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黒木華、『重版出来!』の衣装が目を引くワケ スタイリスト・堀越絹衣氏の仕事に迫る

2016年05月31日 06:01  リアルサウンド

リアルサウンド

 黒木華主演ドラマ『重版出来!』(TBS系/毎週火曜22時~)の“衣装”が、ドラマファンの注目を集めている。一話目の放送からSNSでは、「着ている服が可愛くて真似したくなる」「衣装が個性的でおもしろい」などの声があがっており、同作の見どころのひとつとなっているようだ。個性の強いキャラクターが次から次へと登場するこのドラマは、柔道少女である主人公・黒沢心が、新人編集者として週刊コミック誌「バイブス」編集部に配属され、編集部員や漫画家、営業担当、書店員たちとの交流を通して成長していく模様を描いた“職業ドラマ”。登場人物のキャラクターをうまく反映した衣装が、それぞれの役割をより明確にし、その関係性を鮮やかに描き出していると評判だ。


参考:黒木華、『重版出来!』に見る“芝居の引き出し” いかにしてコミカルな役柄をものにした?


 主人公の黒沢心(黒木華)は、何事にもポジティブで、明るく元気な“体育会系女子”。子供のように純粋無垢な一面も見られる彼女の衣装は、カラフルでポップな柄物が多く、また、一本筋が通った性格を表すように襟付きの洋服を着ていることが多い。色彩豊かで可愛らしい衣装は、特に同世代の女性から支持されている。編集部員の壬生平太(荒川良々)は、陽気でお調子者な大食漢で、いつも目立つ色のラフな格好をしている。食いしん坊キャラを際だたせるように、毎回食べ物に関連したイラストや文字が入ったインパクトのあるTシャツを身に着けているため、思わず笑ってしまう。


 営業担当の小泉純(坂口健太郎)は、営業先の書店で、ユーレイとアダ名されるほど、控えめでおとなしい性格。営業部ということもあって、グレーや青、紺など地味な色合いのスーツをキッチリ着ている。ネクタイは本来スーツにおいて一番個性をアピールしやすいポイントだが、自己主張が苦手な性格を表すようにノーネクタイだ。新人漫画家の中田伯(永山絢斗)は、複雑な生い立ちのため、他人の気持ちが理解できず、漫画以外のことに関しては無頓着。絵はド下手だが、ストーリーやコマ割りについては天才的な才能を持つ。そんな彼は、心を閉ざしている様を表すように、グレーなどの暗色が多く、肌をあまり露出していない。ファッションへの関心のなさを表すように、ノームコアで同じ衣装を着ていることも多い。


 衣装を手がけるのは、『すーちゃん まいちゃん さわ子さん』『東京オアシス』『かもめ食堂』などでもスタイリングをおこなった、堀越絹衣氏。過去作では、大人の女性が持つ朗らかで素朴な雰囲気を、優しくポップな色使いと繊細なディテールの衣装で、どこか浮世離れしたイメージに仕上げてきた。なかでも、フィンランドにて撮影した『かもめ食堂』の小林聡美、片桐はいり、もたいまさこの衣装は、役者陣のユニークな資質を際立たせ、作品の持つファンタジックな魅力を引き出していた。


 一方で、今回の『重版出来!』は、これまでの衣装とまた異なる印象で、よりリアリティ志向が強い。編集者たちが奮闘する現場を気迫のあるタッチで描いた、いわゆる“スポ根モノ”に属する作品だけに、その衣装も実際の編集部にいそうな現実味あるものとなっている。そのうえで、一人ひとりのキャラクターを活かした服装を意識しており、特に黒崎心は主人公ということでひときわ目を引く衣装にしているようだ。しかし、作品の世界観に寄り添った衣装で、その魅力を引き出すという点においては、これまでの堀越氏のスタイリングの延長線上にあるといえる。


 堀越氏が衣装を担当した映画『トイレット』で主演を務めたデイヴィッド・レンドルは、当時のインタビューで彼女について言及している。「スタイリストのホリコシ(堀越絹衣)さんは真のプロフェッショナルだった。ホリコシさんは映画やキャラクターをよく理解して考え抜いた上で衣裳を選んでくれて、いままでここまでプロフェッショナルな仕事をするスタイリストには出会ったことがなかったよ。」(参考:オールカナダロケの『トイレット』荻上直子監督×主演俳優 カルチャーギャップトーク)


 また、同作品でとメガフォンをとった荻上直子監督も、「ファッションは完全にスタイリストの堀越絹衣さんにお任せしています。何作か一緒に仕事をしていますが、私があれこれ言うより彼女が脚本を読んで感じたままの衣装を持ってきてくださるほうが面白いものになるんです。アイデアもたくさんあって細部まで考えてくださるので、本当に信頼できる方ですね」(参考:『トイレット』 荻上直子監督 インタビュー)と語っている。役者や監督から絶大な信頼を得る堀越氏は、ドラマや映画、ファッション雑誌のスタイリングのみならず、乃木坂46の歌衣装なども担当するなど、幅広い分野で活躍している。作品の意図や魅力を汲み取り、そのシチュエーションで、その人物に最も適した衣装を選び抜く才能は、『重版出来!』でも存分に発揮されているといえるだろう。


 本来“衣服”とは、身体の保護はもちろんだが、その装飾やスタイリングによって社会的地位や個人の趣味を表すために着用するものである。それが物語における“衣装”となると、さらに意味を持って、ときには台詞以上にものをいうこともある。的確なスタイリングは、キャラクターの性格や心情をわかりやすく伝え、視聴者をよりドラマの世界に惹きこんでいくのだ。『重版出来!』の衣装もまた、その熱い物語に説得力を与える“名役者”のひとりであるに違いない。(戸塚安友奈)