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kz(livetune)×佐藤純一(fhána)が語る、2016年の音楽コミュニケーション「最終的には現場での繋がりが大事」

2016年06月04日 20:31  リアルサウンド

リアルサウンド

kz(livetune)、佐藤純一(fhána)(撮影=竹内洋平)

 それぞれ音楽性は全く異なりながらも、インターネットを起点に人気を集めていったブレイクまでの経緯や、アニソン/ボカロへの造詣の深さなど、不思議と共通点が感じられるlivetuneのkzと、fhánaのリーダー・佐藤純一。kzがやのあんなと共に結成したlivetune+のデビューEP『Sweet Clapper』を、fhánaがメジャー2ndアルバム『What a Wonderful World Line』をリリースしたこのタイミングで、2人の対談が実現した。


 2人がお互いの存在を認識したのは、まだkzがlivetuneを始める前夜。佐藤がfhána以前に結成していたバンド、FLEETとして活動していた頃にさかのぼる。そこで今回は、2人の出会いからそれぞれの音楽に感じる魅力、アニソン/ボカロ/インターネットに対する考え方、そして「それぞれが音楽を作る上で大切にしていること」を語ってもらった。


 なお、livetune+は6月5日に『SAKAE SP-RING 2016』に出演。fhánaは6月4日に『What a Wonderful World Line Tour 2016』のファイナル公演を迎える。対談では2組のライブについてのビジョンも訊いた。(杉山仁)


・「ネットを通して広がっても、実際にライブを観ないと実感は湧かない」(kz)


ーーまずはじめに、2人の接点を伺いたいのですが。


kz:佐藤さんとはFLEETの頃は、まだ直接話したことがなかったんですけど……。


佐藤:でも、ライブに一回来てくれたんだよね?


kz:そうなんです。渋谷O-Nestですよ、確か。FLEETの仲井さん(仲井朋子:キーボード、コーラス)が、僕が通っていた学校の先生だったんです。なので、「取りあえず観に行こうよ」という感じで友人と行ったのを覚えています。


佐藤:じつは僕も、kzさんがまだlivetuneとして活動する前のライブを観たことがあるんですよ。kzさんが通ってた学校でのライブ。女の子がボーカルで、kzさんが後ろでキーボードを弾いていて。他にはfu_mouさんがドラムを叩きながらライブをしていたり……。


kz:当時は本当にひどいライブをやっていましたね(笑)。全員MacBookを持ってたんで、その場で全員が立ち上げて何かしら音を鳴らすという『MacBooks』というものもあったりして。TeddyLoidくんも観にきてくれていたときもあったんですよ。でも、あの酷いライブをまさか佐藤さんが観てくれていたなんて……!


ーー(笑)。直接対面したのはいつ頃の話なんですか?


kz: fhánaが始まってからですね。FLEETの時はまさか佐藤さんがアニソンの方に来るとは思ってもいなかったので、本当に色々とビックリでした。


佐藤: 06年にFLEETは一度アニメのタイアップ楽曲でメジャー・デビューするんですけど、当時はバンド・シーンで活動したいと思っていたし、その時はアニソンに全然興味がなかったのでよく分かっていなくて。06年は『涼宮ハルヒの憂鬱』がやっと始まった頃で、世間的にも深夜アニメが盛り上がる以前の話だったんです。その後すぐにニコニコ動画が出て来たり、初音ミクが出てきたりと時代の変わり目のような時でもあって……。インターネットはもともと好きでしたが、アニソンやボーカロイドのシーンには新しい可能性があるんじゃないかと思いはじめて。「ミクフェス '09(夏)」(初めて透明のスクリーン(ディラッドスクリーン)に初音ミクを投影して行われたライブ)を見たとき、ネットや、N次創作の文化や、何故虚構の存在であるボーカロイドにこんなに人は夢中になるんだろうとか、そもそもキャラクターって何なんだろうとか、色々と複合的に衝撃を受けて。ボーカロイドに惹かれるようになりました。


ーーその延長線上で、kzさんの音楽の魅力を改めて発見したんですか?


