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『HEY! HEY! NEO!』プロデューサーが語る、新しい音楽番組への挑戦「歌にもトークにもライブ感を」

2016年05月29日 14:01  リアルサウンド

リアルサウンド

三浦 淳(フジテレビ『HEY! HEY! NEO!』プロデューサー)

 音楽の魅力を広く伝えるメディアとして、大きな機能を果たすテレビの音楽番組。CD全盛期に比べて番組数が減少する中、それぞれ趣向を凝らした番組づくりが行われている。なかでも、2015年秋にスタートした『HEY! HEY! NEO!』は、フェスシーンで人気を誇る若手バンドや、テレビ出演が珍しいアーティストを招き、ライブハウスさながらのパフォーマンスと、司会のダウンタウンと出演者による予測不能なトークを展開している。今回リアルサウンドでは、同番組のプロデューサー・三浦淳氏にインタビューを敢行。これまでの放送を振り返りながら、『HEY! HEY! NEO!』が目指す音楽番組のかたちについて話を訊いた。(編集部)


(関連:テレビ音楽番組はバラエティトーク型優勢に? バナナマン・バカリズムら起用の背景


■「ダウンタウンさんと『はじめまして』の人をぶつける場に」


ーー番組の立ち上げ経緯からお伺いできますか。


三浦:『HEY! HEY! HEY!』の頃から、僕はADとして番組に携わっていました。レギュラーが終わったあとの約2年くらいは、年に2~3回の定期特番として放送していて、そのタイミングで担当プロデューサーになりました。しばらくして、ゴールデンタイムではない時間帯に新しい番組として始めようということでスピンオフ番組『HEY! HEY! NEO!』が生まれました。『HEY! HEY! HEY!』は、ダウンタウンさんとミュージシャンがはじめて出会った瞬間のワクワク感がいちばんの面白さだと思っていて。


ーーそれは、大きなポイントですね。


三浦:はい。僕は音楽が大好きで、ウルフルズやTHE YELLOW MONKEYがどんなバンドでどんなキャラクターかということは、ライブなどで知ることができていたけど、バンドをあまり知らない人からしたら、彼らのキャラクターについて知る機会はほとんどないですよね。それを『HEY! HEY! HEY!』でダウンタウンが引き出したんです。番組としてもそういった化学反応を生み出す機会をつくりたい反面、ゴールデンタイムの時間帯にもマッチして、ダウンタウンさんと「はじめまして」のアーティストを見つけることがなかなか難しくなっていって。そこで、23時台に時間を移し、スピンオフの『HEY! HEY! NEO!』として、ダウンタウンさんに対して新しいアーティストをぶつけていくコンセプトをより強めていきました。


ーーダウンタウンのお二人の反応はいかがでしたか?


三浦:ダウンタウンさんに『HEY! HEY! NEO!』の番組趣旨をお話ししたら、乗ってくださって。そして1回やってみたところ非常に感触がよかったので、もう1回やらせてくださいとお願いに行って。それで2回目も実現したという感じです。


ーー出演アーティストについてのこだわりは。


三浦:1回目は、特にフェスでいちばん熱い人たちを集めました。フェスでヘッドライナーやトリを務める人たちばかりに声をかけたら、みんな集まってくれて。そのときに、アーティストも『HEY! HEY! HEY!』のあの感じを待っていたんだなと感じましたね。2回目はなかなかテレビに出ていなかった人も含めて、ダウンタウンさんに対して「はじめまして」の人をぶつけました。そこでKen Yokoyamaさん、銀杏BOYZの峯田和伸さんにも出てもらうことができました。今後も必ずしもニューカマーばかりというわけではなく、すでに世の中に知られているけれども、ダウンタウンさんと「はじめまして」の人をぶつける場にしていきたいと思っています。そういう意味で、出演してもらうべき人たちがまだたくさんいることが今回改めてわかったのは大きな収穫でしたね。


