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MYTH & ROIDが語る、アニソンの理想形 「わかりやすさの中で個性を出すこと」

2016年05月25日 19:11  リアルサウンド

リアルサウンド

MYTH & ROID

 さまざまなアニメソングやアイドル、アーティストの楽曲アレンジやプロデュースで知られる気鋭のクリエイターTom-H@ckと、日本人離れした歌声とパフォーマンスが魅力の女性シンガーMayuからなるMYTH & ROID(ミスアンドロイド)が、待望の3rdシングル『STYX HELIX』をリリースした。表題曲はテレビアニメ『Re:ゼロから始める異世界生活』のエンディングテーマとして制作された、浮遊感漂うエレクトロナンバー。攻撃的なロックサウンドが特徴だった過去の作品とは一線を画する、MYTH & ROIDの新境地を伝える1曲だ。なぜこのような楽曲が完成したのか、その経緯と制作に対するこだわりを聞いた。(西廣智一)


・「日本人に絶対的に響くメロディラインを意識」(Tom-H@ck)


ーー過去2作はデジタル色を散りばめたロックテイストの強い楽曲でしたが、今作はそこからちょっとシフトチェンジしたように感じました。特に表題曲「STYX HELIX」には、前回のインタビュー(参照:「人生で一番ショッキングなことを表現したい」Tom-H@ck&Mayuが語る、MYTH & ROIDの目指す音楽)でキーワードとして挙がった「無国籍感」がより強まった印象もあります。『Re:ゼロから始める異世界生活』のエンディングテーマということでアニメを意識した部分もあるとは思いますが、実際曲作りの際にはどのように進めていったんですか?


Tom-H@ck:基本的には最初にまずアニメのタイアップを頂いていたので、そのうえでプロデューサー目線で考えたときに、日本人に絶対的に響くメロディラインというのを意識して、そのラインをふんだんに取り入れようと思ったんです。でもそれをMYTH & ROIDでやると、下手すると大衆性が強すぎて「よくある曲だね」「今まで聴いたことがあるね」となってしまう可能性がある。アニメのタイアップ曲であることを踏まえつつその先に行かなければならないということで、今回は上のボーカルラインを民族音楽風にしたり、その下で鳴らすシンセの積み方を少し工夫したりすることで個性を出そうと。そういった要素をミックスしたことで、結果的に無国籍感につながったのかもしれませんね。


ーーなるほど。そういう無国籍感がありながらも、メロディはとても日本的というか親しみやすいものなんですよね。


Tom-H@ck:これは余談かもしれませんが、以前面白い実験をやったことがあって。僕が20代初めの頃に百石元さんに弟子入りしたとき……まだiTunesも今のように当たり前ではない時代だったんですが、ドイツの配信サイトで日本人が超好きそうな楽曲と、いわゆる日本人があまり聴かないような、メロディがペンタトニックでできてない楽曲をアップして、どういう反応があるかを調べたことがあったんです。結果は日本人が好きそうな楽曲があまり受け入れられず、海外向けの曲が高く評価されたんですよ。それこそ『けいおん!』の音楽をやってた頃にも、どういうメロディの流れと音程で音楽が構築されたら日本人の心を掴めるんだろうって研究したことがありましたけど、その経験がこの「STYX HELIX」には詰め込まれているんです。5度で飛んだりとか、ハモりの横のラインと縦のラインの関係性をどう作るとか、そういういろんな理論や技術、知識を凝縮して作ったんです。


・「歌声さえも楽器の部類に入るような表現が多かった」(Mayu)


ーー重ね方によるものなのか、ボーカルからはときどき非人間的な雰囲気も感じられます。


Mayu:今までの2作とは曲調がガラリと変わったので、ニュアンスの付け方も自然と変わってきたところが多々ありました。また「STYX HELIX」は日本語詞の分量が多いので、今までみたいに日本語を英語に聞こえるように歌うというよりはきちんと日本語らしく歌っているんだけども、そこで感情を乗せて聴かせる部分とあえて無機質に聴かせる部分が1曲の中に散りばめられているんです。


