世界一の伝統を誇るインディ500は、今年が記念すべき100回目の開催。例年以上に注目度は高く、全長2.5マイルの巨大スピードウェイは40万人を超える超満員のファンで埋め尽くされた。90年代前半までの熱狂がインディに帰ってきたのだ。
今年が7回目のインディ500となる佐藤琢磨(AJフォイト・レーシング)は、黄色と青のスペシャルヘルメットを被って12番グリッドからスタートを切った。
■セッティングに苦しんんだ序盤
最高気温が摂氏28度まで上昇した決勝日、多くのマシンがダウンフォースを多めに設定していたが、琢磨はマシンの動きが不安定でポジションを落としていく一方だった。ピットインする度にセッティングを変更、200周のレースが60周を越えた頃には20番手前後での戦いを余儀なくされていた。
ところが、4回目のピットストップを終えると、ようやくマシンのバランスがコンディションにマッチ。16番手まで浮上したところでフルコースコーション発生。ピット作業の速さに助けられた後、コース上ではスコット・ディクソン(チップ・ガナッシ)やグラハム・レイホール(レイホール・レターマン・ラニガン)とバトル。129周目にトップ10入りして9番手まで上がり、144周目を終えると彼らより前の6番手を走るまでになっていた。
この後、大きなポイントとなるイエローが150周目に出された。その直前にピットしていたエリオ・カストロネベス(チーム・ペンスキー)やトニー・カナーン(チップ・ガナッシ)にとってはラッキーだった。琢磨陣営はピット入り口がオープンになってから給油。これで順位は6番手から10番手に下がった。
158周目にレース再開。計算では残り1回のピットでゴールとなり、ここからの2スティントが勝負。琢磨は得意のリスタートでポジションアップすることが期待されたが、逆に4つもポジションダウン。そのすぐ後にターン4立ち上がりで姿勢を乱し、右フロントホイールからウォールにヒット。サスペンションへのダメージが大きく、ピットに戻ってリタイアとなった。
■感じたトップチームとの準備力の差
「難しいレースになっていました。スタートしてみると、自分たちのマシンはトラフィックでグリップがなく、ピットインの度に多くのセッティング変更を施した。ダウンフォースを増やしてバランスを取っていった。グリップが下がる不安はありながら、正反対のダウンフォースを減らすセッティングをリクエストしました。それを試すとスピードが戻ってきた。130周という長い時間をかけて、マシンをコンディションに合わせ込むことができたのは良かった」
「しかし、悪いタイミングでイエローが出て、順位を落として、その後に追い上げようとしていたところ、ターン4で前のマシンに近づき過ぎたのかダウンフォースがなくなり、アウトに膨らんでしまって、グリップがなくなり壁にヒット。残念ですね。悔しい結果です。今年は第100回目のインディ500。このレースに出場できたことには心から感謝しています」と琢磨はガッカリしていた。
琢磨自身が語っているように、難しいコンディションにマシンセッティングを合わせることはできた。しかし、そこまでに少々時間がかかり過ぎていた。そして、そのセッティングも決して完璧なレベルにまでは達していなかったため、アクシデントに繋がってしまった。プラクティスでの走行量の少なさが、結局最後まで響いた印象だった。
チームメイトと協力してトラフィックを作り出してのデータ収集は、優勝したアンドレッティ・オートスポートが5台を走らせる最大体制を活かし、走行初日から連日繰り返し行っていたものだ。エンジニアリングのレベルは着々と高めているAJフォイト・レーシングは、クルーの仕事もピットストップに関してはクォリティがかなり上がっている。今後はマシンの準備、作戦を含めたチームのマネジメントをステップアップさせる努力が必要だ。