2016年06月02日 11:42 弁護士ドットコム
帝国ホテル東京の関係者とみられる人物が「芸能人がいた」とツイッターに投稿したことを受けて、同ホテルは5月20日、業務委託先の従業員が投稿したことを認めて謝罪するコメントをウェブページ上に掲載した。
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この従業員は5月中旬、「帝国ホテルで働いているんだけど」と明かしながら、「(AKB48の)渡辺麻友がいたんだがwww」などと目撃情報をツイートしていた。すでに、このアカウントは削除されている。
帝国ホテルは「業務委託先企業の従業員が、SNS上にお客様に関する情報を発信するという事態が発生いたしました」「書き込みの内容は、ある方が帝国ホテル東京に来館されたというものでしたが、そのような事実はございません」と説明している。
これまでも、ホテルの従業員などが、芸能人やスポーツ選手の目撃情報を個人のSNSに投稿して問題になったケースは起きている。こうした投稿は法的に問題あるのだろうか。帝国ホテルは来館の事実を否定しているが、もしデマだった場合も問題になるのだろうか。インターネットの法律問題にくわしい影島広泰弁護士に聞いた。
「『誰が・いつ・どこにいた』という目撃情報をSNSに投稿した場合、大きな問題となるのは、プライバシー権の侵害です」
影島弁護士はこのように述べる。どんな情報を投稿したら、プライバシー権を侵害したことになるのだろうか。
「『宴のあと』事件で示された基準が広く用いられています。『宴のあと』は、三島由紀夫の小説で、実在人物をモデルにしていました。
この事件の判決では、公開された内容が、
(1)私生活上の事実または私生活上の事実らしく受け取られるおそれのあることがらであること
(2)一般人を基準として考えたときに、公開を欲しないであろうこと
(3)一般の人々に未だ知られていないことがらであること
であって、公開によって不快・不安の念を覚えた場合、プライバシー権を侵害するとされました」
今回のケースにこの基準を当てはめるとどうなるのだろうか。
「(1)ある芸能人が『●●ホテルにいた』ということは、仕事でホテルに来ているのでない限り、『私生活上の事実』といえる可能性が高いと思われます。
(2)また、そのような情報は、一般的には公開して欲しいと思わないでしょうし、(3)一般の人々に知られていません。
したがって、このような情報を公開することは、プライバシー権の侵害になり得ます」
テレビに出演するような芸能人でも、プライバシー権の侵害になるのだろうか。
「もちろん、芸能人であれば、一般人より保護されるプライバシーの範囲が狭くなることは考えられます。
しかし、芸能人であっても、プライベートな時間にどこにいるのかという情報は、プライバシーとして保護されるのが通常だと考えられます」
今回のケースで、帝国ホテルは「来館した事実はない」と説明している。実際にその人がホテルに来ていなかった場合はどうだろうか。
「(1)をよく見ると、『私生活上の事実らしく受け止められるおそれがあることがら』もプライバシー権として保護されます。
したがって、その人が実際にはホテルにいなかったとしても、『その人がそのホテルにいた』ことが本当であると受け止められるおそれがあれば、やはりプライバシー権の侵害が問題となります。
SNSに人の目撃情報をむやみに投稿することは、たとえ本当であっても、間違いであっても、プライバシー権を侵害したとして、損害賠償などを求められる可能性があるので、注意が必要です」
影島弁護士はこのように述べていた。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
影島 広泰(かげしま・ひろやす)弁護士
03年弁護士登録。ITシステム・ソフトウェアの開発・運用に関する案件、情報管理や利活用、ネット上の紛争案件等に従事。日本経済新聞2015年「企業が選ぶ弁護士ランキング」の情報管理部門で企業が選ぶランキング3位・総合ランキング2位。
事務所名:牛島総合法律事務所
事務所URL:http://www.ushijima-law.gr.jp/