ーーその結果、歌に関して前作までと違った印象を受けたわけですね。


Mayu:そうですね。前作「ANGER/ANGER」と前々作「L.L.L.」は強く歌うパートと一気に落ちて静かになるパートがハッキリしてたんです。でも今回は抑揚が少ないんだけどなんとなくカラーが変わっていくタイプの楽曲だったので、そこに声でどう色付けしていくか、過去2作とは違ったやり方でアプローチしました。


ーー前回お話を聞いたときに、Mayuさんのルーツとして洋楽ポップスやロックが挙げられましたが、この「STYX HELIX」からはそことは違う影響が見え隠れしていて。Mayuさんのシンガーとしての新たな資質が表出していると思うんです。


Mayu:本当ですか? 嬉しいです(笑)。「STYX HELIX」での歌唱に関しては、誰から影響を受けたという自覚は特になくて。このサウンド感や醸し出してる雰囲気に自分を落とし込みつつ、こういうふうにアプローチしたらいいんじゃないか、こういうふうに歌ったらいいんじゃないかという話し合いはTomさんやスタッフさんとしているんですけど、そうしているうちに自然とたどり着いたゴールがここだったのかなっていう感じなんです。なので聴いた方の中に「MYTH & ROIDのMayuってこういう曲を歌うときはこの人っぽいな」というのがもしあるんだとしたら、逆に私も気なりますね。


ーーそうだったんですね。またこの曲ではパートによっては、ボーカルが楽器のひとつと化してる瞬間もあって。そこも前作までと違う気がしました。


Mayu:そうですね。今までは掛け声だったりウィスパーボイスだったりいろいろ重ねているものはありましたけど、あくまで歌や声として重ねていて。でも今回の楽曲では歌声さえも楽器やサウンドの部類に入るような表現が多かったので、歌声を楽器の音のように重ねたりしてるんです。そういった部分がボーカルの主メロと相まって非常に不思議な感じや浮遊感、ミステリアスさを作り出しているんだと思います。


・「今までない価値観を美とするやり方に挑戦」(Tom-H@ck)


ーーそういった仕掛けが多々用意された「STYX HELIX」ですが、実はコード進行はすごくシンプルなものですよね。そこは既存のアニソンとはちょっと違うなと思うんです。


Tom-H@ck:かもしれないですね。わかりやすさという意味ではかなりわかりやすく作ったと思います。しかも洋楽的なシンプルさというよりは、90年代後半や2000年代初頭のJ-POPの雰囲気なんですよね。最近特になんですけど、本当の意味で大ヒットするアニソンというのがなくて。市場的に小さくなってきているというのもあるんですけど、そこをどうしたら壊せるかということの答えが、もしかしたら今回の曲なのかもしれない。わかりやすさの中で個性を出すことってなかなか難しいんですけど、そこを狙っていったというのが一番大きいかもしれないです。


ーーコード進行やメロディにわかりやすいシンプルさがあるのと同時に、この曲はループ感が強くて。そこもクセになるポイントな気がするんです。


Tom-H@ck:例えば3000円ぐらいの寿司と銀座とかで食べる3万円ぐらいの寿司って、事前準備とか手間ひまの掛け具合が全然違うじゃないですか。そこは音楽にも共通しているところがあって。例えば以前の曲では1番と2番のサビ最後のドラムフィルは絶対に同じものを入れないとかそういうこだわりがあったんですけど、今回はあえて同じフィルをコピペして使ってるんですよ。僕、本当はそういうことが大嫌いで、若い頃は「そんなクオリティが低いもの、自分は作りたくない!」と思って絶対にできなかったんです。でも今回はそこをあえてやることで、ループ感や中毒性を重視した。実はさっき言った90年代後半や2000年代初頭のJ-POPって、そういう作り方をしている曲が多いんです。だから今回は作家としての価値観を塗り替えて、今までない価値観を美とするやり方に挑戦したというのもありますね。