ーー特に2回目の放送後、「ライブが地上波とは思えない盛り上がりだった」という声を多く聞いたのですが、それは演出として意識されたポイントなのでしょうか。


三浦:『HEY! HEY! HEY!』では、実はダウンタウンさんはアーティストのライブパフォーマンスを見ていなかったんです。基本はトークだけの絡み。お二人はその人たちがどんなパフォーマンスをしているのか、誰がどのパートなのかも分からない環境でトークをしていたんです。「え? キミがギターなの?」「ボーカルなの?」という反応が面白かった部分でもあるんですけど、『HEY! HEY! NEO!』ではどんなパフォーマンスをしているのか、ファンの熱も含めて直に感じてもらった上でトークをするのがいいんじゃないかと思いまして。


ーーなるほど。


三浦:2回目に出演したKen YokoyamaとSiMに関しては、“いつも通りのライブ”に、よりこだわりました。テレビだからいつものパフォーマンスが見られないということは考えられなかった。でないと、僕はあの2組の普段のすごさや魅力が伝わらないと思ったんです。安全面で万全の態勢を整えるという前提ありきで普段のライブパフォーマンスをしてもらい、ファンがいつも通り楽しむ姿をダウンタウンさんに見てもらいたかった。「これはテレビ収録ではなく、ライブだと思ってください。たまたまダウンタウンがステージ横で見てますけど、来ているファンはいつものフェスやイベント、自分たちのライブと一緒なので、“ライブ”をやってください。テレビ的なことは一切しなくていいです」と、全アーティストに対してお願いしました。


ーーパフォーマンスを見たダウンタウンの唖然とした表情は、すごく面白かったです(笑)。


三浦:そうですよね、おそらく見たことないですからね。お客さんの頭上をあんなふうに人が転がっていくところなんて(笑)。


ーー出演したアーティストの反応はいかがでしたか。


三浦:みんなすごく喜んでくれました。本当にいつも通りの感じでできたと。ダウンタウンとのトークにプレッシャーを感じながらも、終わったあとはみんなすごくよかった、ありがとうという感じで。本当に子どものような顔でみんな帰って行きました(笑)。


■「ライブアーティストを呼んでいるので、“ライブ感”を伝えたかった」


ーー2回の放送を終えて、手応えのようなものは感じましたか。


三浦:リアルタイムで反響をチェックしたりしていて、「このメンツがテレビに出るなんて」とか、「いつものライブっぽかった」とか、そういうポイントが視聴者に伝わっていたのは嬉しかったです。テレビならではのパフォーマンスの撮り方はたくさんありますが、ライブアーティストをあえて呼んでいるので、“ライブ感”を伝えたくて。


ーーあの“ライブ感”は、なかなか音楽番組で見ることができないと感じました。


三浦:番組自体がフェス感覚に近いかもしれませんね。フェスって、アーティストが代表曲を披露して、あらゆるバンドのファンに対して「どうだ! 俺たちカッコいいバンドなんだ!」とアピールして、新しいファンを獲得しますよね。なので、この番組も出演者同士が「他のアーティストに負けねえぞ」と競い合うようなものにできればと思っています。共演者の音楽ジャンルも近いといえば近いですし。『HEY! HEY! NEO!』はとにかく若い人に人気がある人、音楽好きが納得する人に出演してもらうという切り口でやっているので。ジャンル的にはやや偏ったラインナップかもしれませんが、ダウンタウンさんのトークがあることで間口は広げられているかと。お笑いが好きな人、テレビが好きな人、ロックファン以外の層に響くチャンスにもできていると思いますので、そういう点を生かしていきたいですね。