佐藤:やっぱり、ボカロと言えば最初はsupercellとlivetuneですからね。


kz:最初メジャーにはその2組ぐらいしかいなかったですし(笑)。


佐藤:特に「Tell Your World」は本当に感動しました。〈たくさんの点は線になって〉という歌詞も含めて、ボカロ・シーンのN次創作のみならずインターネット全体の希望のようなものが表現されてて。あとは、ClariSの「irony」(kzがプロデュース。『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』のオープニングテーマ)にもやられました。録画で観る時も毎回OPを飛ばさず観てたんですよ。


kz:ありがたいなぁ。僕から見ると、FLEETが(初音ミクを使った)「Cipher(サイファ)」を出した頃は、LAMAみたいに外部のアーティストが流入してきて、アニソン・シーンが洒落た時期だと思っていて。アニソンどうこうというより、いい曲を書く人たちが入ってきたというイメージでした。その後fhánaになって思ったのは「すごくストレートなアニソンになったな」ということで(笑)。アニソンって作っている人の作品に対する思い入れによって成立する部分があると思うんですよ。それがfhánaになって自然に出ているような気がしました。雑に言うと、佐藤さんがどんどんオタクになっていったというか(笑)。


佐藤:まぁ、もともとオタクの素養があったんですよ(笑)。


ーーkzさんがfhánaの中で好きな曲というと?


kz:fhánaは曲単位というより、アルバムを聴いていて「すごくいいアルバムだな」と思うことが多いですね。fhánaの曲って、すごく複雑に作られているじゃないですか?


佐藤:本当は簡単で歌いやすい曲にしたいんですけど、そうなっちゃう(笑)。


kz:だから全体を聴いて、「どこを切ってもよかったな」って思えるというか。曲の中に沢山ギミックがあるからですよね。転調もすごく多いですし、曲の作り方としては、僕とは真逆のタイプかもしれないなぁと。


佐藤:でも、僕はkzさんの曲にあるようなダンス・ミュージック的な仕掛け……溜めて溜めてバーッと盛り上げるような展開は出来ないですし。


kz:確かに、曲のビルドアップは僕の方が得意かもしれないです。でも、fhánaの曲っていいメロディがいきなり来て、その後も延々マウント・ポジションで殴られるような感覚で(笑)。ずっとビックリするようなポイントがある。僕は今はアニソン・シーンに限って活動しているわけではないですけど、fhánaはある種近いところにいる存在で、かつFLEETの頃から考えると佐藤さんは活動期間の長い先輩であり、同時にkevinくんのような後輩に当たるメンバーもいて……絶妙な立ち位置なんです。近いようで遠いし、でも遠いわけでもない。僕は追いつけ追い越せという感じで出来たらいいなと思っているんです。


佐藤:いやいや、僕にとってはkzさんはすでに伝説を作っている人で。あと、kzさんは過去のインタビューでも、男らしいことを言いますよね。「日本の音楽シーンのレジェンドたちを追い越していきたい」とか。


kz:僕は「メイク・マネー・マインド」みたいなものがあるんです。もともとロック出身なんで、基本的に思想が攻撃的なんですよ。作品を通して「とりあえずぶん殴ろう」「攻撃を仕掛けよう」という気持ちがあるというか(笑)。でも、fhánaはkevinくんの笑顔とかもそうで、もっと平和な雰囲気ですよね。あと、ひとつのジャンルで形容するのが難しい。バンド・サウンドもあれば打ち込みの曲もあって、定義付けられないけど「fhánaっぽい音楽ってこれだな」というのが一貫してるというか。そういうものがあるのっていいな、と思いながらfhánaの音楽を聴いていたりします。


ーー2人の共通点として、「地理性をなくしてくれるもの=インターネットから人気に火が付いた」という経緯がありますが、ここに対する接し方はお互いどんなものなのでしょう?


kz:でも、インターネットとはいっても地方との距離感って感じるんですよね。作品がインターネットを通して広がっても、実際にライブを観ないと実感は湧かないし。最終的には現場での繋がりが大事で、佐藤さんと会うのも新宿の飲み屋ですしね(笑)。ただ、そこに行きつくまでに色んな過程を踏まなきゃいけないところを、10段飛ばしぐらいで出来たのはすごくよかったな、と思います。


佐藤:僕はFLEETを結成する前に、女の子ボーカルのユニットでレコード会社にデモテープを送っていたんですよ。メジャー、インディー含めて20社ぐらい送ったら、2日後ぐらいに、ほぼ全部から連絡が来て。事務所にも所属してとあるメジャーレーベルの育成部門に入ったりトントン進んだのですが、まだ大学生だったんで、「俺は天才なんじゃないか」と思ってしまいました。おかげでデビューする前に仲が悪くなって、空中分解してしまうんですけど(笑)。


kz:佐藤さんが天狗になっちゃったんですか?


