トップへ

琢磨、昨年2位のデトロイト戦で大苦戦。大きな課題も残す

2016年06月07日 10:21  AUTOSPORT web

AUTOSPORT web

インディカー・デトロイト戦/得意のストリートコースで苦戦する佐藤琢磨
インディ500が終わったばかりだというのに、休む間もなくデトロイトでのレースウイークエンドが始まった。それも、シリーズ唯一のダブルヘッダー。インディカーのスケジュールは過酷だ。

■昨年2位を獲得したデトロイト戦
 土曜と日曜に1レースずつ。ファンにとっては“お得”なダブルヘッダーだが、3日間で1レースが通常のスパンに2レースを押し込むのだから、戦う側はマシンを煮詰める時間が大きく制限される。

 しかも、デトロイトはストリートコースなので事前テストは不可能。1回のプラクティスを走っただけで予選、翌日に短いプラクティスを行ったら1レース目、翌日は午前中に予選で、すぐレース2というスケジュールは、走る側にとっては本当に難しい。

 冬の寒さからか、元々バンピーなベルアイルのコースは、今年さらにバンピーになっていた。1時間15分のプラクティスではアクシデントが頻発して15分以上がレッドフラッグ。

 様々な悪条件が重なったが、ウィル・パワー(チーム・ペンスキー)は自らのコースレコードを破る1分15秒0197というラップでトップに立った。一方、佐藤琢磨(AJフォイト)はパワーと同じ21周を走ったが、ベストは1秒以上も離された1分16秒3391で11番手。

「バンピーになったコースに合うライドハイトを見つけ出すまでに時間がかかった。その後は複数の項目を同時にテストしたため、データ解析が大変だ」と話していた。

 通常の3段階方式で争われたレース1の予選、気温は摂氏27度前後で、路面は完全ドライ。琢磨はQ2に進出して11位となった。琢磨とすれば、予選を2セッション戦えたことでQ1敗退よりはデータを多く集めたが、まだまだマシンは納得のいくレベルに到達しておらず、上位陣との差も明らかなものがあった。

 琢磨のQ1通過タイムはブラックタイヤで記録され、Q2でもレッドタイヤで好タイムは刻めなかった。ポールポジションを獲得したペジナウも、Q1、Q2はレッドでベストを記録しながら、Q3ではブラックでの連続アタックという作戦でトップを手に入れていた。

 新エアロキットでダウンフォースは増えているが、バンピーに過ぎる路面でタイヤは空転し、レッドタイヤを激しく消耗させていた。レッドのパフォーマンスに頭を悩ませていたのは、琢磨だけではなかった。レース1のスタートでは、出場22人中の21人がレッドタイヤを履いていた。短いスティントを走った後はゴールまでブラックタイヤを連投する作戦だ。ライバル勢と違う作戦を求め、レース2ではブラックでのスタートを選ぶ者が増えたが、それでもまだレッドでのスタートが圧倒的多数だった。

■決まらないマシンセッティング
 土曜日。レース1を前にプラクティス2が行われ、ブラックとレッドの両方を試した琢磨は1分16秒0275のベストで16番手だった。決して準備万端とはいえない状態が続いており、琢磨はプラクティスから更にセッティングを変更してグリッドに着いた。

 しかし、その“ひと捻り”がマシンを向上させることはなかった。苦しいレースを戦い抜いて琢磨が手にしたのは、予選結果と同じ11位。チームメイトのホークスワースは、チームトして少しでも多くの情報が欲しい状況か、今度は燃料ポンブにトラブルが発生し、予選に続いて1周も走ることができなかった。

 琢磨は、「決勝では、まだ僕らが組み合わせてないセッティングを使った。良くなると踏んでいたが、明日はまた違うセッティングにしなければ……」と苦しい状況を話していた。

 レース1は終盤に雨がポツポツと降った。雨な得意な琢磨としては、もっと降ってくれることを望んだだろうが、ウエットタイヤを登場させるほどの雨にはならなかった。

 土曜日の夕方から雨が降り、日曜も雨の予報が出ていた。予選は15分早くスタート。グループ1はドライで走行終了となったが、グループ2のセッション半ばで雨が降り出した。琢磨は運悪くグループ2に組み入れられており、しかも、ブラックタイヤに履き替えてコースに戻ったところで雨に見舞われた。

 大雨ではなかったが、タイヤのグリップに影響を与えるには十分な量が降り、琢磨の予選順位は16位となった。雨の前にブラックでの連続アタックを行っていたら、もっと上位にグリッドを確保できていただろう。予選前にはそういう走行プランを立てていたが、グループ1の戦況を見てタイヤの投入順を入れ替えた。その判断が裏目に出た。

 マシンのセッティングが遅々として進まない。少しでも情報が欲しい状況だが、チームメイトのホークスワースはステアリングトラブルで予選を一切走れず。レース1には最後尾グリッドから出場する予定だったが、今度は燃料ポンブにトラブル。0周リタイアで、ここでも有益なデータをもたらすことができなかった。

■アクシデントが作戦を台無しに
 そしてレース2、琢磨はブラックをスタート用に選んだ。レース1と作戦を変えた結果、完全なる少数派となれたので、ピットタイミングをズラせば空いているコースで速いラップを重ねることが可能。そこに活路を見出せる可能性が得られた。

 しかし、1ラップ目のターン1入り口で“もらい事故”。どこまでも巡り合わせが悪い。琢磨にとって救いとなる雨も、とうとう降らず仕舞でレース2もゴールを迎えた。

 琢磨はレース2で10位フィニッシュ。今年3回目のトップ10入りだが、表情は厳しいままだった。

「雨を期待してのブラック選択だった。降らない場合でも、みんながショートスティントとしてピットに入れば、自分たちが上位に進出できる可能性があった。どっちに転んでもブラックでのスタートという戦略はよかったと思う」と琢磨。

 セイフティクルーの迅速な仕事によって周回遅れにならずに済んだ彼は、最後尾からの追い上げた。次のピットストップでタイヤをブラックに戻すと、好ペースでコンスタントに走れるようになり、上位陣に遜色のないラップタイムを重ねて行った。

 2レース目の半ばまできて、ようやく琢磨のマシンはそれなりの戦闘力を発揮するレベルに達したのだ。しかし、その勢いをゴールまで保ち続けることができなかった。終盤に入るとまったくペースが上がらなくなった。原因は完全に究明されていないが、琢磨は、「タイヤの内圧マネジメントが狂っていた可能性がある」と話していた。

■再構築が必要なストリートセッティング
 レース2でも苦境は改善されていなかった。「デトロイトは去年までずっと良かっただけに、コンペティティブなレースを戦いたかった。マシンセッティングに関して、僕らのチームには大きな課題が残された」と険しい表情の琢磨。

「今年は1ラップにつき1秒半ぐらいペースが速くなっていた。マシンにかかる負荷はロードコース並に大きく、もうストリートっぽくない状況になっていた。ターン1~2では4G近くもかかる。そんなストリートって聞いた事がない。もうミド・オハイオのターン1と同じぐらいの感じになってる。クルマの作り方もストリート用じゃなく、ロードコースのものに近い考え方でやっていかないとダメなのかもしれない」と彼は分析もしていた。

 今シーズンに残されたストリートレースは、もうトロントだけ。AJフォイト・レーシングのエンジニアたちは全長1.5マイルのハイバンクオーバル=テキサス、新規開催の超高速ロードコース=ロードアメリカ、8分の7マイルのショートトラック=アイオワでのレースを戦いながら、7月中旬のトロントまでにストリートコース用のマシンセッティングを再構築しなくてはならない。