2016年F1モナコGPは前夜から続いていた雨のため、長い歴史のなかで初めて、セーフティカー先導によるスタートとなった。路面は次第に乾き、後半はドライのレースになったものの、多くのドライバーがアクシデントで戦列を去り、何度もバーチャル・セーフティカーが導入された。
波乱に満ちた一戦を制したのは、メルセデスのルイス・ハミルトン。2015年のタイトルを決めたアメリカGP以来、今シーズン初勝利を挙げた。昨年は、ここで手中に収めかけた勝利を逃しており、鬱憤を晴らす自身44勝目となった。
レースは全車ウエットタイヤでスタート、7周目にセーフティカーが退去して戦いの幕が上がる。ポールポジションからトップを走っていたレッドブルのダニエル・リカルドは堂々と再スタートを決めて、2番手のニコ・ロズベルグとの差を開いていく。
ロズベルグはブレーキの温度管理に苦しんでおり、明らかにハミルトンと比べてペースが悪かった。メルセデスは、16周目にハミルトンを前に出すように指示。どんどん乾いていく路面状況のなか、2番手に上がったハミルトンがリカルドを追う。
首位を行くリカルドはウエットタイヤで走り続けていたが、23周目にピットに入ってインターミディエイトに交換する。これでハミルトンがトップに立ち、ウエットタイヤのままでステイアウト。リカルドがハミルトンに追いついたとき、だいぶ路面は乾いてきていた。ハミルトンは31周目にピットに入り、ウエットからインターミディエイトを挟むことなく、ウルトラソフトへと交換。その翌周にリカルドもドライタイヤに交換するべくピットへ向かったのだが、ここで大きな落とし穴があった。
リカルドはレッドブルのピットボックスに停止したものの、なんとタイヤが用意されていなかったのだ。スーパーソフトを装着して、ピットアウトするまでに10秒以上の時間を費やしてしまった。コースへ戻った時点で、前にいたのはハミルトン。結局このピットでのロスタイムが、勝敗を決してしまった。
その後もリカルドは果敢にハミルトンを攻め、シケインでの接近戦ではハミルトンのブロックが審議対象となったが、ペナルティが出ることはなく、リカルドはコース上で逆転するしかない。
トップを走るハミルトンにとって、懸念はウルトラソフトタイヤの耐久性だったが、むしろ終盤はリカルドのペースが鈍り、6戦目にして、待ちに待った今季初勝利を果たした。
かたやポイントリーダーのロズベルグは、チェッカー直前にニコ・ヒュルケンベルグに先行を許し、7位と惨敗。今回の勝利でランキング2位となったハミルトンに対して、依然24ポイントのリードがあるとはいえ、今後に不安を残す失速だ。
予選でメルセデスを破ったリカルドは、前戦スペインGPに続いて“勝てたはず”のレースを落とす展開となり、いつものような笑顔は見られず。表彰式のインタビューでも「レースのことは話したくない」と答え、不満を隠そうともしなかった。
フェラーリのセバスチャン・ベッテルは13周目に、上位勢では先陣を切ってインターミディエイトに交換。しかし、中団グループの渋滞にはまってペースを上げられず、21周目までウエットタイヤで走っていたセルジオ・ペレスの前に出られなかったことが、表彰台を逃す“敗因”となった。
ペレスは30周目、ベッテルは31周目に、ともにソフトタイヤへ交換。ポジションは変わらず、終盤まで3位を争うことになったが、ペレスがベッテルの攻撃を防ぎきって、モナコでは自身初、2015年ロシアGP以来となる表彰台へと上がった。
マクラーレン・ホンダはフェルナンド・アロンソ5位、ジェンソン・バトン9位とダブル入賞。アロンソは「表彰台の可能性さえ見えた」と言うほどの手ごたえで、2015年ハンガリーGPと並ぶ、ホンダF1復帰後ベストタイの成績を挙げた。