佐藤:天狗になってたし、みんな自意識が強すぎたのかな(笑)。それで自分がボーカル&ギターを担当してFLEETを結成するんですけど、僕は今でも、ライブに苦手意識があるんです。「それでも人に聴いてもらいたい」と思った時に、インターネットがあったというか。それで音源を自分たちのサイトに上げたら、そこから色々広がったんですね。でも、結局は現場に行かなきゃいけない。fhánaはtowanaがボーカルで、自分は横でキーボードを弾いている形なので上手く行ってるのかな、と思うんですけど(笑)。


kz:僕ももともとコミュ障なので、最初はライブってやりたくなくて。「人前に出なくても曲を聴いてもらえるインターネットは最高!」って思っていたし。ただ、昔だと、インターネット自体が新鮮だったから注目してもらえる機会も多かったですけど、結局今は一周回って、現場がないとダメだ、という感じになっていますよね。だからこそ、ライブでお客さんを満足させるための努力はしなければならない。それに今は、自分自身すごく「ライブをしたい」という気持ちになっているんです。


佐藤:僕はライブは苦手でも「やりたい」という気持ちはずっとあったんですよ。高校生や大学生の時に好きだったナンバーガールやスーパーカー、くるりのようなバンドへの憧れもあって、そういうものがやりたかった。でも、当時はあまり向いてないと思ってしまったんですよね(笑)。


kz:僕も佐藤さんが今挙げたバンドは全部好きで、憧れもありますけど、絶対それは自分の出来ることじゃないなって思ったんで、すごく分かります(笑)。


・「「伊達と酔狂」と「義理と人情」が大事」(佐藤純一)


ーーMR(Mixed Reality:複合現実)のように、バーチャルなものとリアルなものが混ざっていくような流れもある昨今ですが、2人は最近のインターネットについて、どんな風に感じていますか。


佐藤:僕は最初から、ネットと現実を分けて考えてはいなかったんですよ。どっちも現実で、ただオンラインか/オフラインかの違いというか。たとえば、Twitterで知り合った人にリアルで会ったりする一方で、先にリアルで知り合った人と「Twitterやってますか?」とフォローしあったりするわけですよね。そのどっちもが現実だというのは昔も今も変わらないです。ただ、昔はもっとインターネットに夢や希望を感じていたけれど、今はそれだけじゃないな、と。


kz:(頷きながら)そもそも僕の「Tell Your World」も、「僕らが一番楽しかったインターネットはもう終わってしまうんだな」と思って作った曲だったんですよ。今はもう、地球の人口の何割かはネットをやっているわけで、インターネットも現実も変わらなくなってきた。だから、「インターネット向けにやるべきこと」というものはないんだなということを感じる部分はありますね。


――だからkzさんは、ライブを通して現実の人たちに向ける活動としてやのあんなさんのとのlivetune+を始動させた、と。


kz:そうですね。やっぱり「体験をしてもらう」ということで。曲を聴くのはYouTubeでも出来てしまうので、何かしらの一回性を求めるというか。今のインターネットって、リアルで楽しかったことを報告して、それをリアルの友達が見るという形になってきていますよね。そういうこともあるからこそ「結局現場なんだな」と思うんですよ。


佐藤:リアルというか、「リアルタイム」ですよね。今ってアニメもリアルタイムで見ながらTwitterとかで共有していくわけで。あと、昔はインターネットも含めて、世界中が繋がることが無条件で良いことだと思っていたんですが、全てが繋がった結果、もともとあった壁がなくなって、その中のコミュニティが破壊されて、どんどん世の中が細分化されていって。そうやってバラバラになっていくことへの恐れのような反応が世界中の色々な局面で出てきているというか。それでSNSで過剰に共感を求めたりとか、繋がり合いたいという気持ちが出てきてるのかな、と思うんですよね。


kz:すごく小さなナショナリズムが沢山あるというか。


ーーそういう時代に「ポップ・ミュージックを作る」となった時に、2人はどんなことが出来たら理想だと思いますか?


kz:僕は「無条件降伏」みたいなものが欲しいです。今って音楽だけじゃない付加情報ーー。たとえばその人がTwitterでどんなことをつぶやいていて、クラスの人気者で、みたいな情報を踏まえた上で「すごい音楽なんだな」と思わされる部分があると思うんですけど、そういうことは一切関係なく、耳に飛び込んできた瞬間に誰かが「これいいな」って感じるような音楽というか。理想論としては、そういうことが可能な世の中になってほしいな、と願っているし、他の人がそういうものを作ってもいい。もちろんそれを自分で作れたら最高です。


