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GP topic:実戦初投入の新ウエットタイヤとウルトラソフトに賭けたハミルトン

2016年05月31日 12:41  AUTOSPORT web

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F1モナコGPの決勝レースは、レッドブルの戦略ミスに大きな疑問が投げかけられた。レッドブルのクリスチャン・ホーナー代表は「ピットのコミュニケーションミス」とチーム側に責任があったことを認めている。しかし、それ以外にも、ふたつのクエスチョンマークが残る。

 ひとつめの疑問は、なぜハミルトンはウエットタイヤで31周も走行し続けることができたのかということだ。ハミルトン以外で、ウエットから直接ドライタイヤにスイッチしたのはマノーのパスカル・ウェーレインだけだった。

 ピレリのレーシングマネージャー、マリオ・イゾラは「実は、ウエットタイヤは、このモナコGPからトレッド面のパターンが変更されていた」と言う。

「今年1月のポール・リカールで行われたウエットテストで新しいトレッド面を試していたが、その後、改良する時間が必要で、開幕3戦は昨年と同様のウエットタイヤが投入された。4戦目のロシアGPから新しいウエットタイヤが投入されていたが、ロシアGPは週末すべてドライセッションだったので、F1で使用するのはモナコの日曜日が初めてだった」



 つまり今年のモナコGPは、ぶっつけ本番でウエットタイヤを履いてレースをスタートすることになっていたのだ。そのため、ウエットからインターミディエイトへタイヤを交換する「クロスオーバー」のタイミングは、どのチームも予測しづらかった。3位表彰台を獲得したフォース・インディアの松崎淳タイヤ&ビークルサイエンス部門シニアエンジニアも「手堅い作戦を採りました」と、未知数のウエットタイヤで引っ張るのは危険だと考えていた。

 ハミルトンの作戦はギャンブルだったが、結果的に当たったというわけだ。

 もうひとつの疑問は、なぜ30周くらいしかもたないと考えられていたウルトラソフトで、ハミルトンは47周も走ることができたのか。

 この点に関して、イゾラは次のように説明する。

「私が30周前後と言ったのは、デグラデーションを考えてウルトラソフトからスーパーソフトにスイッチするタイミングのことで、摩耗的には50周ぐらい走ることができる」



 また、チームによってドライタイヤの選択が3種類に分かれた理由について、松崎エンジニアは「コンパウンドによって特性が違うので、マシンのセットアップも特定のコンパウンドに合わせて行います、われわれはソフトに合わせていたから、ドライになったときにソフトを履かせました」と解説する。

 チームは作動温度領域や走行可能な周回数によってコンパウンドを決めているのではなく、自分たちのマシンのセットアップに合ったコンパウンドを、レースでのメインタイヤとして選択しているのだ。つまり、もしドライコンディションでスタートしていたら、メインのタイヤは、メルセデスがウルトラソフトで、マクラーレンやウイリアムズはスーパーソフト、フォース・インディアとフェラーリはソフトだったと考えられる。

 最後に、ハミルトンには、もうひとつ幸運があった。ウルトラソフトで走り続けるハミルトンを見て、ホーナーは「最後まで、もたないだろう」と思っていたという。確かにファイナルラップでニコ・ロズベルグのウルトラソフトはガケに達して、フォース・インディアのニコ・ヒュルケンベルグに逆転を許した。では、なぜハミルトンは無事だったのか。予選Q3でトラブルに見舞われて、1回しかアタックに出て行くことができなかったため、ウルトラソフトのニュータイヤが1セット残っていたからだ。

 ハミルトンとロズベルグは、ともに31周目にタイヤ交換を行い、最後のスティントは同じ47周を走行した。しかし、履いていたタイヤはハミルトンが新品だったのに対して、ロズベルグはQ3で4周を走ったユーズドだった。あと4周で、ハミルトンにもガケが来ていたかもしれなかった。レッドブル陣営のミスに助けられただけではなく、ハミルトンのモナコ優勝には多くの幸運が味方していたのだ。