ーーそのコピペ感というかループ感が、4つ打ちサウンドにもフィットしていると。でも、だからといってダンスミュージックとも違うんですよね。


Tom-H@ck:この曲ではバスドラは全部スクエアで、ハイハットは若干前、スネアはものすごく後ろで鳴っているんですよ。そういう鳴り方で放たれるループ感が、独自のグルーヴを生み出してるんだと思います。普通の4つ打ちとは違う浮遊感は、そこが起因してるのかもしれませんね。


・「あえて静かな感じで歌ったほうが緊迫感が伝わる」(Mayu)


ーー歌詞についても聞かせてください。Mayuさんはこの歌詞の世界をどのように表現しようと考えましたか?


Mayu:MYTH & ROIDの楽曲というのはひとつの強い感情を歌っているんですけど、今回の強さというのは過去2作の強さとはまた別のベクトルで。楽曲は今までと比べてハードな作風ではありませんが、その中にある芯の強さみたいなものを、この歌詞含め歌い方でも表現しているなと個人的には思ってまして。なんて言うんでしょうね、怒りのような強い感情よりも、今回のように悲しみや切なさ、やるせなさみたいなものをアニメのキャラクターの心情に重ねて表現しています。なので『Re:ゼロから始める異世界生活』を知っている人が聴いても知らない人が聴いても共感できる歌詞だと思います。作品を知ってる人が聴けば、「このキャラクターの心情なのかな?」といろいろ想像を膨らませて感情移入することができるし、知らない人が聴いても……例えば恋愛でも友情でも何でもいいんですけど、大切な人を失ったとか後悔していることがあるとかつらい別れがあったとか、そういう形で感情移入できる。そこが今作の魅力だとも思っております。


ーーサウンドから受ける無機質な印象とは相反して、歌詞からは生に対する強い思いが感じられますよね。


Mayu:そうですね。アニメの中に何回も死んでしまうという特徴的な設定があって、この楽曲にも生きていたかったとか、私が生きていられたらとか生に対する思いが表現されている。その思いの強さがあるからこそ、やるせなさや切なさもより一層引き立つんじゃないかなと思っています。


ーーカップリングの「STRAIGHT BET」は、「STYX HELIX」と対照的な内容ですね。


Tom-H@ck:Aメロでは4つ打ちをガンガン鳴らしていて、ベースも16分でダンサブルなんですけど、音のミックスはいわゆるダンス系のものではまったくない。むしろベースはローを削って中域が主体だったりするし、そういうのも含めたアンバランス感が全体的にあると思います。実はこのカップリングはリード曲以上に、アニメの作品をイメージして作ってるんですよ。絵コンテを見させていただいて、こういう場面で流れることを踏まえて作った、完全に音楽職人として作った楽曲です。なので劇伴を作る感覚に近いのかもしれません。


Mayu:「STRAIGHT BET」というタイトルや歌詞から賭け事について歌ってることはなんとなく察しが付くんじゃないかと思うんですけど、このテンポの速さは賭け事を前にした緊張感とその心拍数を表現していると思っていて。なので、逆に私はあえて抑えめに歌ってるんですね。こういった楽曲は強く歌ったり感情的に歌ったりすればいいかというと意外とそうでもなくて、あえて静かな感じで歌ったほうが緊迫感が伝わるんじゃないかなと。そういう点は私自身、このユニットをやって学んだことでもあります。


・「「生と死」をいかにシンボリックに表すか」(Mayu)


ーー今回のシングル『STYX HELIX』はアートワークにも強いこだわりが感じられますね。


Tom-H@ck:あれは素晴らしいですよね。個人的にもすごく気に入ってます。


ーーこのジャケットにはどのような意味が込められているんですか?


