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ニュル24時間を席巻するドイツ勢。メーカー強力バックアップの最新GT3カーをメカ分析

2016年05月29日 18:41  AUTOSPORT web

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第44回ニュルブルクリンク24時間 決勝
ノルドシェライフェを舞台に行われているニュルブルクリンク24時間は「世界一の草レース」と呼ばれている。しかし、近年は自動車メーカーの力の入れかたが半端ではなく、出場するマシンのレベルが急激に向上。特に今年は、メルセデスAMG GT3、BMW M6 GT3、ポルシェ911 GT3 Rなど最新のGT3マシンが大挙出場、昨年デビューイヤーにして総合優勝を果たした新型アウディR8 LMSを打ち負かすべく、かなり気合いが入っている。そこで、ニュルブルクリンクのピット、パドック裏を練り歩きながら各GT3マシンの作りを見てまわった。

 ニュルブルクリンクは出場台数に対しピットの数が少なく、ひとつのピットを4台でシェア。また、ぎゅうぎゅうのパドックには各チームの作業スペースやホスピタリティが立ち並び、観客たちは間近でマシンを観察することができる。チームもマシンのメカを隠すようなことはせず、写真も撮り放題。メカ好きにとっては天国のような環境だ。

 今回、もっとも速さが印象的だったマシンは、メルセデスAMG GT3。以前、BMW Z4 GT3のプロジェクトに関わっていたエンジニアが開発に携わった1台だ。エンジンは基本的に先代GT3のSLS AMGから引き継ぎ、パワーと信頼性は抜群。そして、GT3化も考慮に入れて市販車を開発したため、ボディ構造に無駄がなく空力もよく考えられている。また、ダウンフォースのボリュームとバランスに関しては、現在もっとも優れていると言われている。そして、ウエットコンディションが多かった今回の24時間レースでは、ライバルに対しトラクションの制御が秀でていた。

 AMG GT3のライバル、BMW M6 GT3は大柄なボディと長いホイールベースにより、先代のZ4 GT3から180度方向転換したように見える。しかしフロントカウルをがばっと外すと、このように内部は極めて無駄のないデザインに。市販車のパーツを多く使った4.4リッターV8ツインターボエンジンはドライサンプ化により低く、そして車体中央寄りに配置。インタークーラーやラジエターといった冷却系は、空力性能を最大限に発揮させるようなデザイン、配置となっている。とある日本人チームのエンジニアによれば「少し前のGT500レベルのつくりで、良く考えられている」とのこと。大柄に感じられるボディにも関わらず、回頭性や旋回性能は素晴らしく、非常に俊敏な動きをしていたのが印象的だった。

 かつてのニュル王者、ポルシェは久しく優勝から遠ざかっている。捲土重来を期す彼らは、王座奪還を目指し新たなGT3マシン「911 GT3 R」を投入した。新しい991型がベースとなるこのマシンは、ボディが大型化しその結果前後重量配分が好転。高速コーナーでのスタビリティが大きく向上したという。また、エアロダイナミクスも細かい部分が改善され、去年ニュルで発表され、その後VLNにテスト参戦した時まではフロントにカナードが装着されていなかった。フロアやフロントセクションの構造で十分にフロントのダウンフォースを得られると考えたようだが、今年のVLNに登場した最終モデルでは、左右2枚のフロントにカナードが追加されていた。全体的な戦闘力に関しては、ニュル独自のBoP(性能調整)が適用されても、AMG GT3やBMW M6には対抗できず苦戦。名門復活はそう簡単にはいかなさそうだ。

 新型R8 LMSで去年のニュル24時間を制したアウディは、去年よりもワークスバックアップのマシンが減少。そのせいか、もしくはBoPの影響か、はたまた相対的な戦闘力の低下か、今回は苦しい戦いを強いられている。去年、あれだけ強かったアウディの苦戦が、ドイツメーカーによるGT3開発競走の激しさを物語っている。