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DJ'TEKINA//SOMETHINGが語る、アイドル×EDMの可能性「新しいジャンルが生まれる」

2016年05月25日 19:01  リアルサウンド

リアルサウンド

DJ'TEKINA//SOMETHING

 エモ/スクリーモ/ラウド系をボカロシーンに取り入れたオリジネイターであり、バンド活動も並行して行なう“ゆよゆっぺ”の別人格DJプロジェクト、DJ'TEKINA//SOMETHING。彼が女性グループによる楽曲の数々をEDM風にアレンジした最新リミックス・アルバム、『KAWA-EDM』を完成させた。


 BABYMETAL、でんぱ組.inc、SPEED、SUPER☆GiRLS、東京女子流、BiS、Whiteberryなどを筆頭に目を引く豪華なラインナップは、ゆよゆっぺ名義を含む活動の中でBABYMETAL、でんぱ組.inc、SPEEDの島袋寛子と今井絵理子によるERIHIROなどの作品に関わり、プロデューサー/リミキサーとしても評価を獲得してきた近年の彼ならでは。原曲のよさを生かすことに主眼を置きつつも、四つ打ちEDMからダブステップ、ドラムンベース、清涼感のあるエレクトロ・チューン、果てはトラップに至るまで様々なジャンルを横断し、そこから一貫して“楽しさ”を切り出すことで、彼らしいエクストリームなポップ・ミュージックが、次々に飛び出してくるような雰囲気が生まれている。


 今回は全収録曲とその制作作業を音楽的に解説してもらうことで、「ジャンルやスタイルを問わず、『いいものはいい』」と語る彼の音楽観に迫ってみた。(杉山仁)


・「EDMに可能性を感じた」


――DJ'TEKINA//SOMETHINGという名義を始めた頃は、まだクラブ・ミュージックのマナーもよく分かっていない状態だったそうですね。それから活動を続けてきた今、EDMにはどんな魅力を感じるようになりましたか?


DJ'TEKINA//SOMETHING(以下テキサム):最初は「EDMとは何ぞや?」というところから始まったのですが、やり続けてみて思ったのは「別に何でもいいんじゃない?」ということで。どんな音になってもどんな系統になっても、やっぱり「いいものはいい」ということを、前面に打ち出そうと感じるようになりました。EDMって「人がどういうタイミングで踊れば楽しくなるか」を考えて作られた音楽であり、人間の楽しさを全開にするスイッチを押せるものとして、可能性を感じたんです。あと、私生活も変わりましたね。変なストイックさではなくて、「楽しくなるためにはどうすればいいか」ということをストイックに考えるようになったというか。


――クラブ・ミュージックの「ユナイト」の精神を知ったということですね。


テキサム:まさにそう(笑)。それを発見したんですよ。


――DJ'TEKINA//SOMETHINGとして出演したイベントの中で印象に残っているのは?


テキサム:『ROCK IN JAPAN FES.』と、アメリカのアトランタで行なわれたコンベンションへの出演ですね。この2つは対極で、『ROCK IN JAPAN FES.』は普段クラブに行かないロックリスナーに向けてのDJ、アメリカの方はいわゆるクラブナイトとして自分のスキルを試される機会でした。でもそこで得た結論は、自分がいかに最大限のパフォーマンスをするかが大事かということで。


――自分自身がどんなDJなのかを考えていく作業になったわけですね。


テキサム:ましてや僕の名義は「DJ'TEKINA//SOMETHING(DJ的な何か)」なので、純粋なDJではないんです。アーティストとして出演して、DJという形態でいかにお客さんに知ってもらえるかを考えるというか。だから、2つのイベントはまったく違うタイプですけど、結局得た答えは一緒でした。いかに正直な自分をさらけ出していくかを念頭にやっていくかが大切だと分かったんです。


――このアルバムを前にして、BABYMETALさんの楽曲を筆頭にリミックスを担当することも増えました。そうした作業の中で気づいたことはありましたか。


テキサム:DJであることと、リミックスをやるということは、またちょっと違うんですよ。リミックスはもっとクリエイター的な作業になってくるというか。そこで感じたのは、「日本のアイドルっていいな」ということでした。


