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嵐『I seek / Daylight』に見る、今年のサウンドの方向性 “嵐らしさ”はどこに向かう?

2016年05月29日 17:01  リアルサウンド

リアルサウンド

(C)タナカケンイチ

【参考:2016年05月16日~2016年05月22日のCDシングル週間ランキング・2016年05月30日付(http://www.oricon.co.jp/rank/js/w/2016-05-30/)】


 今週のシングルランキングは、嵐のシングル『I seek / Daylight』が1位。前々作『愛を叫べ』(2015年9月)の46.3万枚、前作『復活LOVE』(2016年2月)の48.5万枚を大きく上回る73.8万枚という初週セールスを成し遂げた。


(関連:嵐「復活LOVE」はなぜ画期的か? グループの新代表曲を徹底分析


 というわけで、今回の記事ではこの両A面シングルの「I seek」「Daylight」について分析していきたい。というのも、「復活LOVE」の路線の延長線上にこの2曲を位置づけることによって、2016年の嵐が目指すサウンドの方向性が浮かび上がってくるのである。


 山下達郎が作曲・編曲を、竹内まりやが作詞を手掛けた前作シングル曲「復活LOVE」については、当サイトにて「嵐というグループにとって、この曲が大きなターニングポイントとなることは間違いないだろう」と書いた。【参考:嵐「復活LOVE」はなぜ画期的か? グループの新代表曲を徹底分析(http://realsound.jp/2016/03/post-6600.html)】


 まずは、その直感が間違っていないと感じさせてくれるのが、「I seek」だ。


 大野智主演ドラマ『世界一難しい恋』(日本テレビ系)の主題歌であるこの曲。イントロでは駆け上がるストリングス、小気味いいホーンセクションが耳をひく。「♪パパラパラパラ~」というユニゾンのコーラスがそこに絡む。


 サウンドも生音が中心。軽快なビートと躍動的なベースラインがグルーヴを作り出し、洒脱なワウ・ギター、豪華なストリングスとホーンセクションがそれを彩る。間奏も聴かせどころになっている。70sのファンク/ソウルを今の時代にアップデートさせたような「ディスコ歌謡」のテイストだ。


 楽曲を手掛けているのはAKJとASILのコンビ。これまでにもシングル『青空の下、キミのとなり』(2015年5月)の初回盤カップリング「Dandelion」やアルバム『Japonism』(2015年10月)収録の「miyabi-night」を手掛けてきたクリエイターである。


 山下達郎・竹内まりやという大御所ミュージシャンを作家に迎えた「復活LOVE」に比べると、ほぼ専属に近いスタンスの制作陣を配することでサウンド面でも“嵐らしさ”を徹底する意志を感じられる。と同時に、この曲は「復活LOVE」のアーバン・ソウルな曲調の延長線上に位置づけることもできる。


 一方、松本潤主演ドラマ『99.9 -刑事専門弁護士-』(TBS系)の主題歌「Daylight」は、爽やかなピアノが印象的なメロウなミドル・バラード。ゆったりとしたビートの上で5人がメロウな旋律を歌う。その“洗練された大人の色気”のようなものに焦点を当てた仕上がりとなっている。サウンドで印象に残るのは、ところどころに配されたエレクトロニックなフレーズ。それがスタイリッシュな感触をもたらしている。


 作曲にクレジットされているのはSimon Janlov(サイモン・ヤンラブ)とwonder note。編曲は佐々木博史が手掛けている。サイモン・ヤンラブはストックホルム在住、スウェーデン出身の若きプロデューサー。これまでKAT-TUNなどに曲提供しているが、嵐のシングル表題曲にはこれが初採用となる。


 「誰も知らない」(2014年5月シングル曲)や「Breathless」(2013年3月シングル曲)など、これまでも嵐の楽曲にはスウェーデンのクリエイターを起用しヨーロピアン・ダンス・ポップのテイストを持ったものが多くある。そのあたりにも通じるサウンドと言っていい。


 そして、この曲のもう一つのポイントは、シングル表題曲としては久々に櫻井翔によるラップがフィーチャーされていること。「希望と信じ進む航路 方向示し続ける僕のノート」と、彼らしい言葉遣いの“サクラップ”も聴きどころになっている。


 以前にも評論家の矢野利裕氏との対談で触れたが、嵐の楽曲の音楽性には、ファンクやソウルなどブラック・ミュージック由来のものと、スウェーデンとのコネクションがもたらすヨーロピアン・ダンス・ポップの感性とが混在しているという特徴がある。【参考:嵐の楽曲はどう“面白い”のか? 柴 那典×矢野利裕がその魅力を語り合う(http://realsound.jp/2015/04/post-2921.html)】。そして、櫻井翔のラップもその個性を決定づけるキーとなってきた。


 そういう意味では「I seek」も「Daylight」も、それぞれの方向で“嵐らしさ”というものを体現するような王道の仕上がりの楽曲と言えるのではないだろうか。(柴 那典)