Mayu:今回私たちがこの楽曲で表したかったテーマのひとつに「生と死」があって、それをジャケットでも表現したかったんです。いかにシンボリックに表すかというのを考えたときに、みんながこれだなと思ったのがこのデザイン。青や紫の花と、そうじゃない銀色の造花……つまり生花と死んだ花をひとまとめに束ねることで、生と死をひと括りにしているという意味がありまして。アニメ自体に主人公が死んでまた元に戻って、同じ末路をたどらないように選択したり行動していくという特徴的な設定もあったので、そこを含めて生と死を両方束ねている。そして亡くなった人に花を手向けるというのがあるけど、その手向ける花束をあえて逆さに持つことで意味のある生と死なんだよということを表しているんです。


Tom-H@ck:MYTH & ROIDはこういうコンセプトありきで動いてるんです。


Mayu:こんな意味が込められているんだよということをこういう場所でお話しさせていただくことで、それを読んだ方がまた違う作品の楽しみ方ができるというのもMYTH & ROIDの大きな特徴であると思っています。


ーーそれにしても「STYX HELIX」のような楽曲が生まれたことで、次にどんな楽曲が届けられるのか余計に予想しにくくなった気がします。それこそアルバムという形で楽曲が1枚にまとまったときに、どんな曲が揃うのか本当に楽しみです。


Tom-H@ck:実はアルバムを作るときにひとつやりたいなと思ってることがあって。めちゃくちゃすごいオーケストラ曲を作りたいんですよね。ハリウッド映画の劇盤みたいなオーケストラをバックにMayuが歌ったら、それこそJ-POPやアニソンになかった音楽を作れるんじゃないかなって。でもめちゃくちゃお金がかかりそうですよね(笑)。


・「アニメに付随してるけど、その先を行った作品」(Tom-H@ck


ーーMYTH & ROIDはこれまでの3作すべてにアニメのタイアップが付いていることで、アニソンアーティストとして見られることも多いかと思います。しかし、MYTH & ROIDがアニソンアーティストのイメージ像と大きく違うのは、アニメを題材にしてオリジナルな作品を作っているというイメージなんですよね。


Tom-H@ck:僕たちが言うべき言葉を言っていただいて、ありがとうございます。これ、そのまま見出しに使っていただきたいですね(笑)。そうですね、そうなれたらいいなと思ってますし、そこを無意識のうちに狙っているというのもあると思います。アニソンという言葉ってジャンルを括る言葉ではあるけれども、逆に音楽の質を下手に下げる言葉にもなるんじゃないかと思っていて。だからアニメに付随した楽曲は作るけども、結果としてその先を行った作品になっているというのがすごく理想的ですね。


ーー確かに、アニソンという言葉はジャンルを示す言葉ではなくて文化を指す言葉というほうが正しい気がしますし。そういう意味では、ヴィジュアル系という括りも似てますよね。


Tom-H@ck:そうそう。ヴィジュアル系にしてもそう括られることを嫌うアーティストもいますし。面白いことに、アニソンやヴィジュアル系という日本の文化やコンテンツは、外国人から見るとめちゃくちゃ魅力的だったりするんですよね。


ーー確かに。MYTH & ROIDのサウンドには日本人ならではの感性と、日本人がやってるのか誰がやってるのかよくわからない無国籍感の両方が絶妙にミックスされていて、オリジナリティにつながっていると思うんです。先ほどすごく「STYX HELIX」は日本人が好きなメロディにこだわったという話がありましたが、ではその楽曲が海外からどう評価されるのかも気になりますよね。


Tom-H@ck:YouTube動画には日本以外からのコメントもあるんですけど、そこまで詳しく感想を書いている人はなかなかいないので、確かに聞いてみたいですね。


Mayu:基本的に日本で活動しているので日本人のリスナーが楽しめるのはもちろんなんですけども、今はこうして私たちが作った楽曲をネットやCDを通じて海外の人たちに聴いていただける機会も本当に増えていると思います。特に前2作は英詞が多かったのもあって、どんな国の方が聴いても楽しめる無国籍感のあるサウンドと同時に歌詞も楽しめるような歌い方を私のほうからアプローチしていきたいと思っていて。たとえ日本語でも、歌い方次第で聴いている人たちに感情の変化を届けられるんじゃないかと信じています。(取材・文=西廣智一)