――ああ、それが今回の作品に繋がってくるわけですね。


テキサム:そうですね。ゆよゆっぺという人格の方でも色んなアイドルの方とお仕事させていただく機会が増えていますけど、それまで僕はアイドルがどういうものか全然分かっていなかったんです。でもいざ現場を体験してみると、コールもあってケチャもあって「何て楽しいんだ!」と。そんな時に、「アイドルのリミックスをするのはどう?」という話が出て、「いいじゃないですか」と思ったんです。もともとEDMは「楽しい」の極限にあるものであり、アイドルも形は違えど同じ楽しいの極限にあるもので、なおかつ「可愛い」。だから、「『可愛い×かっこいい+楽しい×楽しい=最強』じゃん!」って。


――収録曲を選ぶ時、どんなことを意識しましたか?


テキサム:最初に念頭に置いたのは、僕が少しでも関わらせていただいていて「会ったことがある人」ということですね。でんぱ組.incだと最上もがさんと同じイベントに出たことがあったし、BABYMETALのみんなも何度かお会いしているし。ウェザーガールズの人たちも台湾で会って直接話したりして。そういう人のトラックを優先して選んでいったんです。


――相手がどんな人なのかを理解してリミックスを作りたい?


テキサム:そうです。たとえばレポートをひとつ作るとして、直接お話ししながら作るのと、電話越しに話して制作するのとでは、明らかに出来るものが違うと思うんですよ。それと同じで、僕は向こうのことを知っているし、向こうももしかしたら僕のことを知ってくれているかもしれない。その上でリミックスを作った方が、絶対にいいものが作れると思ったんです。


・「リミックスはいかに『楽曲を引き立てられるか』」


――そこはやっぱり、通常のDJではなく「的な何か」ならではの発想ですよね。それぞれの曲についてどんな風に選んで、作業においてどんな工夫をしたのかを教えていただけますか? まずは1曲目、BABYMETALさんの「ヘドバンギャー!!」から。


テキサム:「ヘドバンギャー!!」のリミックスは、もともとBABYMETALさんのライブの特典CD『イジメ、ダメ、ゼッタイ 世直し盤』に収録されたもので、原曲を尊敬する大先輩NARASAKIさんが担当していることもあって、がっつり作らせていただきました。NARASAKIさんの原曲を「今の技術を使ってどんなことが出来るかな」と、今回少し改変させていただいたんです。


――原曲のヘヴィな雰囲気が、派手目のダブステップの要素で表現されています。


テキサム:そうですね。ドラムステップとUKハードコアの融合を目指して作ったものでしたが、正直最初に作った頃は、自分でもそこまで細やかなジャンル分けは理解できていませんでした。でも、その初期衝動を残した方がいいと思って1曲目に持ってきたんですよ。2曲目のでんぱ組.incさんの「でんでんぱっしょん」は、もともと『でんでんぱっしょん(初回限定 相沢梨紗盤)』に収録されたものです。純粋に原曲が好きで、ドラムンベースを使ってその楽しさを表現しました。ウォブルベースの入れ方も、ドロップ/サビの入れ方も「楽しい」という意味で突き抜けていて、その雰囲気から2曲目にしました。序盤で強いパンチをくらわせて「こういう作品だぞ」「楽しいぞ」って思ってもらいたくて(笑)。「そろそろはじまる」という語りから曲がスタートするのもポイントですね。EDMって、そういうバカバカしさもありにしてしまえる音楽だと思うので、それなら日本的な観点でやってみよう、と。


――そして3曲目は編曲で関わったことがあるDream5さんの「シェキメキ」ですが、すごく清涼感のあるエレクトロ・アンセムになっています。


テキサム:ディズニーのコンピレーションに収録された楽曲をやらせていただいたんですけど、その後ライブ・イベントにお邪魔したら本当にいい子たちで。「シェキメキ」は楽曲がすごくキャッチーだし、BPMもいい形に落とし込めるんじゃないかと思って作業しましたね。「ここからかけて欲しい」と考えてキックインも作っているので、DJユースも意識した曲です。


