2016年05月28日 10:32 弁護士ドットコム
経済的な困窮による「育児放棄」の事例を取り上げた朝日新聞(5月8日付)の記事がインターネット上で反響を呼んだ。記事は「万引きで補導されたのは3歳の保育園児だった」という衝撃的な一文ではじまる。
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この万引き事件は4年前、西日本のスーパーマーケットで起きた。児童相談所が「経済困窮による育児放棄」の疑いがあるとして、その数カ月前から見守っていた家庭だったという。保育園児は男の子で、5歳上の兄と4歳上の姉がいた。父親はトラック運転手で深夜まで帰れず、母親は家政婦として住み込みで働いていたため、ほとんど子どもたちだけで暮らしていた。
父親の給料は、連帯保証人で背負った借金の返済にあてられていたという。ヤミ金にまで手を出していたようだ。子どもたちは不登校気味で、児童相談所の職員が訪れたときは、両親は不在で食事も与えられていない状況。その後、両親が離婚して、子どもたちは母親と一緒に母子生活支援施設に入ったという。
この記事に対して、インターネットでは「子供たちが不憫すぎて辛い」「この家族の連絡先が知りたい。山程、飯を食わしてやりたい」「ネグレクトや『暴力』を止めるのではなく、『生活』を支援しないと、このスパイラルから抜け出せない」といった声があがった。
今回のケースのように、経済的な困窮による「育児放棄」がある家庭を、周囲の大人や社会はどのように支えればよいのだろうか。髙橋直子弁護士に聞いた。
「親の経済的困窮が一因で、子どもが問題ある状況におかれることがあります」
高橋弁護士はこう切り出したうえで、子どもの成長に問題があることを指摘する。
「今回のケースの場合、子どもがおなかをすかせて万引きをしたということは、十分な食事ができず、成長発達を妨げる状況だったと懸念されます。また、子どもだけでスーパーマーケットに行っていたことから、子どもの安全が確保されていたのかという心配もあります。
子どもが万引きに罪悪感を持たずに育つと、社会のルールを守るという意識に欠けて、将来、非行に出ることも懸念されます。さらに、小学生の子どもが不登校になり、義務教育をきちんと受けず、社会から孤立していくことも問題です。
このような子どものネグレクト(育児放棄)は、親が望んでそうしたわけではなく、経済的困窮が理由だったとしても、子どもの成長発達上、おおいに問題があり、放置できません」
経済的な困窮に悩む親がネグレクトに陥らないためには、どうすべきなのだろうか。
「連帯保証によって多額の借金を背負ったりして、自己の収入と財産で返済できない場合、破産や債務整理をする方法があります。
また、ふつうに働いても、その収入で生活が成り立たない場合、生活保護を受けるということも考えられます。
夫婦関係に問題がある場合、離婚することで、公的支援を受けやすくなることもあるでしょう。
子どもを放置して両親が働く以外にもみちがあること、周囲に助けを求めてよいことを親に知ってもらう必要があります。そして、児童相談所、行政や福祉のサービス、市町村の法律相談などにつなぐことが必要です」
こうした「悲劇」を生み出さないためには、どのような仕組みが求められるのだろうか。
「子どものネグレクトの背景には、家庭が何重もの問題を抱えていることが多くあります。
子どもの発達に影響しかねないため、すみやかに支援することが必要です。そのためには、保育園、小学校、病院、警察、市町村、児童相談所など地域のさまざまな関係者の連携が重要です。
家庭の情報を断片的に把握していても、一つの機関が把握している情報だけでは、問題点を整理し、解決方法を探るのが難しい場合があります。これらの機関が連携することによって、十分に状況を把握し、適切な支援に結びつけていくことが求められるでしょう」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
高橋 直子(たかはし・なおこ)弁護士
1999年弁護士登録、大阪弁護士会子どもの権利委員会所属。主要著書に、「Q&A 会社のトラブル解決の手引き」共著(新日本法規出版)、「差止請求モデル文例集」共著(新日本法規出版)、「子どもの虐待防止・法的実務マニュアル」共著(明石書店)
事務所名:弁護士法人第一法律事務所
事務所URL:http://www.daiichi-law.jp/