2016年05月31日 17:02 弁護士ドットコム
暴力団幹部が殺人未遂の罪に問われている裁判員裁判で、被告人の知人とみられる男が法廷の外で、複数の裁判員に「よろしく」などと声をかけていたことがわかり、裁判所が判決期日を取り消した。
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報道によると、この裁判では、北九州市に本部がある特定危険指定暴力団「工藤会」系の暴力団幹部が、知り合い男性を日本刀で刺したとして、殺人未遂の罪に問われている。5月10日から、福岡地裁小倉支部で審理がおこなわれていた。
ところが、すべての審理が終わった5月12日、複数の裁判員が裁判所を出てきたところで、被告人の知人とみられる男が「よろしく」と声をかけてきたのだという。同支部は、5月16日に予定していた判決期日を取り消した。
裁判員法は、裁判員に請託(特別にとり計らうよう依頼)したり、威迫(脅迫)する行為は禁止しているが、「よろしく」と声がけをすることも含まれるのだろうか。また、裁判員制度自体に問題はないのだろうか。元裁判官の田沢剛弁護士に聞いた。
「裁判員裁判は、ことし5月21日で、スタートから満7年を迎えましたが、被告人の関係者が裁判員に接触したことを理由に判決期日が取り消されたのは、過去に例がないようです」
田沢弁護士はこのように述べる。今回のケースは、裁判員法に違反するのだろうか。
「裁判員または補充裁判員に対して、その職務に関して『請託』した者は、2年以下の懲役または20万円以下の罰金が科されます(裁判員法106条1項)。
また、裁判員、補充裁判員、または過去にこれらの職務にあった人、その親族に対して、面談、文書の送付、電話その他の方法を問わず、『威迫』した者も、同様に2年以下の懲役または20万円以下の罰金が科されます(同法107条1項)。
今回のケースは、少なくとも、前者(106条1項)の罪に該当する可能性が高いと考えられます。つまり、声がけをした暴力団関係者の知人とみられる人物は、今後、裁判員法違反に問われる可能性があります」
判決期日が取り消された裁判の行方はどうなるのだろうか。
「工藤会系の暴力団幹部が被告人となっている以上、声がけされた裁判員としては、後難を恐れて、判決評議で正常な判断ができなくなる可能性があるでしょう。
仮に、声がけをされた裁判員本人が何も気にしていなかったとしても、最終的な判決そのものに対する国民の信頼が得られるのかどうかも、疑問が残ります。
そうなってくると、声がけをされた裁判員をこのまま判決評議に参加させることは、刑事司法の廉潔性、公平性の観点からしてやはり相当とはいえなくなってきます。
裁判員を新たに追加で選んだり、公判手続を更新したうえで、改めて判決を言い渡すか、裁判員裁判の対象事件から除外する決定をしたうえで、裁判官だけで審理を進めることに変更するということも予想されます」
制度に問題点はないのだろうか。
「裁判員は、裁判所の建物内では保護されているものの、いったん外に出てしまうと、被告人の関係者から接触される危険性があるということです。
もちろん、職業裁判官でも、この点は同じことがいえます。しかし、裁判員の場合は、みずから望んで裁判員になっているわけではありません。
制度スタート後、裁判員を辞退する候補者の割合が増えていることを考えると、『裁判員の身の安全をどう確保するのか』といった課題の解決は、急務といえるのではないでしょうか」
田沢弁護士はこのように述べていた。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
田沢 剛(たざわ・たけし)弁護士
1967年、大阪府四条畷市生まれ。94年に裁判官任官(名古屋地方裁判所)。以降、広島地方・家庭裁判所福山支部、横浜地方裁判所勤務を経て、02年に弁護士登録。相模原で開業後、新横浜へ事務所を移転。得意案件は倒産処理、交通事故(被害者側)などの一般民事。趣味は、テニス、バレーボール。
事務所名:新横浜アーバン・クリエイト法律事務所
事務所URL:http://www.uc-law.jp