佐藤:だからといって、「みんなこういうものが好きかな」と狙って作りすぎたものは弱かったりしますよね。僕は音楽だけじゃなくて、歌詞や曲のテーマも含めて、自分が今本当に興味があって本当にやりたいものを作った結果、「そこに共感してくれる人がいたらいいな」ということを考えているんです。


kz:作っている時の気持ちって、やっぱり(曲に)乗りますよね。怨念みたいなものが入り込む。たとえば、『アイドルマスターシンデレラガールズ』で田中秀和くんが作曲した「Star!!」ってあるじゃないですか? あれにはきっと、(シリーズ前作に当たる『アイドルマスター』の主題歌で神前暁が作曲した)「READY!!」を越えろという指令があったはずで、どうにかしてそれを越えようとする気持ちがあったからこそ、とんでもない転調をしていて、ストリングスのアレンジも狂っているというか。そういうことってあると思うんですよね。「Tell Your World」も制作期間は1週間ぐらいでしたけど、結局はその時の魂の入れようというか。出来たものの強度が全然違ってくるんですよ。


佐藤: fhánaの新作『What a Wonderful World Line』も、かなりパーソナルなアルバムなんです。fhánaでデビューしてから大勢の人と接触した結果、「俺は何なんだ」「そもそも何で音楽をやってるんだ」ということを考えるようになっていて。そういうモード自体をアルバムのテーマに織り込んでいこう、と自分自身に還っていった結果出来たアルバムで。


kz:でも、サウンド自体に閉じた感じはなかったですね?


佐藤:そうなんですよ。内省的になったからって、別にみんながレディオヘッドみたいになるわけじゃない。


kz:むしろ外に広がっているというか、スタンダードなものになっているイメージで。自分のやりたいことをやった結果、それが外に広がるものにもなれるということですよね。それは僕も最近考えていることで、エゴが強ければ強いほど一点突破感があって、それがかえってオープンに聞こえることもあるというか。


佐藤:もちろん、技術あってこそですよね。独り善がりで自分の好きなことだけをやって、他人が聴いても何だかよく分からないものを作ってしまっても意味がないので。結構それって、「生きることそのもの」に通ずると思うんです。「伊達と酔狂」と「義理と人情」が大事だなっていう。


kz:ははは(笑)。


佐藤:「伊達と酔狂」は自分のため。だけどそれだけじゃ暴走しちゃう。「義理と人情」は他人のため。これもそれだけじゃ息苦しい。その2つのバランスを取るとい意味で、人が生きていくうえでも、作品を作っていくうえでも似てるというか。


ーー佐藤さんは、livetune+さんの『Sweet Clapper』をどんな風に聴きましたか?


佐藤:ハッピーな作品ですよね。すごくよかったです。


kz:ああ、ありがとうございます。この作品は、とりあえず幸せなものを作りたかったというか。


佐藤:あとは、最初にも話した、学生の頃に女の子ボーカルと一緒に組んでいた形に回帰していくんだなぁという(笑)。


kz:(笑)。僕は集団行動が苦手なんで、ユニットを組むにしても「2人が限界だな」という気持ちがあったんです。あと、やのと一緒にやろうと思ったのは「自分は女性目線の歌詞しか書けないな」と思ったから、というのもあるんですよ。(livetune名義の14年作『と』に収録された)FUKASEくんとの曲も書いたりはしていますけど、やっぱり僕ってマッチョイズムがないというか。女の子の歌詞を書いている方が楽なんですよ。


佐藤:それって何ででしょうね?


kz:たぶん、「ファンタジー」なんですよね。ClariSの歌詞のように中学生の女の子に清楚で可憐なイメージの詞を書いても大丈夫なわけです。秋元(康)さんの歌詞が成立するのも、そういうことだと思うんですよね。あんな女の子って、正直いないじゃないですか? だから僕も、ウチのやのあんなに「こんな女の子はいない」とか「この歌詞却下」と言われるんですが、それが出来るのは異性だからだと思うんです。同性だとロマンチックな歌詞を書くのは難しい。


佐藤:僕も作家として仕事をするときはやはり歌い手が異性か同姓かを意識するんですが、fhánaの曲に関しては作っているときに、歌い手が異性だということはあまり意識してないんですよね。


kz:それって、towanaさんの音域が広いことが関係しているんでしょうか?


