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“2.5D”というメディアが繋いだ越境的な音楽 主催イベント『GIRLS DON’T CRY vol.3』レポート

2016年05月25日 18:01  リアルサウンド

リアルサウンド

ORESAMA。(写真=谷浦龍一)

 5月11日、渋谷WWWにて『GIRLS DON’T CRY vol.3』が開催された。


 同イベントは、これまでDAOKO、さユり、livetune+など多くの女性アーティストが出演しており、今回は、2011年5月6日第1回目の放送開始から今年で5周年を迎えるソーシャルTV局「2.5D」が当サイト「Real Sound」と共同開催したもの。ステージではORESAMA、あっこゴリラ、仮谷せいら、CICADA、H△Gの5組がパフォーマンスを繰り広げたほか、イラストレーター・loundrawがデジタルライブペイントを披露したり、幕間にはラウンジでトークイベントが行なわれた。


 イベント冒頭、オープン時刻からメインフロアではloundrawによるデジタルライブペイントが進むなか、MCのアリスムカイデに紹介され、1番手として、tofubeatsとのコラボレーションや良質インディーレーベル<PUMP!>からのリリースなどで幅広いリスナーから支持を集めるシンガーソングライター・仮谷せいらがステージに登場。序盤は「Hopper」、「ニコイチ」と、最新作の2nd E.P. 『Nayameru Gendai Girl』からの楽曲を続け、3曲目には自身が作曲も手掛けたアーバンな音色の「大人になる前に」を歌い上げた。その後は「フロアの隅で」、「Walk This Way」と切なげな楽曲で大人っぽい一面を見せ、ダンサブルな曲調の「MYC」では、観客も心地よさそうに体を揺らすと、最期は彼女の持つ爽やかなキャラクターが存分に発揮された「Nobi Nobi No Style」を歌唱し、ステージをあとにした。


 2番手のCICADAは、アブストラクト・ヒップホップとインディーR&B、そして90年代のJ-POPがクロスオーヴァーしたようなサウンドが特徴の5人組。まずは楽器隊のジャジーな演奏をバックにゆっくりと城戸が現れ、4月にリリースした最新EP『Loud Colors』から「No border」をコール&レスポンスとともに歌い上げてライブをスタート。続けてカットアップされた打ち込みトラックと人力のミニマルなビートが絡み合う「Colorful」や「stand alone」、「Bomb tracc」を披露した。ここで城戸は「初めて見たとかそうでないとか、好きとか嫌いとか、そういうものをぶっ壊していきたい」とMCで熱く語り「アウトライン」を演奏。CICADAの楽曲はヒップホップとソウル、クラブミュージックの要素を上手くミックスした演奏も聴きどころのひとつだが、城戸のパワフルなボーカルが“歌もの”としての魅力を加えていることで、ジャンルの垣根を壊すポップスとして機能していることも記しておきたい。


 7曲目にはそんな彼女の歌を前面に出した「閃光」をパフォーマンスすると、最後は城戸が「昨年自主企画をやったときは広い場所だと思った。あのときも今も沢山の人に音楽を届けたくてここまできました。ワンマンも最高のパフォーマンスをするので是非来てください」と語り、Nujabesを彷彿とさせるようなトラックと城戸のボーカルに、プレイヤー陣が力強いバックコーラスで応える「YES」を演奏した。


 CICADAの出番が終わると、ラウンジではトークセッションの第一弾として、H△GのChihoとShoko、ORESAMAのPONとKOJIMAが登場。以前の取材でPONは「H△Gのライブを見たい」と言っていたことから実現したこの組み合わせについて、ChihoとShokoは「なんとなく読んでいたら自分たちの名前が出てきてビックリした」と恐縮。2人はORESAMAのライブにおける魅力について、「PONちゃんの声が可愛いのと、気分がワクワクする感じ」と語ったり、互いの新曲について軽快なトークを繰り広げた。


 3番手のあっこゴリラは、2015年から紙芝居ラッパーやフリースタイルバトルMCとして話題を呼んだアーティスト(現在は紙芝居を卒業)。彼女のステージでは、ゲーム『ドンキーコング』のサウンドトラックを使用したSEとともに、カディオ(Dr./QUATTRO)、Ryuki(Ba./前田竜希)、武田駿平(Gt.)、福山タク(Sax.)という、屈強で顔の濃い男性メンバーで構成させた“ジャングルバンド”が顔を揃え、会場にはここまでと違った熱気が漂う。


 そこへあっこゴリラが現れ、カディオとあっこゴリラのラップからスタートする「ゴリラ夫妻」でライブをスタート。「TOKYO BANANA」、「KAMIKAZE」、「ゴリラの生態」と続けたあとのMCでは、「ラッパーって大体地元を背負っているわけですけど、私はジャンルの垣根をぶっ壊してバナナのように食っちまうかということで、“レぺゼン地球のゴリラッパー”として地球を背負っているんです」と語り、ジャングルバンドのセッションから、あっこゴリラがフリースタイルを披露。5曲目にはネットの誹謗中傷をネタにしたラップに合わせ、観客がケチャを繰り出す「ハゲ」で会場を盛り上げた。ここで少し時間が巻いていることに気付いたあっこゴリラは、カディオとのユニット“ゴリラ夫妻”の活動内容について解説したあと、最後には女性の幸せについて緩急をつけたラップとバンドサウンドが特徴的な楽曲「ビューティフル・ウーマン」を繰り広げ、ステージを後にした。


