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AAA、indigo la End、ハンバート ハンバート、SHE'S、堂本剛…6月8日発売新譜の注目作は?

2016年06月07日 13:01  リアルサウンド

リアルサウンド

AAA『NEW』

 その週のリリース作品の中から、押さえておきたい新譜をご紹介する連載「本日、フラゲ日!」。6月8日リリースからは、ハンバート ハンバート、堂本剛、SHE'S、indigo la End、AAAの作品をピックアップ。ライターの森朋之氏が、各アーティストの特徴とともに、楽曲の聴きどころを解説します。(編集部)


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<ハンバート ハンバート『FORK』(AL)>


 ピースの又吉直樹が自身のライブや芝居で楽曲を使用したり、佐藤良成(V/G)がくるりのサポートメンバーを務めるなど、幅広いジャンルのクリエイターから支持される男女デュオ“ハンバート ハンバート”の15周年記念盤。「おなじ話」「待ち合わせ」といった人気曲のセルフカバー、「N.O.」(電気グルーヴ)「結婚しようよ」(吉田拓郎)などのカバーをメンバーだけ(ほとんどが佐藤のアコギ1本とふたりの歌)でレコーディングした本作はまさに『FOLK』(民族音楽、人々)というタイトルにふさわしい仕上がり。「横顔しか知らない」という新曲も収録されているのだが、これが本当に素晴らしい。気になる女の人に電話をかけたり、我慢できずに家を訪ねて「ベルを押そうとしたところで 今さら怖くなってきた」と思ったりする男の人が主人公なのだが、そのストーカーめいた行動が淡々と描かれているだけで、具体的なことは何もわからない。直接的なメッセージもないし、音楽的な野心も感じられないのだが、その男の危うい佇まいが気になってしまうのだ。大げさではないのに、ずっと心に残る。感情の発露をしっかり押さえた佐野のボーカルを含め、“歌って本来、こういうものだよな”と思う。


<堂本剛『Grateful Rebirth』(AL)>


 2002年にソロ活動をスタートさせ“ENDLICHERI☆ENDLICHERI”名義、“244 ENDLI-x”名義、“剛紫”名義の作品を含め、すでに9枚のフルアルバムをリリースしている堂本剛。特に“SHAMANIPPON”というプロジェクトを立ち上げた2011年からは活動が活性化、音楽的なコンセプトも明確になっており、それは初のミニアルバム『Grateful Rebirth』にも引き継がれている。竹内朋康(G)、KenKen(Ba)、屋敷豪太(Dr)、スティーヴ エトウ(Per)、十川ともじ(Key)、SWING-O(Key)などの豪華なミュージシャンとともにオーセンティックなファンク(特にファンカデリックとスライ&ザ・ファミリー・ストーンの影響は色濃い)をベースにしたセッションを繰り広げ、そのうえで堂本が自由に歌うというのが基本的なフォーマットだが、スピリチュアル濃度高めの歌詞が苦手という人でも、このバンドグルーヴは十分に楽しめると思う。フェスに出演したり、レキシや在日ファンクのライブにゲストで出たりすればコアファン以外にもミュージシャンとしての彼の魅力が伝わると思うのだが、関係者のみなさん、どうでしょうか。


<SHE'S『Morning Glow』(SG)>


 良い曲というのは感性などという曖昧なものだけでは書けないし、人生経験をもとにするだけでは必ず限界が来る。もっとも大事なのは音楽理論に関する知識もしくは音楽に対する幅広い好奇心(とそれを取り入れるセンス)だと思うのだが、ロックバンドに限っていうと「しっかり曲が書けている」と思えるバンドは本当に少ない。なんとなく盛り上がりそうなリズムを組んで、なんとなくコードを付けて、テンプレートでもあるのか? と感じてしまうような歌を歌っているだけというか。本当に偉そうですいません。大阪出身のロックバンドSHE'Sのメジャーデビュー曲を聴いて感じたのは、まさに「曲が書けている」ということだった。メロコア的な勢いを感じさせるアレンジ、生々しいライブ感を伝えるサウンドメイクも印象的だが、その中心にあるのは洗練されたコード進行と美しいドラマ性を感じさせるメロディライン。ソングライティングを担う井上竜馬(Key/V)は幼少からクラシックピアノを習い、高校生の頃からELLEGRDENをきっかけにロックに目覚めたというが、パスピエの成田ハネダ氏にも通じるその出自こそが、SHE'Sの音楽性の軸になっているのだと思う。


<indigo la End『藍色ミュージック』(AL)>


 ミュージシャンの人生や心情、ましてや恋愛事情と作品と結びつけるのはまさに下衆の極みだと自分に言い聞かせ(自らの個人史に絡み取られず、そこから自由になろうとする行為が表現の本質であってほしいので)、せめてこのバンドはできるだけ余計な情報をシャットアウトして接しようと思っていたのだが、洗練されたファンクネスのなかで安らいだメロディがじんわりと伝わってくる「ココロネ」を聴いた瞬間、そんな雑念はどこかに吹き飛んでしまった。2010年の活動スタートして以来、普遍的なポップミュージックを志向してきたindigo la Endだが、後藤亮介(Ba)と佐藤栄太郎(Dr)によるブラックミュージック経由のリズムセクション、歌心を備えた長田カーティスのギターフレーズ、そして、独特のグルーヴと抒情的な心象風景を共存させた川谷絵音のソングライティングのバランスは本作によって一気に向上した感がある。ここ数年におけるシティポップの潮流との距離の取り方も絶妙。何度も言うが、音楽だけに向き合ってもらえれば、その良さは確実に実感できると思う。


<AAA『NEW』(SG)>


 デビューからの10年を振り返る『AAAぴあ』というムック本で既存のシングル50作をレビューさせてもらったのだが、トランス、ミクスチャーロック、エレクトロ、EDMからメロコアまで、その時期のトレンドを意識したサウンドメイクとメンバー個々のキャラクターを活かした構成がとても見事でまったく飽きることがなかった。51作目のシングルとなる『NEW』では80年代R&B系ダンス・トラックのテイストを下敷きにしつつ(抑制されたエレクトロ系のリズムとアコースティックギターのバランスが素晴らしい)、夏の始まりのワクワクをわかりやすく描いたリリック、「We got it!」「Brand-new feeling!」というキャッチーすぎるサビのフレーズを含め、リスナー・フレンドリーなサマーチューンに仕上げている。AAAのイメージを引き受けつつ、少しだけ新しい要素を入れる。これを丁寧に続けてきたことが、現在の彼らの成功の要因だろう。そして、ほとんどテレビ稼働をしないまま、ついに大阪・京セラドーム公演(11月12日、13日)も決定。メンバーのタレント性の高さがいちばんの魅力だとは思うが、“曲がいい”“ライブがたのしい”という条件がそろわないとこんなことは実現できない。(森朋之)