2016年06月07日 10:51 弁護士ドットコム
印鑑を押す代わりに「花押(かおう)」を記した遺言書の有効性が争われていた事件で、最高裁第二小法廷は6月3日、遺言書を「無効」とする初判断を示した。
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判決文によると、最高裁は「遺言書に押印を必要とする理由は、印を押すことにより重要な文書の作成を完結するという慣行や意識が社会の中にあることがその1つである」が、「文書の作成を花押によって完結するという慣行や意識があるとは認めがたい」として、遺言書は無効であると判断し、福岡高裁に審理のやり直しを命じた。
そもそも「花押」とは何か。また、なぜ最高裁は遺言書を無効としたのか。加藤尚憲弁護士に聞いた。
「時代劇などで戦国武将の手紙が出てくる時に、最後にサインのようなものが描いてあることがありますね。あれが『花押』です。
『花押』は、江戸時代には廃れてしまったようで、現代ではほとんど用いられていません。一般に知られている例としてはわずかに閣僚が閣議書に署名する際に用いられている位ですので、沖縄で実際に遺言書に用いられたと聞いて、私も大変驚きました」
それでは、花押が書かれた遺言書について、これまで裁判所はどのように判断してきたのだろうか。
「この裁判の下級審である那覇地方裁判所と福岡高等裁判所那覇支部は、いずれも遺言を『有効』と判断していますが、花押を記した遺言の有効性に関する裁判例はおそらく他には存在しないものと思います。今回の最高裁の判断は、これらの下級審の判断を覆すものになりました」
なぜ、最高裁は下級審の判断を覆したのか。
「今回の判決は、平成元年2月16日最高裁判決(第一小法廷)を引用しています。この判決は、印鑑の代わりに指印を押した遺言書の効力が争われた事案でした。
平成元年判決は、『遺言書に押印を必要とする理由は、印を押すことにより重要な文書の作成を完結するという慣行や意識が社会の中にあることがその1つである』という趣旨の指摘をした上で、指印を印鑑の代わりに用いる慣行が社会一般に存在することを根拠に、遺言書を『有効』と判断しました」
「これに対し、今回の判決は、花押を印鑑の代わりに使用して文書を完成させるという慣行や意識が社会の中にあるとは言いがたいことから、遺言を『無効』と判断しました。
つまり、指印と花押とでは、社会の中で用いられる頻度が全く異なることから、今回の判決は、平成元年判決と同じ判断基準で、逆の結論を導いたのです」
今回の判決は、今後どのような影響を与えるだろうか。
「そもそも、花押を遺言書に記載するということ自体、現代ではほとんど用いられていないことから、今後同様のケースが起きる可能性は極めて低いでしょう。実務への影響はほとんどないと思われます」
「なお、自筆で作成した遺言書は、今回のケースのように形式の不備により無効になるケースが後を絶ちません。また、自筆の遺言書は、本物であるかどうかなど無用な争いを誘発することがあります。遺言書を作成するときは専門家に相談の上、必ず公正証書にすることをお勧めします」
加藤弁護士はこのように述べていた。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
加藤 尚憲(かとう・なおのり)弁護士
東京大学卒、弁護士・ニューヨーク州弁護士
弁護士ドットコム上で半年間に約500件の相続の質問に回答し、ベストアンサー率1位を獲得。「首都圏版 2016年▶2017年 みんなの弁護士207人」(南々社出版)相続部門 掲載
事務所はJR中央線・丸ノ内線荻窪駅北口から徒歩2分
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