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月9『ラヴソング』で藤原さくら、新山詩織に楽曲提供 福山雅治の“プロデュース力”を探る

2016年05月30日 16:11  リアルサウンド

リアルサウンド

藤原さくら『Soup』

 現在放映中の福山雅治3年ぶりの月9主演ドラマ『ラヴソング』(フジテレビ系)。本作は、かつてプロデビューしながらもヒットに恵まれずに引退し、カウンセラーとして日々を送る男性が、天性の音楽の才能を持つ吃音の女性と出会い、新たな一歩を踏み出すという恋愛ドラマだ。福山はこの元ミュージシャンという役どころで、ヒロインには昨年デビューしたばかりの新人シンガーソングライター・藤原さくらを起用。異例の配役は、TV界隈のみならず音楽業界も騒然とさせた。


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 本作で藤原は主題歌「Soup」(6月8日発売)を担当しているが、この楽曲の作詞作曲を手がけたのがまさに福山雅治その人。福山は今回、劇中歌として藤原が歌う「好きよ 好きよ 好きよ」、かつての恋人役で出演する新山詩織(ここにも、注目の女性シンガーソングライターを配置!)が歌う「恋の中」(6月29日発売)の計3曲をドラマのために書き下ろしている。これまでにも自身の出演ドラマがらみで何度か女性アーティストに楽曲提供を行ってきた福山だが、これほど熱を入れた作品はおそらく初めて。プレイヤーとしてだけではない一面を、改めて知らしめたと言える。そこで今回は過去作を振り返りながら、福山雅治のプロデュース力を紐解いていきたいと思う。


 福山が初めて女性アーティストに楽曲を提供したのは1999年。自身主演ドラマ『パーフェクトラブ!』(フジテレビ系)の挿入歌として、松本英子に「Squall」を贈った際だ。本作は当時、挿入歌としては異例の40万枚を超えるスマッシュヒットを記録。のちに自らセルフカバーも行っていることから、福山自身にとっても思い入れの強い楽曲であったことが見て取れる。


 その後、2007年には『ガリレオ』(フジテレビ系)で共演の柴咲コウをボーカルに据えたユニット“KOH+”を結成し、「KISSして」を発表。KOH+は翌年公開された劇場版『容疑者Xの献身』の「最愛」、そして2013年に放送された『ガリレオ 第2シーズン』での「恋の魔力」と、シリーズ通して主題歌を務め、アルバム『Galileo+』もリリースするなど、長期に渡る活動となった。劇中の相手役として、音楽活動のパートナーとして柴咲とはフィーリングが合ったのだろう。MVでのギターとバックボーカルに徹しながら、非常に活き活きした福山の姿が印象的だ。


 続いて楽曲について見ていくと、「Squall」では王道のバラード、「KISSして」は疾走感あふれるロック、「最愛」で再びミディアムナンバーに挑戦し、「恋の魔力」では軽快なポップチューンと、実に幅広いサウンドを展開しているのがわかる。これは、福山自身の引き出しの多さゆえ。自身の楽曲を見てもそうだが、彼はとにかくさまざまなジャンルの楽曲を歌いこなすポテンシャルの持ち主だ。その曲作りの才能が、プロデュースという場面においても発揮されていると言っていいだろう。


 女性目線の歌詞も堂に入ったもので、<愛さなくていいから 遠くで見守ってて 強がってるんだよ でも繋がってたいんだよ あなたが まだ好きだから>(KOH+「最愛」)、<ねえ あなたとわたし それぞれの当たり前を ねえ 恋という名の ひとつのお鍋に詰め込んで煮込んだら どうなるの?>(藤原さくら「Soup」)と、乙女心全開のワードが目を引く。男性プロデュースの場合、楽曲は手がけても歌詞は歌い手本人や別の作詞家に委ねるケースが多いところ、すべてひっくるめて請け負うあたり、曲としての世界観を確立した上で制作に臨む姿勢がうかがえる。


 一方、楽曲制作の自由さとは裏腹に、女性シンガーに求めるハードルは高い。彼がプロデュースを務める場合、歌い手には相応の表現ができるシンガーを、とおそらく決めているはずだ。その証拠にこれまでプロデュースしてきたのは、歌唱力の高さは折り紙つきの実力派ばかり。藤原さくら、新山詩織にしても、新鋭ながら彼女たちの歌声に賛辞を贈る声は多い。


 自らの作り上げた楽曲を、思い描いた通りの形で世に出す。どこまでも理想を追求する。プロデューサー・福山雅治の仕事から見せるのは、そんな完璧主義者の顔だ。


 ともあれ、福山雅治は日本を代表する俳優であり、ミュージシャンだ。音楽の世界、役者の世界、双方に身を置いている立場上、ドラマを盛り上げる楽曲に何がふさわしいかは現場の誰よりも熟知している。しかし、私にはそれすらはじめから福山の“世界観”の中で進行しているように思えてならない。いわば、お釈迦様の手のようなイメージだ。彼の場合、出演を決める段階から、すでに作品の完成形が頭の中に存在しているのではないか。そして、それを完璧に再現するために演者である自分はもちろんのこと、物語に寄り添う音楽にまで完璧にこだわり抜きたいのだ。楽曲プロデュースにとどまらない作品全体への目線が、福山には存在するのである。


 『ガリレオ』ではそれが見事功を奏し、空前の大ヒットに繋がったが、『ラヴソング』にはどう影響するか。福山のプロデューサーとしての真価が問われている。(板橋不死子)