―― 一方でSUPER☆GiRLSさんの「プリプリ SUMMERキッス」は、リミックスに際して原曲で存在感のあるホーンを取り除いているのが面白いですね。


テキサム:僕なりに(MVに通じるような)夏のギャルたちの可愛さを出したかったんですよ。あと、この曲で何をやりたいか考えた時に、「夏のカワイイギャルを遠くから見てたい」というコンセプトがあって(笑)。下世話ではない、夏の清涼感のあるものに仕上げました。次の「夏祭り」は、もともと自分がDJをする際に助けられた曲。僕は(JITTERIN′JINNによる)原曲をリアルタイムで知っている世代ではないので、Whiteberryさんの「夏祭り」をリミックスして「フェスでまたかけたい」と思って。この曲はゆよゆっぺにギターを弾いてもらいました(笑)。


――ゆよゆっぺさん、忙しそうなのに今回もよく参加してくれましたね(笑)。


テキサム:時間がないところをお願いして……(笑)。この曲は、それぐらいバンド・サウンドを生かすべきだと思ったんです。イントロのギター・フレーズをシンセで弾くと「夏祭り」っぽさがなくなるので、原曲の雰囲気を頑張って残しました。


――続く6曲目、ウェザーガールズの「恋の天気予報」は、サビで一度落とす展開などで原曲のメロディのよさを際立たせているのが上手いと感じました。


テキサム:原曲は編曲もMVの見せ方もアイドルとしての可愛さを上手く作っていると思うんですが、本人たちに会った時に、歌も上手いし、ダンスも凄いし、ポテンシャルが高いということを感じました。そこで今回は、「かっこいい」に振って、グリッチホップにしてみたんです。サビで一度ブレイクさせて、そこからビルドアップしてちゃんとドロップを作るという形で、歌のキレを生かしたいな、と。クラブ・ユースを想定して作った曲で、僕も現場でよくかけることになると思いますね。7曲目の東京女子流さんは、尊敬するkzさん(livetune)が「Liar」をグリッチホップ風にリミックスしていて、超かっこよかったんです。だから最初はどの曲にするか迷いました。でも、ここは明るいとは言えない「鼓動の秘密」を、少しギークな音符の細かいEDMに落とし込もうと挑戦したんです。


――アルバム前半のアゲアゲな雰囲気と綺麗に対比されていますね。


テキサム:曲順も考えました。入口から出口までをどう感じてもらえるかを考えて、間口の広い音から自分の好きな音楽に誘導したりと、色んなジャンルがあることを表現したかったんです。


――次はBiSさんの「IDOL」ですが、この曲にはトラップの要素が入っています。


テキサム:BiSさんは、他のアイドルさんとはまた違ったベクトルで「この人たち、強すぎるだろ」という意味で好きという(笑)。「IDOL」自体もバンド・サウンドの尖った曲なので、リミックスも尖ったものにしたかったんですよ。そこで、ディプロとスクリレックスによるジャック Üなどが取り入れているトラップやトゥワークを入れました。僕は基本的に派手な音楽が好きなタイプなので、トラップは今回作るまで全然面白いと思っていなかったんですけどね。


――トラップは落とすことでアゲる音楽ですしね。しかもそのビートに倍速で乗るということを理解していないと、踊りにくい音楽でもあります。


テキサム:僕も元々そうだったので分かるんですが、日本やアジアの人ってキックとスネアにしか乗れないというか、空白のある音に自分でビートを生成することが得意じゃないですよね。トラップってそこに重点を置いた音楽なので、この曲はチャレンジでした。これは僕の音楽論のひとつでもあるんですけど「食わず嫌いはよくない」と思っていて、やってみたらめちゃくちゃ楽しかったんです。生成する低音もこだわったらキリがないし、ハットワークも無限大だと感じたし、作っている最中にも色々な発見がありました。


――次はCheeky Paradeさんの「チェケラ」。この曲は原曲もEDMっぽい要素がある曲です。


テキサム:大好きなヒゲドライバーさんが作った曲で、<♪チェケラ~チェケラ~>ってめちゃくちゃキャッチーですよね。作業をする中で「ヒゲさん、やっぱりすごいな」と思いました。完成されていて隙がなかったので、サウンドをデラックスにして派手さを出すことにしました。他の曲ではサビが引き立つと思ってドロップを入れたりしていますけど、この曲ではそれもただの蛇足にしかならないというか。「曲のためにならなかった」んです。


――その考え方は恐らく、今回のアルバム全体の雰囲気にもかかわる話ですね。


テキサム:やっぱり、リミックスっていかに「楽曲を引き立てられるか」だと思うんですよ。


・「可能性を感じるものには挑戦していきたい」


――次はZONEさんの「secret base ~君がくれたもの~」。この歌にEDMっぽいビートを合わせるのは、すごく難しい作業だったんじゃないですか?


