2016年06月09日 10:52 弁護士ドットコム
日本の「ハンコ文化」が、転換点を迎えることになるのだろうか。りそなホールディングスが2019年3月までに、傘下のりそな銀行、埼玉りそな銀行の全店舗で、住宅ローンや口座開設などの手続きに、原則として印鑑を不要にすると報じられた。印鑑のかわりに、指の静脈で本人確認をして安全性を確保する。大手行では初の試みだ。
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りそな銀行だけでなく、三井住友銀行でも、サインのみで本人確認ができる「サイン認証」サービスを来年2月ごろから、一部の店舗で導入する方針だ。
高額決済や口座開設に「印鑑」がなくなることに不安を覚える人もいるかもしれない。なぜ、りそなは「印鑑なし」に踏み切ったのだろうか。また日本では、印鑑は重要な契約には欠かせないという慣習があるが、今後、「印鑑」は姿を消していくことになるのだろうか。契約問題に詳しい高島秀行弁護士に聞いた。
「日本人は、契約書など重要な文書には、署名捺印の他に印鑑を押すという習慣があります。重要な文書に印鑑が押していなければ、合意が成立しておらず、逆に印鑑が押してあれば合意が成立したこととされています。
法律上は、その人の印鑑が押してあれば、その文書はその人の意思に基づいて作成された有効なものと推定されます(民事訴訟法228条4項)。
また、会社にしても個人にしても、役所が、その印鑑が、その会社あるいはその人の印鑑であることを証明してくれる制度があります。これが『印鑑登録』、『印鑑証明』という制度です」
りそなは、なぜ「印鑑不要」に踏み切ったのだろうか。
「印鑑は本人確認の方法として万能ではなく、偽造や盗難、なりすましなどにより、他人が印鑑を使用することが可能です。より本人確認方法として確実な生体認証を採用したものです。
三井住友のサイン認証サービスは、りそな銀行の生体認証とは逆の発想です。より確実な本人確認方法としての手段というより、印鑑が煩わしい人もいるので、サインでも本人確認できる方法を開発したということだと思います」
今後、日本の「ハンコ文化」は廃れていくのだろうか。
「科学技術が発達すると、印鑑以外でも、より確実に本人確認が可能となりますから、印鑑制度がなくなる可能性はあります。
しかし、銀行はあらかじめ、指の静脈の情報やサインを登録させたりして、本人確認をすることができますが、一般の会社や個人は、相手の指の静脈の情報やサインの情報も持っていません。さらには、その指の静脈の情報やサインを読み取り本人確認をする機械も持っていません。
生体認証技術やサインの認証技術が簡易になり、その読み取った情報で、一般の会社や個人が本人確認をすることができる制度(生体情報登録制度やサイン情報登録制度)が作られれば、印鑑はなくなるかもしれません。
しかし、そのような制度を作ることは、技術面やコスト面だけでなく、役所が国民の生体情報を持つことへのプライバシーの問題にも発展し得ます。日本でただちに印鑑が廃止されることにはならないと思います」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
高島 秀行(たかしま・ひでゆき)弁護士
「相続遺産分割する前に読む本」「訴えられたらどうする」「企業のための民暴撃退マニュアル」(以上、税務経理協会)等の著作があり、「ビジネス弁護士2011」(日経BP社)にも掲載された。ブログ「資産を守り残す法律」を連載中。
事務所名:高島総合法律事務所
事務所URL:http://www.takashimalaw.com