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『海よりもまだ深く』初登場5位 是枝作品が浮き彫りにする、日本映画の興行規模問題

2016年05月27日 11:02  リアルサウンド

リアルサウンド

(c)2016 フジテレビジョン バンダイビジュアル AOI Pro.

 『ズートピア』の快進撃が止まらない。先週末の土日2日間の成績は動員37万5137人、興収5億407万3100円。これで3週連続のトップ。3週目よりも4週目の動員・興収が上回った理由に関しては先週の当コラムでじっくり分析したが、なんと先週末の数字は、その4週目をさらに超えたどころか、公開初週の数字までをも超えている。公開5週目に入って、上映館数が25館減っているにもかかわらずだ(驚異的ヒットを受けて、今週末からまた館数が増える模様)。こんなあり得ないことが起こるのが、ディズニー・アニメのすごさだ。累計興収は既に45億円を突破。この勢いだと60億円超えは確実で、同時期(1週前)に公開されて先週末は4位につけている『名探偵コナン 純黒の悪夢』の記録を最終的に超える可能性も大いにある。


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 ランキング上位の作品の顔ぶれが変わらない中、初登場では最も上位となる5位となったが是枝裕和監督の新作『海よりもまだ深く』。244スクリーンで公開されて、土日2日間で動員8万9510人、興収1億878万8900円という成績は、作品の前評判の高さ、公開時のメディアのバックアップ(先週末には公開に合わせて前作『海街diary』の地上波初放送もあった)からするとちょっと物足りなくも思えるが、作品本来の興行的なポテンシャルからすると十分に健闘した数字と言えるだろう。


 ちょっと気になったので、過去の是枝監督作品との比較をしてみた。是枝監督作品の製作にフジテレビが名を連ねる(その関係は今回の『海よりもまだ深く』まで続いている)ようになった初作品、2013年の『そして父になる』オープニング2日間の成績は、309スクリーンでの公開で動員25万3370人、興収3億1318万6500円。その週の動員・興収で堂々1位を記録。続いて、同じく全国拡大規模(323スクリーン)で公開された2015年の『海街diary』のオープニング2日間の成績は、動員18万1642人、興収2億2911万7100円。動員・興収でその週の2位を記録している。


 公開館数の違い(309スクリーン→323スクリーン→244スクリーン)を踏まえたとしても、今回の『海よりもまだ深く』の数字が伸び悩んでいるよう見えるかもしれないが、『海よりもまだ深く』のような監督のネームバリューが集客において最も重要な作品にとって、今回の244スクリーンというのは十分に「多い」と言える公開規模だろう。過去の是枝監督作品で初めて全国拡大公開(松竹系)されたのは2006年の『花よりもなほ』だったが、動員ランキングでトップ3に入ったのは『そして父になる』が初めて。『そして父になる』と『海街diary』は、是枝監督作品の中ではいわば「特殊な作品」だった。その2作品のように300スクリーン以上で公開される作品には、どうしても「スター映画」という要素が必要となってくる。


 現在の日本映画を取り巻く環境における問題は、100スクリーン以下の小規模公開作品と、300スクリーン前後の大規模公開作品の間の、150スクリーン程度の中規模公開というのが構造上困難なところにある。今回の『海よりもまだ深く』はギャガ配給作品だが、特に東宝、松竹、東映といった邦画メジャー作品、あるいはワーナーのローカルコンテンツ作品だと、300スクリーン前後の公開規模が基本となってしまう。宣伝のリソースが分散してしまうことなど、いろいろ問題はあると思うが、もしその半分の150スクリーン程度の中規模公開作品が恒常的に成り立ち、その規模に見合ったヒットをすればロングランができるような仕組みができたら、日本映画界の風通しは画期的に良くなると思うのだが。日本映画のメインストリームのど真ん中でもなく、インディペンデントでもない、その中間の場所で孤軍奮闘している是枝監督作品は、そんな日本映画界の問題を突きつけてくる。


 ギャガ単独配給作品としてはマックスと言える244スクリーンで公開された『海よりもまだ深く』は、スタートダッシュこそ鈍かったものの、平日の映画館にはこれまで是枝作品にあまり来なかったような年配層の観客も多く詰めかけているという。今週末からは公開館数が減るとの報告もあるが、しぶとい興行を続けて、できるだけ多くの観客に届くことを願いたい。(宇野維正)