「中国の人口は13億もあるから、10人中1人から1円の利益を上げれば、1億円以上の売上げになるよ」
この十数年間、中国マーケットを狙っている日本の企業や経営者からよく耳にする言葉です。しかし残念なことに、中国で売れば何でもうまくいけるとはただのファンタジーで失敗するケースもかなり多いです。最悪の場合は自分の手で立ち上げたブランドを一晩で失うこともあります。(文:ラ・ガイシュン)
中国の商標制度は穴だらけ! 一度登録されると面倒なことに
アップル社のiPhoneを知らない読者さんはいないでしょう。2007年に初代モデルが発売され、以来世界で最も知名度を持っているスマホブランドです。アップルは2002年10月には中国商標局にiPhoneの商標出願をしています。
しかし、2007年に「新通天地科技(北京)有限会社」という中国企業が商標局に「iPhone」の商標権を申請してしまいました。アップル社が2002年に商標申請したのはハードウェアとソフトウェアが属する国際分類第9 類の商標権でした。一方、新通天地が申し込んだのは国際分類第18類。財布、牛革などのレザー製品の商標権です。
アップル社は商標局にも新通天地にも大激怒しました。iPhoneはさらにスマホ業界に知名度がかなり高いブランドなので、馳名商標(ちめいしょうひょう)に認定されるべきです。中国馳命商標は中国の公的なブランド認定制度で、認定されると第三者の不正利用が禁止されるなど、法律的に守られることになります。
その後アップル社は商標局にクレームしてみましたが、商標局と新通天地を止めることができませんでした。iPhone商標権のために数度裁判が行われましたが、結局先月アップルが負けてしまい、もう諦めざるを得ないことです。
「日産」や「ヘネシー」も勝手に商標申請される
被害者はアップルだけではありません。スポーツシューズメーカーのニューバランス社は中国に関連会社を持ち、「新百倫」という訳名で販売活動をしていました。
しかし2015年4月末、中国の裁判所で「新百倫」の商標使用は違法だとし、「新百倫」を先に商標登録していた中国の紳士靴メーカーに9800万人民元(16億4千万円以上)を支払うよう命じる判決が出ました。
上に述べた例のほか、車の「日産」や洋酒の「ヘネシー」といった既存ブランドを勝手に商標登録してしまう会社が中国にはたくさんあります。たとえアップルがiPhoneを正真正銘のオリジナル・ブランドと言っても、中国では必ず正当性が守られる訳ではありません。
また、ニューバランスのような中国で商売を始めた企業に対しても、いつ誰が商標権を主張しにくるか分かりません。ブランド名だけではなく、農産物を売る際に重要になる地名が勝手に商標登録されてしまうケースもあります。
「鹿児島」も商標申請されてしまい、その後県が対応。結果的に申請は無効になりましたが、いちいち対応しなければいけないのは面倒です。人口の多い中国はたしかに魅力的なマーケットですが、その分、ブランド詐欺も多いので油断はなりません。これが、日本企業が憧れる中国マーケットの現実です。
【プロフィール 】
ラ ガイシュン 香港出身。2009年に来日し、現在は都内IT企業セブンコードにデザイナーとして勤務している。本業以外にも、英語・中国語の通訳や雑誌コラムの執筆、海外貿易アドバイザーなど多岐にわたる分野で活動中。【Facebook】
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