2016年06月04日 09:41 弁護士ドットコム
飲食店の情報サイト「食べログ」に掲載された口コミで被害を受けたとして、札幌市で飲食店を経営する会社が、店舗情報の削除を求めた裁判で、最高裁はこのほど、店側の上告を退ける決定をした。これによって、「情報の削除を認めない」とした2審判決が確定した。
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判決文などによると、店側は2012年ごろ、食べログの利用者に否定的な内容を書き込まれたため、サイトを運営する「カカクコム」(東京)に対して、口コミを削除するよう求めた。その後、店舗情報の削除を求めて提訴した。
1審の札幌地裁は「サイトの利用者が得られる情報が恣意的に制限されることになってしまうので、(店側の請求は)到底認められない」と訴えを退けた。2審の札幌高裁も「飲食店を経営する以上、社会的に妥当な『口コミ』であれば損失があっても受け入れるべき」と判断していた。
今回の最高裁の決定は、どのような影響があるのだろうか。インターネット上の情報削除の問題に取り組む清水陽平弁護士に聞いた。
「結論的に、今回の決定で、何の影響も生じません。裁判所の結論は、至極当然のものといえます」
清水弁護士はこのように切り出した。どういうことだろうか。
「まず、今回の決定をめぐる報道について指摘しておきたいことがあります。
たとえば、<『食べログ』投稿削除認めず>(朝日新聞)、<『食べログ』情報 削除認めない判決確定>(NHK)などという見出しで報じられています。しかし、字数の関係もあると思いますが、正確とはいえません。
今回の裁判で争点とされたのは、店情報が掲載されている『ページ自体の削除』です。一方で、通常求めるのは『問題部分の削除』です。報道では、この点があまり意識されず、混同されているように感じます」
ふたつはどう違うのだろうか。
「似てはいますが、まったく別のものとして考えることが必要です。前者(ページ自体の削除)は認められないのが原則である一方、後者(問題部分の削除)は認められる余地があります(もちろん、投稿内容を検討する必要はあります)。
したがって、今回のケースは、原則として、認められない前者の類型だったので、最高裁の決定は当然といえるのです」
では、なぜ当然といえるのだろうか。
「『ページ自体の削除をしたい』というのは、気持ちとしてわからなくはありませんが、要は『論評されたくない』ということと同義であると思われます。
しかし、『論評されない自由』を認めることは困難です。もし、認めてしまうと、『表現の自由』と正面から衝突する結果、自由な表現は一切できないことになりかねません。
そのため、気持ちの問題はさておき、このような『ページ自体の削除』を求めることはできません。裁判所は、一貫してこのことを確認しているに過ぎず、実務上も特段の変更はありません。
なお、一つひとつの書込みの削除(=問題部分の削除)を求めるのであれば、内容によっては請求が認められる余地は当然あります。この点についても、何も変わっていません。
ただし、今回のケースではその点の請求はされておらず、判断もされていません。したがって、決定の影響はないといえるのです」
清水弁護士はこのように述べていた。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
清水 陽平(しみず・ようへい)弁護士
インターネット上で行われる誹謗中傷の削除、投稿者の特定について注力しており、Twitterに対する開示請求、Facebookに対する開示請求について、ともに日本第1号事案を担当。2015年6月10日「サイト別ネット中傷・炎上対応マニュアル(弘文堂)」を出版。
事務所名:法律事務所アルシエン
事務所URL:http://www.alcien.jp