テキサム:BPMも違うし、原曲が3連のシャッフル・ビートなんですよね。だから本来はこの曲みたいなビートに合わせることが出来ないもので。そこを自然にするために学んできたことを色々と試して、ようやく「よし、合う」というものを見つけたんです。だから、マスタリングをかけるまでは本当に不安でした。この曲は『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない』のエンディングテーマになっていたこともあって、地元の友達とバンドでコピーしていたぐらい好きな曲で、この曲の夏の夕暮れ感はこれからの季節にも合いますよね。


――そして最後はSPEEDさんの「White Love」ですが、勝手に制作した「Body & Soul」のリミックスが本人公認になったりと、もともと繋がりのあるグループでもありますね。


テキサム:僕はもともとSPEEDさんが好きで、そこからERIHIROさんの楽曲を書かせていただく機会もあったので、その時は嬉しくて緊張しちゃいましたね。スタジオで「ねえねえ」って肩を叩かれて「ああ……今背中をめっちゃトントンされとる……!」みたいな感じで(笑)。この曲をリミックスするのは僕の夢でもあったので、ラストに収録しようと思ったんです。


――EDMのパターンとして、最初にドロップが入って観客が盛り上がるというものがありますが、ボーカル素材を公式にもらえたことでそれが出来た部分もありそうです。


テキサム:そうなんですよ。自分の好きにリバーブをかけられて、ましてやそれを生かしたドロップが作れるなんてもう事件だぞ……と。母親に電話をしようかと思ったぐらい感動的でした(笑)。アルバム全体でも、曲のセレクションなどを含めて普通では出来ないことが実現していて、DJ'TEKINA//SOMETHINGをやってきてよかったなと思いました。ゆよゆっぺの方の人格が頑張ってきた結果でもあると思うし、周りで動いてくれた方々にも本当に感謝をしているし。僕ひとりでは出来なかった作品だと思いますね。


――可愛いボーカルとEDMを合わせることに、難しさを感じた部分はありましたか?


テキサム:いや、僕はどんな組み合わせでも、結局のところ「いいものはいい」と思うんです。アイドルだからどうとか、声が可愛いからボトムのある音楽は合わないなとか、そういうことは全然思わないというか。ゆよゆっぺとしてやってきたことも「スクリーモを可愛い女の子のボーカルで表現して何が悪いの?」ということですしね。僕はむしろそこで生まれるギャップや、「ここから新しいジャンルが生まれるんじゃないか」ということの方に興味があるし、音楽的に出来ないことってないと思うので、可能性を感じるものには挑戦していきたい。もしも「アイドルとEDMの融合は分からない」という人がいたとしたら、それはそういう固定観念があるというだけの話だと思うんですよ。そんな人にも聴いてもらうために、選曲や曲順も色々と考えていきました。


――「アイドル×EDM」に限らず、「色々な垣根を取っ払っていきたい」というのが音楽制作のテーマになっているのかもしれませんね。とすると、あとは色んな人にかけてもらえたら最高なんじゃないですか?


テキサム:そうですね。やっぱり、僕にとって一番嬉しいのは、「テキサムさんの曲がかかった」というのを見ることで。そういう風に広がるのってDJ文化の素晴らしい部分だと思うんです。だから、このアルバムを聴いて「よくないな」と思えばかけなくていいですし、「いいな」と思ってもらえる曲がひとつでもあったら、色んなところでかけくれたら嬉しいんですよ。


――最後になりましたが、DJ'TEKINA//SOMETHING=「DJ的な何か」って「結局何なの?」と聞かれたら、今はどんな風に答えますか?


テキサム:結局、「僕という人間である」ということなんですよ。ゆよゆっぺとして制作して、ライブをやって、バンドをやって、DJ'TEKINA//SOMETHINGでDJをやって。そうして思うのは、結局どれも違うわけではなくて、その時々に「僕という人間を最大限さらけ出す」ということで。それがDJの形を取っている時にはこの名義であって、僕という人間自体は変わらない。そういうことなんです。そんな風に思っていただけたら、偏見なく見て頂けるんじゃないかな、と思うんですよね。(取材・文=杉山仁)