ーー改めて、『HEY! HEY! HEY!』のコンセプトとは。


三浦:僕も番組スタート時は入社前でしたが…いままでにない音楽番組を目指して「お笑い芸人×ミュージシャン」というコンセプトで始まったようです。当時はダウンタウンさんが若手で、いちばん勢いがあった芸人として起用されたと聞いています。そしてゲストの楽曲は知らない、ゲストに対して「誰や、オマエ?」という司会は、『HEY! HEY! HEY!』ならでは(笑)。『HEY! HEY! NEO!』もダウンタウンさんに事前に出演者の楽曲を聴いてもらうことは一切していないんです。


ーー音楽番組としては、すごいことですよね。


三浦:その方がパフォーマンスを見た素直な感想が引き出せたり、初見の見た目のインパクトをいじったり、自己紹介で気になったワードに食いついたり。基礎知識がない分、トークにも“ライブ感”が生まれるんです。僕らが聞き出してほしいキーワードをお渡しして浜田さんに聞いてもらうこともありますが、その場で生まれた会話がいちばん面白いし、ライブ感を大事にしています。もちろん全部をお任せにはしませんが、やっぱりダウンタウンさんに任せておけばどんなゲストが来ても面白くなりますよね。


ーー番組の演出で工夫した点はありますか。


三浦:これは演出家のこだわりなのですが、待機しているアーティストとメインアーティストのクロストークですね。『HEY! HEY! HEY!』でも一時期、メインのアーティストとダウンタウンさんがトークをする後ろに喫茶店のようなセットを用意して、お茶とかコーヒーとかを飲みながらアーティストが待機していたことがあって。そこでタバコを吸うこともできたし、今では考えられない演出なんですが(笑)。そこで後ろにいるアーティストが話に割って入ってきて、クロストークが生まれるということもあったんです。今の音楽シーンは横のつながりがすごくあるので、さっき言ったフェスじゃないですけど、ライバル心みたいなものを上手く生かすために待機中のアーティストとのやりとりを取り入れました。例えば、ダウンタウンさんと盛り上がっているKANA-BOONをステージ裏でモニターで見ながら、歯を食いしばっているキュウソネコカミの様子を見せるという感じで。トークだけではなく、他アーティストの姿を見て自分たちも気合を入れてパフォーマンスに臨むというのもフェスっぽいかなとも思います。


ーー確かにフェスのバックステージのような印象を受けました。そのようなやりとりは、なかなか音楽番組では伝えられない部分かもしれません。


三浦:今、僕が担当している『魁!ミュージック』の前番組『魁!音楽番付』の時に、キュウソネコカミとKANA-BOONと空想委員会の3組がゲスト、司会がスチャダラパーのBoseさんで『ごきげんよう』のスタイルでサイコロトークをしたことがあって。そのときの各バンドのライバル関係がすごかったんです。「僕のほうがこれに関しては詳しい」「いやいや俺のほうが」みたいな(笑)。今の若い世代には、そういう横のつながりがあって「そういうのっていいな、こういうトーク番組があったらいいのにな」という話をしていたところだったので、ちょうどいいタイミングで実現できてよかったです。


ーーある一定の層にむけた『HEY! HEY! NEO!』のような音楽番組は珍しいですよね。


三浦:そうですね。ただ、毎週ということになると絶対に成立しないです。僕らもこれを毎週やってくれと言われたら、さすがに無理なので(笑)。


ーー番組を拝見していて、『FACTORY』を思い出しました。


三浦:『FACTORY』は数年間演出をやっていて、毎回キャスティングを楽しんでいました。今は『魁!ミュージック』『Love music』などを担当していますが、CSの特番で『VIVA LA ROCK』という埼玉のフェスの放送も毎年担当していたり。そういう意味では僕自身のジャンルも少し偏っているかもしれません(笑)。


