トップへ

「犬好きおばさん」他人の敷地に侵入、犬に噛まれて治療費請求…応じる義務はある?

2016年06月09日 10:32  弁護士ドットコム

弁護士ドットコム

記事画像

「他人の敷地に勝手に入って犬に噛まれたのに、なんと治療費を請求してきました」。大学生のFさんは、高校生の時に住んでいた実家で起きたトラブルを振り返ります。実家の敷地内に勝手に入ってきた近所のおばさんが、Fさんの飼っていた柴犬にかまれて、苦情を言われたそうなのです。


【関連記事:男友達からの「望まない性行為」の強要…「デートレイプ」被害にあったら】


Fさんは、実家の敷地内にある駐車場で、犬をリードで繋いで日向ぼっこをさせていたところ、家のチャイムが鳴り、おばさんが「お宅の家のワンちゃんに噛まれました。病院へ行くので治療費を払ってください」と要求してきました。物腰は柔らかったそうなのですが、おばさんの手から血が出ていたこともあり、Fさんはビックリして、5000円を払いました。


おばさんは動物好きで、犬にパンをあげようと駐車場に無断で入ってきて、犬と戯れていたところ、噛まれてしまったそうです。Fさんは「勝手に敷地に入ってくることがなければ、犬に噛まれることはありませんでした。何だか理不尽です」と納得のいかない様子です。


今回のようなケースの場合、噛まれた人に飼い主が治療費を支払う義務はあるのでしょうか。足立敬太弁護士に聞きました。


 ●治療費を払う必要のない場合


動物が他人に損害を与えた場合については、民法718条に規定があります。自分の占有する動物が他人に損害を与えた場合、その損害を賠償しなければならないとされていて、原則として動物の占有者、つまり「飼い主」や管理者が賠償責任を負います。


ただし常に責任を負うわけではありません。「動物の種類及び性質に従い相当の注意をもってその管理をしたとき」は免責される(同条1項但し書き)とあり、他人に損害を与えないように注意をして管理していた場合には責任を負いません。


犬は身近な動物で、しかも噛む危険がある動物なので、犬に噛まれたケースで、この条文の適用の可否が争われた事件は多数あります。ただ、裁判例の基本的な考え方として、容易には免責が認められない傾向にあります。例えば、放し飼いで免責が認められることはまずありません。


今回のケースは、柴犬を放し飼いではなくリードに繋いでいました。リードに繋げば十分かというと、それだけでは不十分です。リードの長さやリードを使用した状況・場所の要素も考慮が必要です。


そのうえで、今回のケースは、自宅の敷地内に柴犬が留まるようにリードに繋げていたにもかかわらず、被害者がわざわざ敷地内に入って近寄り柴犬に噛まれたという事案です。今回のように被害者が近寄った事案、つまり、自ら危険を招き入れたケースでは、免責が認められた裁判例が複数あります。今回も、もし裁判になれば、Fさんは免責され、治療費を払う義務はないと判断される可能性が十分あったと思われます。




【取材協力弁護士】
足立 敬太(あだち・けいた)弁護士
北海道・富良野在住。投資被害・消費者事件や農家・農作物関係の事件を中心に刑事弁護分野も取り扱う。分かりやすく丁寧な説明だと高評価多数。
事務所名:富良野・凛と法律事務所
事務所URL:http://www.furano-rinto.com/