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モナコGP決勝分析:ハミルトン「前にいること」を優先した、綱渡りの決断

2016年05月30日 16:41  AUTOSPORT web

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ただひとり、モナコの定石「1ストップ」で走破したハミルトン。おそらくリカルド陣営のミスがなければ優勝はできなかったかもしれない。だが、それもレース
セーフティカー先導による、ウエット状態でのスタートとなった2016年F1モナコGP。まず、確勝を期してレッドブルが事前に打っていた手立ては、レース当日の天候によって打ち砕かれる。 

ドライを想定したスタート戦略は水のあわに

 予選トップ10に進出したドライバーは、Q2でベストタイムをマークしたタイヤでレースのスタートに臨まなければならない。そのために、レッドブルは最もタイムの出るウルトラソフトではなく、ひとつコンパウンドの硬いスーパーソフトでダニエル・リカルドをQ2の2回目アタックに臨ませた。

 リカルドはスーパーソフトでQ2の自身ベストタイムを刻み、予選最終セッションとなるQ3ではウルトラソフトでポールポジションを獲得した。グリッド2番手、3番手のメルセデス勢はウルトラソフトでのスタートだ。

 今回モナコが初登場だったウルトラソフトはデータ不足なところもあり、どうしてもレースでの長い連続周回の耐久性には不安を残す。「抜けないモナコ」という要素も考慮し、レッドブルはレースペースやロングスティントにおいて、より計算の立つスーパーソフトをリカルドのスタートタイヤに持ってきていた。



 ところが、予選トップ10のスタートタイヤ装着義務は、レース日もドライコンディションが保たれた場合の話だ。決勝日のモナコは雨に見舞われ、ウエットレースとなった。全車にウエットタイヤの装着が義務づけられ、レースはセーフティカー先導でのスタートとなる。これでタイヤは、全車が同条件となったわけだ。

 セーフティカーは7周目の終わりで解除された。この周でルノーのケビン・マグヌッセンがピットに飛び込み、浅溝のインターミディエイトへの交換作業を行なった。同じころチームメイトのジョリオン・パーマーが白線に乗ってクラッシュしたため、次の周にはコース上がバーチャル・セーフティカー(VSC)状態となったことも手伝い、マクラーレンのジェンソン・バトン、ザウバーのフェリペ・ナッセ、トロロッソのダニール・クビアトが同じくインターミディエイトへと早めに交換した。

アンダーカットができない、モナコの掟

 VSCが解除となった10周目、リカルドの刻んだファステストラップを、すぐさまバトン、ナッセとインターミディエイト勢が相次いで塗り替える。路面の水量が減りつつあったことは確かだが、上位勢は容易にタイヤ交換の選択には動けない。ここはモナコだ。作業を終えてコースに戻ったとき、もし遅いクルマに捕まれば、自分のほうが速かったとしても簡単に抜けるものではない。

 上位勢では4番手フェラーリのセバスチャン・ベッテルが13周終わりでインターミディエイトへの交換を行い、これが上位勢で最も早いタイミング。しかし、ピットアウト後のベッテルはウエットタイヤで走行を続けるウイリアムズのフェリペ・マッサを抜けず、まさに「聖地の掟」どおりに優勝戦線から脱落した。



 ほどなくして、メルセデスのチーム内で戦略的判断が下された。2番手を走るニコ・ロズベルグは一向にペースが上がらず、15周目の時点で先頭リカルドとのギャップは12秒台にまで開く。チームは、まずロズベルグにペースアップを指示。それでもロズベルグのペースが上がらないことを見てとると、ずっと背後に詰まっていたルイス・ハミルトンを前に出すよう、新たな指示を出した。いわゆるチームオーダーだが、ロズベルグは了承し、16周目にハミルトンへ先を譲る。

 リカルドは23周終わりでインターミディエイトへの交換に向かった。もうピット作業によるタイムロスがあっても、ハミルトン以外にポジションを奪われることはないリードがあったからだ。ハミルトンは、さらにウエットタイヤでの走行を続け、27周目にはインターミディエイト交換後のリカルドに対するマージンが1秒を切るまでになった。

ウエットから一気にドライへ交換したハミルトン

 ペース差は明らかだが、それでもハミルトンはコース上に残る。そしてレースが30周目を迎えたとき、後続で戦略面での大きな動きがあった。ザウバーのマーカス・エリクソンがドライタイヤへの交換を行ったのだ。

 まだギャンブル的な要素は強かったが、路面はドライ近くまで回復しつつある。そこでハミルトンは31周目にピットへ向かい、ドライタイヤのなかでウルトラソフトを選択した。

 ただ路面は、まだドライタイヤ有利とは言えない状況で、リカルドはそこからの1周をインターミディエイトで攻めに攻める。タイヤ交換を行っても、まだ十分にハミルトンにマージンを保った状態でピットに飛び込んだ──はずだった。



 ところがレッドブルでは、指揮系統に問題が生じていた。レースは46周を残す状況で、チームはドライタイヤのスペック選択に迷い、ピットクルーへの指示が遅れる。結果リカルドが戻ってきたとき、まだ選択したスーパーソフトの準備は完了していなかった。リカルドはピット前で、10秒ほどの貴重な時間を失うことになる。このロスにより、わずかな差でハミルトンに前に出られてしまった。

ぎりぎりで成功した勝者と失敗したロズベルグ

 ハミルトンは耐久性が不安視されたウルトラソフトで、実に78周中47周の周回をこなし、2008年以来のモナコ2勝目を飾った。だが、これも抜けないモナコゆえの、まさに「綱渡り」──。

 僚友ロズベルグはハミルトンと同じ31周終わりに連続作業で同じウルトラソフトを履いたが、最後にはタイヤが終わってしまい、フォース・インディアのニコ・ヒュルケンベルグにフィニッシュ目前、6位のポジションを明け渡した。ハミルトンは新品、ロズベルグは使用済みの違いはあったにせよ、メルセデスの戦略はタイヤ寿命がいつ尽きるかはわからない、ぎりぎりの選択だったのだ。