ものすごいスピードで様変わりを遂げつつある中国のアニメーション産業。果たして日本のアニメにチャンスはあるのか? まず放送メディアについては明確に法律で制限されているので現時点ではほぼ絶望的である。その点期待できるのはネットメディアであろう。「爆買い」よってすでに日本製アニメの市場が形成されつつあることは述べた。今後は 次の段階として共同制作が進むものと思われるが、その方向性を示唆するのが『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀(サンダーボルトファンタジー トウリケンユウキ)』ではないか。この作品は台湾の人形演劇「布袋劇(ほていげき)」を題材にしたテレビシリーズであるが(7月よりTOKYO MXでオンエア)、原案・脚本・総編集を虚淵玄氏が務めることになっている。台湾の国民的伝統芸であればこそという側面もあるだろうが、このような取り組みが中国のネットレベルでなされるようになれば、真の意味での提携となる。
今後おそらく日中でもこのような取り組みが展開されるであろうが、懸念点として挙げられるのは中国政府の検閲である。もし今後ネットでもテレビ並みの制約が課せられれば現状のビジネスが元の木阿弥になる可能性も否定できない。だがこの点に関し、中国人関係者は総じて楽観的である。日本人から見るといつか当局から規制の通達が来るのではないかと不安になるところであるが、そこは「上に政策あれば下に対策あり」の中国人、その時はその時で迅速に対処するつもりなのであろう。
■ 映画の可能性
2015年5月28日に中国で公開された映画『STAND BY ME ドラえもん』の興行収入は初日2708万元(約5億円)、6月26日(興行終了日)までの累計収入は5.3億元(約95億円)と歴代アニメーション興業2位となる好記録となったものの、表4の2015年に中国で公開された海外アニメーションの成績を見ても分かる通り日本の存在感は薄い。対照的にハリウッド作品が圧倒的に多いのは、アメリカが中国政府と輸入制限枠(年間基本64作)に関してきっちりと交渉した結果である。
もちろんアメリカ以外の国の映画も輸入されてはいるのだが、香港や台湾は輸入映画の制限枠外、韓国も2014年に中国と協議を結んだ結果、中韓共同制作の映画は今後中国市場において国産映画としての待遇を受けられるようになった。*2このような状況見ると日本が取り残されているのは一目瞭然である。クールジャパンの掛け声以前に、前提となるべき土台が出来ていない。映画やテレビなど国内のメディアやコンテンツ産業が内向きであると指摘されて久しいが、確かに今まで中国に対して目を向けてなかったのは事実である。特に映画に関してはほとんど無為無策であったといっていい。しかし『STAND BY ME ドラえもん』の興行収入を見ても分かるように多くの中国人が日本のアニメを待ち望んでいるのだ。そのニーズに応えるためにも、早急な対応策を考えなければならない時期が来ているのではないか。