2016年05月29日 09:42 弁護士ドットコム
同じ時間に同じ場所から同じ目的地までタクシーに乗ったのに、1回目と2回目で運賃が800円も違った。東京都内のIT企業に勤務するアヤカさんの経験談だ。
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1年前の夏の日、アヤカさんは、夜遅くまで残業したため終電を逃してしまった。自宅の最寄り駅から3駅ほど離れた駅で足止めをくらったため、やむを得ずタクシーに乗り、自宅に向かった。運賃は深夜料金込みで1200円ほどだった。ところが、アヤカさんが別の日、同じ時間に同じ場所からタクシーで自宅に向かったところ、運賃が2000円だった。
「出発地と目的地は一緒になのに、800円も多くお金を取られるなんて損した気分です。運転手がわざと遠回りをしたとしか思えません。『前に乗った時は1200円だった!』とも言えず2000円支払いましたが、いまだにモヤモヤしています」
アヤカさんが言うように、もしタクシーの運転手がわざと遠回りしたのならば、法的に問題はないのだろうか。また、余計にかかった料金を支払う必要はあるのだろうか。前島申長弁護士に聞いた。
「運転手と乗客の間には、乗客がタクシーに乗り込み、行き先を告げた時点で、『旅客運送契約』という契約が成立することになります。この契約が成立すると、運転手には、乗客を安全かつ迅速・的確に目的地まで運ぶ義務が生じ、一方、乗客には、運転手に対して運賃を支払う義務が生じます」
前島弁護士はこのように述べる。
「今回の相談でアヤカさんが質問しているように、運転手が故意に遠回りをすることは、適正なルートを走行して乗客を目的地に届けるという運転手の注意義務に反しています。したがって、債務不履行が成立し、乗客は、適正なルートを通った場合の運賃との差額を支払う必要はありません」
では、わざとではなく、合理的な理由があって遠回りした場合はどうなるのか。
「乗客が、走行ルートを指定した場合は別として(この場合は、乗客の指定したルートで目的地に行くことが運転手の義務内容となります)、どのルートを走行するかは、運転手の裁量に委ねられています。
したがって、運転手が、渋滞や事故を避けるなどの合理的な理由のもとで、いつもと異なるルートを走行したところ、たまたま通常より金額が高くなった場合については、運転手に注意義務違反があるとはいえません。したがって、乗客は、運賃の差額の支払いを免れることはできないと思われます」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
前島 申長(まえしま・のぶなが)弁護士
前島綜合法律事務所代表弁護士 大阪弁護士会所属
交通事故・労災事故などの一般民事事件、遺産分割・離婚問題などの家事事件を多く扱う。交通事故については、被害者側の損害賠償請求の他に加害者側の示談交渉・刑事弁護も扱う。
事務所名:前島綜合法律事務所