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chayはなぜ“幸せ”というテーマと向き合ったか?「ちょっとずつポジティブになれている」

2016年05月27日 19:21  リアルサウンド

リアルサウンド

chay

  シンガーソングライターのchayが、ニューシングル『それでしあわせ』を5月25日にリリースした。フジテレビ系ドラマ『早子先生、結婚するって本当ですか?』の主題歌としてオンエア中のこの曲は、ドラマティックに展開するメロディ、“幸せとは何か?”という普遍的なテーマを持った歌詞、そして、洋楽テイストのサウンドがひとつになったミディアムチューン。凛とした意志とかわいらしさを同時に感じさせるボーカルを含め、25歳になった彼女の新しい表情が伝わる楽曲に仕上がっている。今回の単独インタビューでは、「ターニングポイントになると思う」という「それでしあわせ」の制作についてじっくりと語ってもらった。(森朋之)


・「この曲は素敵なキッカケになると思います」


ーーシングル『それでしあわせ』がリリースされました。すでにライブでも披露されていますが、手応えはどうですか?


chay:いままでとはかなり違った世界観の曲なので、歌っていても新鮮ですね。ファンのみなさんのなかにも、最初に聴いたときは驚いていた方もいたみたいですが、楽しんでもらえていると思います。


ーー“幸せとは何か?”というテーマに正面から取り組んだ歌詞も、これまでのchayさんの楽曲とは雰囲気が違いますよね。


chay:そうですね。いままでは等身大の恋愛だったり、自分が経験したことを書くことが多かったんですけど、今回は“幸せ”という壮大なテーマに挑戦しました。ドラマ(『早子先生、結婚するって本当ですか?』)の主題歌のお話をいただいて、まずは原作と台本を読ませてもらったんです。松下奈緒さんが演じる主人公の早子先生は私よりも10歳くらい上で、結婚に関してもそこまで深く考えたことがなかったんです。しかも、早子先生の性格は私と真反対なんです。私はネガティブな部分があって、すぐに考え込んじゃうし、落ち込みやすいタイプなんですけど、早子先生はものすごくポジティブ・シンキング。だから最初は「共通項を見つけるのが難しいかも」って心配していたんですけど、早子先生が持っている“まわりの意見に流されそうになることもあるけど、自分の気持ちを大事にして、自分らしく生きていきたい”という考え方に感銘を受けて、その部分を中心にしながら歌詞を書いていきました。“幸せ”って、男女や年齢を問わず、誰もが考える普遍的なテーマだと思うんです。私自身、この曲を作ったことで、“幸せって何だろう?”ということに真剣に向き合い、過去のことも振り返ったりしました。ふだん、そうやって考えることはあまりないですからね。


ーー幸せの在り方って、そのときの年齢や環境によって変化しますからね。


chay:そうなんです。自分自身、数年前まではとにかく夢を追いかけることにガムシャラで、夢を叶えることが幸せだと思っていたんです。その頃のことを振り返ってみると、とにかく余裕がなかったなと…。その後デビューさせてもらって、経験と年齢を重ねて、色々な人と出会うなかで、何気ない瞬間や当たり前のこと、プライスレスなことに対して“幸せだな”と思うことが増えてきました。余裕がなかったときには気付けなかった小さな幸せを実感できるようになってきたというか。価値観は人それぞれだし、この曲に対してもいろんな捉え方があると思いますが、幸せって、誰かがくれるものではないと思うんです。たとえば誰かに「幸せじゃないよ」と思われたとしても、自分が幸せだと思っていれば、それでいいんじゃないかなって。“幸せは自分の心のなかにあるものだし、自分が決めるものだよ”ということをまずは伝えたかったんです。


ーーそれを象徴しているのが〈しあわせのありかはきっと/自分の心の真ん中〉というサビの歌詞ですね。自分を肯定するという考え方にもつながってますよね、このフレーズは。


chay:私もこの歌詞を書くことで、ちょっとずつポジティブになれている気がします。根本的にネガティブというのは同じですけど(笑)、歌詞にもあるように“それでしあわせ”って思えるようになってきたというか。ネガティブな性格もネタにはなりますから(笑)。


