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松本潤主演『99.9』第7話は“ミステリー”から“サスペンス”へ 斑目法律事務所はどう結託したか

2016年06月05日 10:21  リアルサウンド

リアルサウンド

(C)タナカケンイチ

 大手ホビー会社の社長が殺害される事件が起きて、会社のナンバー3である専務(嶋田久作)が逮捕される。これまでの事件と異なっているのは、もうドラマが始まった導入の時点で、真犯人の存在を視聴者は知っているということだ。これまでは、導入部に事件概要が登場しても、最終的に一捻り加えられて真犯人の存在が明らかになるパターンであったが、今回はそうではない。逮捕された専務の弁護依頼を斑目法律事務所に持ちかけた、会社の副社長(高嶋政伸)が真犯人であると、最初から判っているので、必然的にこの副社長の嘘を暴くというのが、『99.9 刑事専門弁護士』の第7話の大筋だと判るわけだ。


参考:大野智の“不自然な演技”はコメディ向き!? ベッドルームの駆け引き描いた『セカムズ』第7話の衝撃


 主人公たちが、事件について捜査していくうちに真実に辿り着くという流れは共通していても、視聴者がその真実を知っているかいないかでは、ドラマのジャンルとしての意味合いが変わってくる。これまでのように、最後に明かされる真犯人に辿り着くまで、推理していくやり方は所謂“ミステリー”の方法論であり、今回のようなすでに明示された真犯人との攻防を見せる方法は“サスペンス”なのである。


 事件現場に残された留守番電話を聞こうとする深山(松本潤)たち弁護士チームと、それを消そうとする副社長の攻防の場面は、まさにサスペンス要素の強い場面であった。もっとも、真犯人のわかり易すぎる行動が端的に描かれる点は多少気にかかるが、たくさんの小ネタを織り交ぜながらユーモラスに描くこのドラマの見せ方には、サスペンス基軸の描き方のほうが向いていると思える。どうしても主人公たちとともに推理しながら見ることを意識してしまうこれまでのテイストでは、大量の小ネタで意識が分散してしまうのである。おそらくそれが、緩急のアンバランスを感じさせていた一因なのだろう。


 前回・前々回と2週にわたり、第1話から伏線として張り巡らされていた弁護士vs検察の対決構図を少しずつ回収していたことを考えると、検察の思惑が絡まない1話完結の案件を挿し込むということは、最終回に向かう途中でちょっと寄り道をしているようにも思える。あくまでも今回の主題は、斑目法律事務所全体の結束ということだろう。その点で、これまでなかなか打ち解けていなかった、企業法務弁護士の志賀の存在が大きくなる。


 志賀を演じている藤本隆宏という俳優、弁護士らしからぬ体格でなかなか目を引く存在感があるが、元々は水泳のオリンピック選手だったというのだからかなり異色なキャリアを持った俳優だ。これまであまり意識していなかったが、舞台を活動の中心とし、最近では大河ドラマ『真田丸』や、前クールに放送された『フラジャイル』での救命医役など映像演技でも急激に注目を集めている存在だ。


 第1話の頃から、企業法務チームから抜けた佐田(香川照之)と妙に対立しあう関係で、第4話での捏造された強制わいせつ事件の際に、刑事事件チームに協力的な姿勢を示す。これは、パラリーガルの戸川(渡辺真起子)に好意を寄せているという邪な考えによる行動であったが、今回はそういうわけではない。自身が顧問弁護を務める企業の社内で起きた事件であり、そのため積極的に事件に関与し始めるのだ。


 案の定、深山の捜査のやり方に口を挟むことになるが、それをたしなめる役割を、佐田がしているというのは実に面白い。すっかり佐田と深山の間の隔たりは取り払われているということだ。二人の関係性が、志賀と刑事事件チーム、つまりは斑目法律事務所全体を結びつけるために必要であるとすれば、前回の事件を経た終盤にこのエピソードを配したことも納得ができる。


 「事実を突き詰めることが、依頼人の利益となることがある」と、佐田は志賀に言い放つのである。これまでは事実よりも依頼人の利益を優先するという一般的な考え方を持っていた佐田であったが、これで事実と依頼人の利益の均衡を図ろうとする、現実的にも理想的な弁護士の姿になったといえよう。たしかに、今のところ描かれてきた事件は、どれも依頼人が無実であるケースばかりだったから、深山のモットーである事実最優先主義は覆らないが、そこはドラマの根幹なので目を瞑っても構わないだろう。


 次回への伏線を匂わせる感じで、クライマックスに夏菜演じる謎の女性が登場する。その直後、主人公・深山が殺人罪で逮捕されるところで幕を閉じたのだ。おそらく次回から最終回までは一気に駆け抜けるということになるのだろうか。今回のエピソードで結託した斑目法律事務所の面々が、深山の無実を証明するために奔走する姿から、検察の大友との確執へと繋がっていくという流れになる予感がする。


 ところで、今回の解決へとつながる鍵となった、花瓶の水の代わりにサイダーを使うというのは、どうやら花を長持ちさせる裏技として有名な方法のようだ。普通の水を使うよりも、果糖ブドウ糖液が含まれることで、微生物の餌となって水に養分が与えられるということらしい。気の抜けた炭酸水で、多少薄めるのが良いらしいが、あくまでも裏技なので、本来は花用の延命剤を使うのが安心だろう。(久保田和馬)