 あっこゴリラのステージが終わると、ラウンジでのトークセッションには2組目の仮谷せいらと城戸あき子が登場。先週もライブで共演したばかりという両者は、CICADAがこの日からコーチジャケットを販売し、それを仮谷が着用していることから、2組のグッズやアートワークがお洒落であることに及び、城戸は「マネージャーがオシャレ番長で、ぐいぐい引っ張ってくれている」とコメント。仮谷は「アートディレクターの水谷慎吾さんがオシャレなんです」と述べつつ、グッズの方向性について「普段使いできるものを意識している」と語ってくれた。


 イベントも後半に差し掛かり、メインステージに現れたH△Gは、ボーカルのChihoを中心とした、コンポーザー&クリエイター集団。今回はバンドメンバーを除く、ChihoとShokoの2人編成で登場し、切ないピアノの旋律から徐々に盛り上がりを見せる人気曲「星見る頃を過ぎても」からライブをスタート。続けて四つ打ちのダンストラックとChihoのクリアな歌声が甘酸っぱさを感じさせる「セブンティーン」、トークセッションでも制作理由について語っていた「△(ティアドロップ)」など、新曲を惜しみなく披露。ダイナミックな演奏がない形態ならではといえる、シンプルで繊細なパフォーマンスで楽曲をしっかりと聴かせていた。


 続けて「ナズナ」をパフォーマンスしたH△Gは、Shokoが「5周年という大事なイベントに呼んでもらえることって、言葉よりなによりすごく素直に伝わって嬉しい」と喜びをあらわにすると、続けて「最後は盛り上がっていきましょう!」と、疾走感のあるエモーショナルなサウンドに、Chihoの清涼感ある歌声が乗った「カラフル」を披露し、会場を盛り上げたところで出番が終了した。


 この日最後のトークセッションには、あっこゴリラが単独で登場。彼女は現在の活動状況について「最近までスランプだったけど、『私、スターウォーズを作ればいいんだ!』と思いついて抜け出しました」と語り、その理由について「元々小説家になりたかったから、ストーリーを書いてそこに載せていくのが合ってるんです」と解説。時折観客イジりを交えて笑いを取りながら、「今作っているものは年内に発表できると思うけど、まずは『ドンキーコング』に来てほしい」と、ジャンルレスな出演者が顔を並べる自主企画についてアピールし、トークセッションは幕を閉じた。


 トリを務めたのは、渋谷を拠点に活動する次世代ポップユニット・ORESAMA。まずは、イラストレーターのうとまるが手掛けた絵を使用したカラフルな映像とともに、サポートのDJ モニ子がスケールの大きいビートで会場を一気にダンスフロアへと変えたあと、PONとKOJIMA、そして同じくサポートの夏海ルイ(Ba.)を加えた3人が登場。ドラムレスの4人編成で、まずはMVをフロアに投影しつつ、各作品のリードトラックである「乙女シック」「オオカミハート」から、この日ミュージックカードを先行したばかりの新曲「銀河」を披露。同曲はトークセッションでKOJIMAが「四つ打ちではないものに挑戦した」というように、彼らの新たな可能性を秘めた、ミディアムテンポのナンバー。PONもトークセッションでの宣言通り、すべての観客へ目配せをしながら、基本的にはキュートに、時折艶っぽく熱唱。KOJIMAも代名詞であるクールなカッティング奏法でこれに応える。


 ライブ後半は、90年代のアニソンをアーバンに加工したような「Listen to my heart」、オリエンタルなメロディとPONの跳ねるようなボーカルワークが特徴的な「アイヲシル」を立て続けにパフォーマンスすると、最後はこの日初披露となる新曲「綺麗なものばかり」を演奏。ORESAMAがこれまで打ち出してきたポップなイメージを打破するかのように細やかなトラックと、PONによる切なげな歌詞と緩急の付いたボーカルが印象に残る楽曲だった。


 すべてのパフォーマンスが終わると、アリスムカイデの呼びかけに応えてモニ子とPONが再登場。loundrawの書き上げたイラストを観客に向けて披露し、イベントは終了した。


 各ジャンルの出演者がポップな一面を持ちながら、他との垣根を越えるべく、パフォーマンスやトークを繰り広げた今回のイベント。これらのアーティストを繋ぎ合わせた2.5Dという一つのメディアが持つ力を改めて知らしめられた一夜だった。


(取材・文=中村拓海/写真=谷浦龍一)


<セットリスト>


■仮谷せいら
1.Hopper
2.ニコイチ
3.大人になる前に
4.フロアの隅で
5.Walk This Way
6.MYC
7.Nobi Nobi No Style


■CICADA
1.intro
2.No border
3.Colorful
4.stand alone
5.Bomb tracc
6.アウトライン
7.閃光
8.YES


■あっこゴリラ
1.ゴリラ夫妻
2.TOKYO BANANA
3.KAMIKAZE
4.ゴリラの生態
5.ハゲ
6.ビューティフル・ウーマン


■H△G
1.星見る頃を過ぎても
2.セブンティーン
3.△(ティアドロップ)
4.キズナ
5.カラフル


■ORESAMA
1.KARAKURI
2.乙女シック
3.オオカミハート
4.銀河
5.Listen to my heart
6.アイヲシル
7.綺麗なものばかり