監督に加え、試験のため来日が叶わなかった次女セルマ役のトゥーバ・スングルオウルを除く、主要キャストである5人姉妹のうちの4名が出席。


 はじめに、「来日は初めてですが、日本に来ることができて大変嬉しく思っています」と挨拶をするエルギュヴェン監督に続き、三女エジェ役のエリット・イシジャン、四女ヌル役のドア・ドゥウシル、長女ソナイ役のイライダ・アクドアン、末っ子ラーレ役のギュネシ・シェンソイが、それぞれ日本を訪れることができた喜びをコメント。


 初監督作にしてアカデミー賞をはじめ数々の映画祭で賞を受賞したことについて、エルギュヴェン監督は、「この作品は私にとって非常に素晴らしいチャンスとなりました。特に今後に向けて、大きく力をつけさせてくれるきっかけになりました。初監督作を出すまでにいろいろと試行錯誤を重ね、何年も時間がかかりましたが、2作目への権利を獲得することができたと思っています」と、その思いを語る。


 5人姉妹の中で唯一演技経験があったという三女エジェ役のイシジャンは、「これまでに私が出演した2作の映画を観て私の存在を知ってくれた監督が連絡をくれたんです。女性に関する映画だということ、そして自由を求めて駆けていく作品ということで、私も自分に適した映画だと思い、喜んでオファーを受けました」と、出演に至るまでの経緯を明かし、本格的な演技が初めてだったというドゥウシル、アクドアン、シェンソイも、本作に参加できた喜びをそれぞれ口にした。


 映画の中で5姉妹は、古い慣習と封建的な思想のもと、一切の外出を禁じられるという保守的な環境で暮らしている。自身の家庭環境との違いについて質問が飛ぶと、ドゥウシルは、「私自身は非常に自由な家族のもとで育ちました。しかし残念ながら、トルコには映画の中で描かれているような家族も存在します。私の家族は、この作品で私が演じる役柄を受け入れてくれて、支持してくれました」と、家族によるサポートがあったことを明かした。エルギュヴェン監督も、「トルコは自由でモダンな生活スタイルが広がる一方、非常に保守的な生活を送っている女性もいます。この乖離は激しく、だからこそこの映画に対するリアクションも様々でした。非常に温かく受け止めてくれた人もいれば、よくない解釈をする人もいました。しかし、これほどの反響があったのは、この作品が社会の真実を表しているからだと思います」と、否定的な反応もあったことを明かす。


 また、映画界で女性監督が活躍することについて、エルギュヴェン監督は、「社会においても映画においても、女性は常に男性側から見たオブジェのように扱われてきました。しかし、少しずつ変化に向かっていると思いますし、私たちもそれに向けてやっていくしかないと思っています。私がフランスで映画を学んでいた時も、女性の学生は2人ぐらいでしたし、常に業界の中でもマイノリティでした。しかし、映画を作り上げていく中で、そういった障害を乗り越えることができたと私は思っています」と語る一方、トルコにおける女性の見方について、「何でも性的なことに結びつけられてしまうんです。今回の映画の中でも、彼女たちが馬乗りになるシーンがあります。それは子どもたちのピュアな遊びの表現だったのですが、それも社会からすると性に関連付けて解釈され、反発を受けました。女は体だけではないんだということを訴えるために、より身近なところから、愛を持って描き続けていきたいと思っています」と、自身の考えを述べた。


 最後に、今後の予定について聞かれたキャスト陣は、「私は今は大学3年生で、ビジュアルアートを学んでいます。夢はニューヨークで修士号を取ること。また、女優業の傍ら、監督業もやってみたい」(イシジャン)、「演技に関する学校に行きたいと思っています。そこからいろいろやっていきたい」(ドゥウシル)、「今後も女優業を続けていきたい。社会に関する問題を扱うべく、今後も映画作りに関わっていきたいです」(アクドアン)、「実は来年ロサンゼルスに引っ越すことが決まっていて、そこでも女優を続けていけるように勉強をしていきたいと思っています。また、心理学にも興味があるので、人間について社会に語りかけられるような映画に携わっていきたい」(シェンソイ)と、それぞれの目標を語った。


 エルギュヴェン監督は、「10月に2作目を撮る予定です。シナリオ自体は『裸足の季節』よりも前にあったものですが、当時はいろいろな困難があり製作に至らなかったものです。1992年のロサンゼルス暴動を描いた作品で、テーマは非常に暗いですが、半分はコメディっぽく、半分はエモーショナルに、ライトな語り口で描きたいと思います」と、ハル・ベリー主演の次回作「Kings」の詳細を明かした。(宮川翔)