■「テレビでしか見られないもの」をつくりたい


ーーフジテレビにはいくつか音楽番組があると思いますが、全体を通して一貫したテーマがあるのでしょうか。


三浦:音楽班と言われるチームで番組を制作しているのですが、年間で考えると『FNS歌謡祭』のような大型特番の放送、その間に『MUSIC FAIR』『Love music』『魁!ミュージック』といったレギュラー番組、さらにその合間に『HEY! HEY! NEO!』などの特番があるという流れです。チームが目指す大きな志としては、「音楽をテレビで聴きたい」と思ってもらえる番組づくりでしょうか。僕らの学生時代はテレビからの情報がほとんどでしたし、テレビで初めて新曲を見る・聴くことが当たり前でしたが、今はスマホで新曲がいちばん早く聴けるし、見れる。ミュージックビデオを見ることができれば、小さい画面のサイズでもいいという人が多い中、僕らはテレビでしか見られないものをつくりたい。『FNS歌謡祭』がコラボレーションに力を入れているのもそういうことです。僕らはテレビをつくっていくうえで、「やっぱりテレビってすごいなぁ、テレビって夢があるなぁ」と思ってもらいたくて。直接チームのみんなに聞いたことはないですが、多分僕以外の人たちも、そのことは意識していると思いますね。新曲披露の際にも「うちがいちばんカッコいい見せ方をしよう」と、他番組に負けないよう、手を変え品を変え工夫しています。僕はずっとテレビは夢の箱……今は、もう箱じゃないですけど(笑)、ずっと夢の箱だという気持ちがあるので、テレビでしか見られない音楽の映像をつくっていきたいと思っています。


ーー『HEY! HEY! NEO!』は、ライブパフォーマンスをいつも通りの姿を映すかわりに、「テレビしか見られない」部分としてダウンタウンとのトークが存在するということですね。


三浦:はい、それが番組の最高の強みです。『ミュージックステーション』(テレビ朝日系)は、生放送でいち早く新曲をお届けすることが強みだと思うんです。テレビ初パフォーマンスが多いですし。それに対抗するわけじゃないですけど、やっぱりダウンタウンさんとミュージシャンのトークというのは、ここでしか見られない最高の強みだと思っています。『HEY! HEY! NEO!』に関しては、圧倒的にそこを押していきたいです。


ーー今後、新たに取り組んでいきたいことはありますか。


三浦:まずは、ダウンタウンさんに会ったことのない人をブッキングするスタイルを続けていきたいと思っています。あまりテレビに出ていない大物から、全く無名なインディーズの人も含めて、面白くてイキのいい、音楽シーンで盛り上がっている人たちをどんどん出していきたいです。星野源さんやサカナクションも音楽番組には出ているけれど、ダウンタウンとは会ったことがないはずですし、そういう人たちはまだまだいますからね。また、アイドルだけの回があっても面白いかなとは思っています。BABYMETAL、でんぱ組.inc、欅坂46など、今勢いがあって、ダウンタウンさんと「はじめまして」のグループに出ていただきたいと思っています。


ーー「ダウンタウンと会ったことがない」が条件であれば、まだまだ可能性は広がりそうですね。


三浦:テレビ番組をつくっている人たちが「この人はテレビ的だ、テレビ的じゃない」ということで言うと、「テレビ的じゃない人」が出られる番組にしたい。僕がそういう人たちが好きだということもありますが、それが堂々とできる仕事として、この番組はいくらでもチャンスや可能性があると思っています。ちゃんと実力があって、これから盛り上がってくるだろうという人や、すでに盛り上がっている人で、まだテレビにあまり出ていない人にテレビに出てもらえる環境をつくりたいんです。『HEY! HEY! NEO!』は、ライブハウスに遊びに行く感覚でアーティストが出られるような、積極的にテレビに出たいという気持ちを持ってもらえる番組にしていきたい。テレビはあまり得意ではない人、テレビには出なくてもいい、という人たちが「この番組だったらライブをやりに行く感覚だから出てみたい」と言ってくれるような、「アーティストが出たがる番組」を目指していきたいです。それまでテレビはNOだったのが出たら意外とよかったとか。これをきっかけに他番組にも出てもらえれば、すごく嬉しいですし。そこからどんどんオファーも増えて人気者になってくれたらさらに嬉しいです。