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電車内トラブルで「クリーニング代」の請求、支払わなきゃダメ?【小町の法律相談】

2016年05月27日 11:02  弁護士ドットコム

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子育て中は「なぜこんな場面で、そんなことをするの⁈」と叫びたくなることばかり。Yomiuri Onlineの「発言小町」に相談を寄せた方の場合、電車の中で「子どもが飲み物を振り回してしまい、向かいに座っていた女性と、その娘さんにかかってしまいました」そうです。


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その場でトピ主は謝罪し、請求された通りのクリーニング代(4000円)を支払いました。しかし、その2週間後、「カバン(布製でブランド品ではなかったと思います)にもかかっていたということで、さらに1万円を請求されました」。


トピ主は「言い値で支払いをすべきでしょうか?」と質問しています。


レスには「領収書と引き換えで料金を払えばいいと思います」など、支払いを当然視する声が多く集まりました。中には「(2度目の請求までの)2週間の間に迷惑料でもうちょっと巻き上げてやれ!と思ったか、もしくは入れ知恵をした人間がいたのかもしれませんね」と、トピ主に警戒を促す声も。


トピ主はどう対応するべきなのでしょうか。濵田諭弁護士にお話を聞きました。


(この質問は、発言小町に寄せられた投稿をもとに、大手小町編集部と弁護士ドットコムライフ編集部が再構成したものです。トピ「電車内トラブル クリーニング代」はこちら(http://komachi.yomiuri.co.jp/t/2016/0428/760310.htm?g=15)



 ●言い値で支払う必要はない


相手側が追加で支払いを求めてきている1万円がカバンの「クリーニング代」としてなのか、カバン自体の価値について「弁償して欲しい」のか、ご質問からはわかりませんでしたので、2つのケースをそれぞれ検討してみます。


まず、カバンの「クリーニング代」として請求してきた場合ですが、結論からいえば、言い値で応じる必要はありません。相手側が実際に支出したカバンのクリーニング代の実費について領収書(相手方がクリーニング店からもらったものです)と引き換えに支払うか、クリーニング代の見積書をもらって納得したら支払うのがよいでしょう。


そして、クリーニング代としてお金を支払う際には、支払った金額の領収書を相手方からもらいます(あるいは相手側名義の預金口座に送金する)。可能であれば、「その金額を支払えばトピ主と相手側の間には一切の債権債務がない(「お互いに相手方に支払うべきものはない」という意味)」との清算条項を入れた書面が交わせるといいと思います。そうすることで、その後の追加請求を防げます。


 ●なぜ追加請求されたのか?


トラブル発生時点で支払った「4000円」で問題は解決したとトピ主さんは考えていたようですが、そこに誤解があります。トピ主さんは「クリーニング代」を支払ったのだから、これですんだと考えていたようです。


しかし、相手側は、その4000円は「衣類のクリーニング代」として受け取ったものに過ぎないと考えていた可能性があります。この考えに立つと、衣類以外すなわちカバンのクリーニング代は別途請求できるという話になるでしょう。


先ほど述べましたように、相手側との間で4000円を支払いさえすれば、お互いに債権債務がなくなるとの清算条項を入れた書面(タイトルは「和解書」でも「示談書」でも構いません)を交わし、4000円については領収書と引き換えに現金払いするか、相手側名義の預金口座への送金にすれば4000円の支払いで終わったと考えられます。


もし今回、清算条項を入れた書面も交わさず、言い値での請求に応じて支払ったとすれば、今後もさらに請求される可能性はあります。「クリーニングしても元の状態に戻らなかったから再度クリーニングに出したい」とか、「やっぱり弁償して欲しい」といったケースです。


繰り返しますが、クリーニング代を言い値で支払う必要はありませんし、支払うことになった場合でも、清算条項を入れた書面を相手側との間で交わしておいた方が良いでしょう。


 ●「弁償」として1万円の支払いを求められたら?


カバンの弁償として支払いを求められた同様に、言い値で支払いをする必要はありません。


普通の衣類やバッグ類については、購入時からその価値が下がっていきます。たとえば、3万円で購入したカバンを半年後にリサイクルショップ等に持ち込んだ場合、たとえ1度も使用していなくても、購入額より安い金額で引き取られますよね。


今回のようなトラブルに巻き込まれて、カバンを購入したときと同じ金額の弁償を得られるとすると、トラブル時のカバンの価値との差額分だけ得することになってしまいます。これはおかしいでしょう。


トラブル時点でのカバンの価値が、損害賠償額を決める基準と考えるべきです。


衣類やカバン等の価値は、基本的には、被害を受けたそれぞれの品について、通常の使用期間を考慮して、トラブル時点までの減価償却を行って算定することになります。使用期間とは、商品購入時から、使用しなくなるまでの平均的な期間のことです。


たとえば、3万円で購入したカバンについて、通常の使用期間が5年であると仮定してみましょう。購入時点からトラブル時までに4年が経過していたら、4年分の価値が減ったものと考えて、トラブル時の価値は6000円と算定します。この場合、カバン代としては6000円を支払えばよいと考えます。


また、現在では既に購入できない衣類についても、この考え方で『弁償しなければならない額』が計算できます。本件では問題のカバンが購入時にいくらだったのか、トラブル時に購入から何年経過していたのかで弁償しなければならない金額が変わってきますね。


なお、カバンの弁償として相手方にお金を支払う場合にも、領収書をもらって現金払い、あるいは相手側名義の預金口座への送金にし、相手側との間で清算条項の入った書面を交わさなければ、相手側からの追加請求を完全に封じることはできません。




【取材協力弁護士】
濱田 諭(はまだ・さとし)弁護士
民事事件(不動産取引をめぐるトラブル、労働事件等)及び家事事件(離婚・相続)を中心に業務を行っている。日弁連弁護士業務改革委員会(企業コンプライアンス推進PT)委員。平成27年4月1日より弁護士法人みなみ総合法律事務所の社員弁護士。

事務所名:弁護士法人みなみ総合法律事務所【宮崎事務所】
事務所URL:http://www.hamada-law.jp/