新生ハースF1チームに移籍し、チーフエンジニアとしてチームのレース部門を統括する小松礼雄氏。今年のモナコGPは雨で荒れた展開になり、レースは初登場したウルトラソフトへの対応が鍵になった。ハースはポイントを獲得出来ず残念な結果に終わったが、そこで得たものは……ハースと小松エンジニアのモナコでの複雑な裏事情、F1速報サイトでしか読めない、完全オリジナルコラム第7回をお届けします。
----------------------------------------------------------------------------------
ウルトラとスーパー、タイヤの正解は?
雨上がりで見えた、ドライバーの力量
モナコGP、雨で荒れたレースになり、結果はポイント獲得出来ず残念でした。木曜日の走り出しはそんなに悪くなかったです。悪くはないけども特に良くもなく……だいたい思った通りの位置で週末は始まりました。前回のバルセロナではFP1がとても悪かったので、モナコでまあまあ良いスタートを切れたことは良かったです。エステバン(グティエレス)とロマン(グロージャン)のタイム差があまりなく、エステバンは悪くないなと思いましたけど、それよりも逆にロマンが思ったほど良くないなと思いました。彼のモナコでの速さはロータス時代から良く知っているので、もう少し行けるかなと思ったけれども、ちょっと上手く乗れていませんでした。
FP1のベストのセクターを繋げたラップでは、やっぱりグティエレスよりコンマ3秒ぐらい速くまあまあ思った通りでしたけど。FP2では逆にクラッシュもあったし、タイムが出せませんでした。FP1からFP2の推移を見ると、エステバンはそれなりにトラックに順応して来ていましたが、ロマンはグリップの不安定さに戸惑っていました。
モナコは市街地コースなので、走り出しは路面のグリップがとても低く、走行するにつれて路面ができ上がるため大きくタイムは伸びて行きます。FP2ではタイムが全体的に大きくアップしていますが、ウチはあまり上がらなかった。そういう意味では、一番FP2が良くなかったかな(グティエレス13位、グロージャン15位)。土曜のFP3に向けてセットアップを数点変えて、クルマは確実に良くなりました。FP3の順位自体はパッとしませんでしたがある程度の手ごたえはあったので予選でトップ10に迫れる可能性は十分にあると思っていました。
その予選ですが、とにかくモナコの予選ではクリアラップをいかに獲るかが大事になります。ロマンはQ1では無事に(クリアラップを)とる事ができて、8番手。Q1はエステバンもロマンからコンマ1秒落ちと順調でした。たったのコンマ1.3秒でしたが、とにかく実力が拮抗しているのでエステバンは14位です。Q1では赤旗に対する対処もうまくいったと思うし、クルマを出すタイミングやランプランも良かった。チームで初めての(モナコの)予選としては、うまくいったと思います。
Q1では当初、4周のランを2回やる予定でした。FP3の走行からタイヤが暖まりにくく、1周目にタイムが出ないことは確認できていたのでアウトラップの次の周はアタックラップよりややゆっくり走ってタイヤを暖めます。この際は特にフロントを暖めることに専念して、逆にリヤはアタックラップでちゃんと持つように気をつけて走ります。またこのスローラップの走り方もFP3の走行データを見て決めます。あとはモナコなので、アタックが1周のみでは他のクルマに引っかかったら終わりなので、少なくとも2周用意しました。ですのでスロー(1周目)→アタック(2周目)→ スロー(3周目)→ アタック(4周目)というランの形になります。しかし、序盤に赤旗が出て時間が足りなくなったので3周と4周のランに切り替えました。3周のランでも2回アタックする為、タイヤができていないのは判っていたけど1周目からアタックに入りました。
本来なら予選で使うタイヤは1周目に最大のグリップが出るものですが、モナコは路面がスムースでμが全然ないし、高速コーナーもほとんどないレイアウトなので1周目にタイムを出そうとするとフロントタイヤが暖まりきらず、セクター1でタイムが出ません。だからといって2周続けてアタックするとリヤタイヤがオーバーヒートしてしまうので、スローラップ(クールダウン)を入れて、リヤタイヤを持たせます。すべてはフロントとリヤタイヤのグリップを同時に出させる、タイヤの温度管理のための戦略です。
Q1の結果を受けて、Q2は4周と2周で行く事に決めました。これはQ2終盤なら路面も良くなり、4周目ではなく、2周目にタイムが出ると踏んだからです。もちろん、リスクはミスやトラフィックですが、Q3に行けるチャンスがあるのは判っていたので、全てを削り取ってベストタイムを出すことにかけました。残念ながら結果には繋がらなかったけど、方針としては合っていたと思います。
でも、そのQ2のロマンのアタックは本当にもったいなかった。ミスするまではホントに速くて、モナコでの本来のロマンの速さの片鱗が見れました。ターン7まですごく良く、この時点でQ1よりもコンマ4秒速かったんです。それで、グリップレベルをちょっと過信してトンネル手前のターン8の進入でターンインが早すぎて、リヤが流れてオーバーステア。ミッドコーナーでブレーキを離した時にすでに遅く、ゲームオーバー。追い抜けないモナコだけに、このミスは痛かったです。
■ライコネンのクラッシュに巻き込まれたロマンは……
■ウルトラとスーパー、タイヤはどちらが正解だったのか?
■ハミルトンとロズベルグのペースの違い、引き出しの違い
こちらはF1速報web会員限定のコラムとなります。続きはF1速報有料サイトでご覧ください。