昨年12月、58歳の男性が大麻所持で逮捕され、その裁判に注目が集まっている。被告男性は「末期がん患者」で、こう無罪を主張しているからだ。
「現代医療に見放された中、自分の命を守るために(大麻の栽培、所持、使用を)行った。憲法で保障された生存権の行使である」
大麻取締法によれば逮捕は当然だが、5月29日の「そこまで言って委員会NP」(読売テレビ)では、このような末期がん患者を「犯罪」にすることに納得できるかできないか、パネラーたちの意見が飛び交っていた。(文:みゆくらけん)
違法行為を承知で栽培。腫瘍マーカーの数値も低下
被告の男性は、2013年に肝臓がんが見つかった。2014年には余命半年~1年の末期がんと診断され、「打つ手はない」と宣告されたという。希望を捨て切れなかった被告がインターネットで調べたところ、大麻ががんの改善に有効な可能性があるという情報を見つけた。
被告は法務省・厚生労働省に「大麻を医療目的で使うにはどうすればよいか」を相談したが、「日本では禁止されている」との説明を受けた。製薬会社にも自身の体で医療用大麻の臨床試験を行って欲しいと申し出たが、日本国内では不可能だと返されたという。
その後被告は、自宅で大麻を栽培。使用したところ、痛みが和らいだり、腫瘍マーカーの数値が20分の1に減ったという。この結果は、本人には「朗報」でしかない。
しかし「逮捕は当たり前」としたのは、内閣官房参与の飯島勲氏。「患者がそう言おうと、法律がある以上ダメだ。いくら末期ガンでも我慢せざるを得ない」。これに対し、ジャーナリストの長谷川幸洋氏は、こう指摘した。
「だから、まさにその『法律』がおかしいんじゃないのかっていうのが、今問われていることの本質だ」
「若いヤツが面白半分にするのと、同じにしたくない」
長谷川氏は、「そもそも大麻が本当に体に悪いのかという議論もある」とし、アメリカでは多くの州が医療用大麻を認めている現実や、大麻研究30年の人物のコメントも踏まえ、こう意見した。
「もう『法律だからダメ』っていうレベルではないんじゃないの?(僕は)医療用ぐらいだったら認めてもいいんじゃないかっていう考え」
長谷川氏の「医療用なら認めていい」には、他のパネラーからも「賛成!」の声が上がった。元外交官の宮家邦彦氏は、がんで死んでいった自身の友人たちを思い、しみじみこう話す。
「友達がね、死んでいくんだよ。最後の日々を見ていると、『楽にさせてあげたい』っていう気持ちがあるんだよね。若いヤツが面白半分に大麻や覚せい剤をするのと、60、70歳になって(がんと)宣告されて最後を清く美しく生きたいっていうのとを、同じにしたくない」
宮家氏がいうように、嗜好品として遊び目的で使用する大麻と、病気の苦しみ・痛みなどを緩和させるために使用する大麻では、意味がまったく違う。そもそもモルヒネなど医療用麻薬とされているものはあるのに、なぜ大麻だけが認められていないのだろう。
また、被告が主張するように、大麻に本当にがんを改善させる効果があるのなら、そこは専門家に徹底的に調べてほしいと思う。
「死ぬまで法律は守るべき」という視聴者もいるが
最終的に飯島氏含め、パネラー全員が「医療用大麻の解禁に賛成」となった。しかし、ゲストのジャーナリスト、ジェームズ・シムズ氏(米フォーブス誌記者)は、過半数の州で医療用大麻が認められているアメリカの実情について、「医療目的と言っていても、抜け道で嗜好品として使っている例も結構あるということを忘れてはいけない」とクギを刺している。
今回の裁判を受け、ネットでは被告を擁護するこんな意見が上がっている。
「医者に見捨てられたならそりゃダメもとでやるわな」
「本当に効果あるなら研究進めて処方薬として合法化すべき」
「末期ガンの患者が大麻で少しでも楽になるんだったら使ってもいいと思うんだがなぁ」
一方、「死ぬまで人間なら法律は守るべき」「たとえ悪法でもそんなのはいくらでもある。その中でみんな折り合いつけて生きてんだから」という否定派の声もあがっている。さて裁判の行方はどうなるのか。
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