ーー「それでしあわせ」の作曲は多保孝一さん。前作「好きで好きで好きすぎて」は昭和歌謡テイストでしたが、今回はメロディ、アレンジを含め、洋楽ロックの雰囲気がたっぷり感じられる仕上がりですね。


chay:いままでの曲とはぜんぜん違いますよね。最初にこのメロディを聴いたときに「自分にとってターニングポイントになる曲だな」って直感的に思いました。これまでは“明るくてカラフルでポップ”という楽曲が多かったんです。それは自分のキャラクターともリンクしていたんですが、25歳になって、また違うところも出していけたらいいなという気持ちもあって。「それでしあわせ」みたいなミディアムテンポの曲もいままであまりなかったし、リズムやサウンドからも大人っぽい印象があって。そこまで強く“変わりたい”と思っていたわけではないですが、年齢とともに大人の階段を上がっていきたいという思いはあったので、この曲は素敵なキッカケになると思います。


ーーQUEENを想起させるギターサウンドも印象的でした。


chay:本間昭光さんがアレンジしてくださったんですが、すごくカッコよくて感動して、「私もQUEENだ!」って思いました(笑)。そこはとことんこだわっているんです。ミュージックビデオでもブライアン・メイのレッド・スペシャル(QUEENのギタリスト、ブライアン・メイの代名詞であるオリジナルギター)を持って、シックスペンスのコインで弾いて、アンプはVOXでシールドも同じものを使っていて。


ーー確かにすごいこだわりですね!


chay:以前から“耳だけではなく、目でも楽しんでほしい”という気持ちが強いんです。「それでしあわせ」のミュージックビデオに関しては、私と同世代の方はピンと来ないかもしれないけど、そういう人にもQUEENの良さを伝えられたらいいなって。もちろん、QUEENのファンの方にも楽しんでもらいたいです。


ーーchayさん自身は80’sの洋楽がルーツだし、当然、QUEENにも馴染みがありますよね?


chay:はい! 両親がよく聴いていて、私もすごく好きです。シンディー・ローパーも大好きで、80年代ってエンターテインメントの要素が強いアーティストが多いと思います。私が“目でも楽しめるアーティストになりたい”と思っているのも、80’sの影響があるからなんです。同世代の人たちにも80’sの音楽を伝えたいなって思うし、架け橋のような存在になれたら嬉しいです。


・「弾き語りは編集できないから流れや空気感が大事」


ーー2曲目の「ずるいひと」は失恋をテーマにしたナンバー。憂いが感じられるメロディも印象的でした。


chay:これは3年くらい前に書いた曲なんですよ。友達が長く付き合ってきた彼氏にフラれて、そのことを悲しそうに話してくれたんです。話を聞いているうちに「そんなこと言うなんて、ヒドイ。ずるいヤツだな」と思って、怒りを込めて曲にさせてもらいました。まずイントロが浮かんできて、彼女の話を思い出しながら「こんなコード進行が合うだろうな」って曲から作っていきました。


ーーこの曲の主人公は“新しい道を歩き出したいのに、彼が忘れられない”という思いを抱えていますね。


chay:そうなんです。その友達の話に限らず、付き合っている彼女とは別に他の女の子がいたり、別れた元カノにも優しくしたりとか、ズルい男の人っていると思うんです。「忘れたいのに、忘れられない」ということもよくあることだし、題材としてはすごくいいなって思って。出来上がったときにその友達に聴いてもらったら「あいつにも聴かせてやりたい」って言ってました。


ーー女性のリアルな感情を表現したいという気持ちもある?


chay:ありますね。私が大切にしているのは、その瞬間に感じたことを歌うことです。たとえば「nineteen」という曲は19歳のときにしか書けなかった歌詞だと思うんです。恋愛の歌詞にしても、そのときの感情を反映したいなって…。「それでしあわせ」もそうです。幸せに対する価値観や感じ方が変わってきた“いま”じゃなかったら書けなかったことがたくさん詰まっています。


