2016年06月03日 19:22 弁護士ドットコム
都内の私立高校に勤める30代の女性教諭が、結婚前の旧姓を「通称」として使用できるよう求め、学校側を相手取って、東京地裁に訴訟を起こしている。一時は、和解の道も探られていたが、学校側は戸籍姓の使用を譲らず、裁判所の判断を仰ぐことになりそうだ。早ければ、7月に結審する。
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女性側の代理人弁護士4人が6月3日、東京・霞が関の司法記者クラブで会見した。早坂由起子弁護士は「通称の使用が広がっている中、時代に逆行している」などと語った。女性は同席しなかったが、訴状では「旧姓こそが自己を表す唯一の氏である」としている。
訴状などによると、女性は10年ほど前に着任。数年前、結婚によって姓が変わった。旧姓を通称として使用できるよう学校に求めたが、すべての場面で戸籍姓を使うよう命じられた。現在、女性は公的には戸籍姓で扱われているが、同僚の教職員や生徒、保護者からは従来通り、旧姓で呼ばれているという。
女性は通称の使用を求め、2014年、町田簡易裁判所に民事調停を申し立てたが、和解は不成立。2015年、東京地裁に提訴した。
裁判では、双方から和解案が示されている。女性は、生徒や保護者など、外に向かっては旧姓使用を求めるが、内部的な資料については戸籍姓でも構わないとしている。一方、学校側は内部資料では旧姓を認めるが、それ以外は戸籍姓、もしくは戸籍姓と旧姓の併記しか認めないとした。双方の意見は平行線を辿っており、和解が難しい状況だ。
早坂弁護士は、「管理の都合から内部的には戸籍姓ということはよくあるが、これでは女性の本意とは真逆。併記だと、どちらで呼べば良いか分からないし、戸籍姓が優先され、旧姓はかっこの中に入ってしまう」と語った。
弁護団によると、通称の使用をめぐっては過去に2件の裁判があり、もっとも新しい2002年の判決では、使用が認められた。榊原富士子弁護士は「14年もたっているのに、残念ながら同じような裁判をせざるをえない」と話した。
最高裁判所は2015年12月、夫婦別姓を認めないのは違憲ではないとする判決を出した。その根拠は、通称の使用が広まることで、姓が変わることによる不利益が緩和されるというものだ。また、結婚前の姓で築いた信用などを結婚後も維持することは、「人格的利益」であるとも述べている。
女性側が裁判所に提出した資料によると、教員の通称使用は公立私立問わず、広く認められる傾向にある。また、女性が勤務する高校の系列校でも、ほとんどで通称を使用できる。弁護団は、裁判所に対し、こうした潮流を踏まえた判決を望んでいる。
(弁護士ドットコムニュース)