佐藤:確かに音域が広いから自由に作れるという面はありますね。とはいえtowanaの声が魅力的に響くメロディにしようと考えながら作っています。でも、作詞家へのオーダーも含めて、まずは自分が作りたい世界があって、それをどうやって実現するか、という感じなんです。そのビジョンがメンバーとの作業の過程でシンクロしたり、或いは変化したり。そういう作り方が出来るのもバンドだからこそなのかもしれないですね。


・「ライブも自分たちの音楽も、自分たちだけで作っているものではない」(佐藤純一)


ーー今回お互いにlivetune+とfhánaとして新作をリリースして、livetune+さんは6月5日に『SAKAE SP-RING 2016』が、fhánaさんは6月4日にツアー・ファイナルがそれぞれ控えています。お互いのライブの感想について教えてください。


kz:僕はまだ、fhánaのライブは観に行けてないんですよ。たぶん、お互いのライブはどっちも観てないですよね?


佐藤:livetune+のものは観られてないですけど、kzさんがDJをしているところは観てますよ。僕はDJって空気感を作り出す仕事のような気がしていて、まったく同じ選曲で、同じ流れで繋いでも、そのDJがどういう立ち振る舞いをしているかによって印象がだいぶ変わってくると思っていて。


kz:今はそこがすべて、という部分はありますね。


佐藤:だから、DJブースですごいオーラを出している人だからこそ、盛り上がったり感動したり出来るんだなというというのを、kzさんのDJを観ていて感じるというか。バンドの場合、演奏だけに比重を置いて、パフォーマンスに意識が向かない部分もあるんですよ。だから、「もっとこういう風に盛り上げられたらいいな」と。そういうことを、kzさんのステージを観て感じています。


kz:それは嬉しいです。色々なバンドを観ていても、よくないライブって演奏がどうこうよりも、「かっこよくない」ってことだと思うんですよね。DJの場合はそもそも曲が流れているという状況がみんな一緒なので、そこをより意識している部分はあるんですよ。『ボカニコナイト-VocaNicoNight-』の時なんてまさにそうで。


ーーlivetune+としてのライブでは、やのさんとパフォーマンスについてどのように意識を共有しているのでしょうか。


kz:そこは他のユニットやバンドと比べても、まだまだ考えていかなければいけないことは沢山あるというか。でも、やのは「何かやらかしてくれそう」な雰囲気を持っているので、これから一緒に成長出来たらいいなと思います。僕はライブってストーリーが重要だと思うんですよ。途中で音が止まったりするようなトラブルもそのひとつだと思いますし、二次元のアイドルがエモいのも、「色々あってドームに辿り着きました」というストーリー性があるからで。それこそ、fhánaだって、初期のライブと今のライブって違うはずで、お客さんはそこにストーリー性を感じているんじゃないかな、と。「あの時は動きが硬かったけど、今は超かっこいいよね」みたいなことも含めてバンドへの愛になっていくと思うので(笑)。僕らもそういうものを作れるように頑張りたいんです。


ーーfhánaの場合はどうでしょう?


佐藤:ライブにしろ、自分たちの音楽にしろ、自分たちだけで作っているものではないというか。お客さんや、作品を作る過程で関わってくれたスタッフの反応があって、それが次の作品に繋がっていくので、「こういう風にしたい」というよりは、みんなで作った結果が「こうですよ」ということを分かち合う場所になればと思っているんです。もちろん、セットリストや、こんなパフォーマンスをしようということは考えてはいますけどね。


ーーでは最後に、もしも今後kzさんと佐藤さんで何かコラボレーションをするとしたら、どんなことをやってみたいですか?


kz:僕は、バンドと一緒にライブをしてみたいんです。ユニットとしてライブに出演する際、相手がバンドだと、サウンドも全然違うからすごく難しくて。でもfhánaって、その中間に位置している、どっちにもいるようなイメージがある。だからライブも共作もやりやすそうな印象があるんですよ。何かしちゃいます?(笑)。


佐藤:イベントもやりたいですけど、Aメロは一方が作って、サビはもう一方が作る(=コライト:共作)、みたいなことをやってみたいですね。今まで共作の際には「誰かが作曲して、誰かがアレンジして、誰かが作詞して」ということが多かったんですけど、それだと普通なので。


ーーそれを、アニメのタイアップで出来たら最高かもしれませんね。


kz:そのためには色々な問題がありますけどね(笑)。でも、もっと自由であるべきだという風には思います。たとえばEDMシーンだと、10人で曲を作ったりもしているわけで。


佐藤:ハリウッドでも1つの映画の脚本を何人もの人が書いていたりもしますし。1人のカリスマが作るよさもあるけれど、それはそれで面白そう。


kz:1人のよさは色んな人がさんざん提示してくれているので、そうやってまた新しい形が出来てもいいかもしれないですね(笑)。(取材・文=杉山仁)