ーーなるほど。「ずるいひと」のアレンジは深沼元昭さん。R&Bテイストのシックなサウンドが歌詞の雰囲気とすごく合ってますよね。


chay:深沼さんは、デビューした後に、なかなか上手くいかず悩んでいた時期から一緒にやってもらっていて、言葉がなくても通じ合えるものがあるんです。私は、曲を作っているときはアレンジ込みで浮かんでくるんです。メロディと歌詞だけじゃなくて「サウンドはこういう感じ」というイメージも湧いているんですが、それを言葉にするのすごく難しいです。深沼さんは簡単なデモを渡すだけで、「そうそう! このアレンジ!」というサウンドを作って下さいます。私のなかにはないアレンジを提案して下さることもあるんですけど、それもすごく素敵で。全幅の信頼を置いている方ですね。


ーー深沼さん自身もボーカリストだから、感覚でわかり合えるところがあるのかも。


chay:それはあると思います。言葉に出来ないようなニュアンスを共有できる方です。どんなときも人のことを否定しない方です。ライブのときもギタリストとして参加していただいているのですが、バンド内でリハーサルの途中に意見がぶつかることがあっても、うまくまとめてくれるんです。お会いするたびに「こういう大人になりたい」って思います。


ーーそしてアコギの弾き語りによる「YOU GOTTA BE」(Des’ree)のカバーも収録。


chay:シングルのカップリングには自分が好きな曲、通ってきた曲のカバーを収録していて、5作目になります。シンディー・ローパーやワム!の楽曲、「AS TEARS GO BY」(ザ・ローリング・ストーンズ)をカバーしてきましたが、ジャンルを超えて、色々な挑戦をしたいなと思って。ブラックミュージックって、やっぱりハードルが高いと感じています。独特のグルーヴ、リズム感があるし、それを自分らしく表現するのは難しくて……。でも、このシングルでは新しいことをやってみたかったし、カバーの選曲でも挑戦してみようと思って、「YOU GOTTA BE」を選びました。好きな曲だし、とにかく本気でやってみようって。


ーーアコギと歌だけで、この曲のグルーヴを表現するのは確かに難しいですよね。


chay:はい! 原曲を聴き込むのはもちろんですけど、「まずはブラックミュージックのグルーヴを身体に入れないと話にならない」と思って、マイケル・ジャクソン、ジェームス・ブラウン、スティービー・ワンダーなどの曲をズーッと聴いていたんです。以前から好きで聴いていたアーティストばかりですけど、改めて聴き直すことで発見もいろいろあったし、勉強になりました。ギターのアレンジも自分でやって、指でギターを叩いてリズムを出す演奏にも挑戦できたし、この曲をカバーしたことで、ギターも歌もさらに成長できたと思います。深沼さんにもエンジニアとして参加していただいたんですが、すごく伸び伸びとレコーディングできて。弾き語りは編集できないから、そのときの流れだったり、空気感が大事なんです。


ーー「それでしあわせ」を筆頭に新しいトライ、いままでとは違う表情が感じられるシングルになりましたね。


chay:ビジュアル面もかなり違います。いままでは“ポップ、笑顔”という感じが強かったけど、今回すごくナチュラルなイメージです。自分の視野や表現の幅も広がったと思うし、本当にいい挑戦が出来たと思います。


ーーシングルと同時に初のDVD作品『chay メリクリツアー2015~みんなのことが好きで好きで好きすぎるから~』もリリースされます。


chay:昨年のクリスマスのライブで、衣装も7着あるし、まさに“目でも楽しめる”DVDになっていると思います。イヤなことや悲しいことも私のライブに来ているときは全部忘れて、思いきり楽しんでほしいんです。みなさんを非日常に連れていけるようなライブがしたいし、それはこれからも続けていきたいです。(取材・文=森朋之)