華やかなイメージの広報部員だが、その役割は「企業イメージの向上」から「商品・サービスの認知度向上」まで幅広い。ニコニコしているだけでは務まらない仕事だが、特にベンチャー企業では組織の蓄積がなく、担当者が孤独に悩むことが少なくない。
そんな同じ悩みを持つ広報担当の女性15人が集まり、埼玉・大宮の温浴施設に泊り込んで勉強会を行った。そこではどんな話が交わされたのか。株式会社リッチメディアのマーケティング本部に勤務する内山佳子さん(2016年度新入社員)にレポートしてもらった。
社内に相談相手が少ないベンチャー企業の広報
リッチメディアの内山です。当社は「ヘルスケア大学」や「スキンケア大学」などヘルスケアやビューティ領域の情報提供やサービス運営を行うITベンチャーです。
入社前年の2月に内定をもらい、広報部の先輩社員のもとで自社サイトのブログ更新などを担当していました。ところが11月になって、その先輩が急に退職することになり、会社の広報を一人で任されることになったのです。
学生の私にとって「広報って何をしたらいいの?」というところからのスタート。不安な気持ちをヨソに、いきなりプレスリリースの作成を求められ、「メディアに露出させるためには?」ということを自分で考え行動する立場になってしまいました。
右も左もわからず「誰か助けてー!」と叫びたい気分でいたところ、東京PRアカデミー主宰の栗田朋一さんが社会人1年目の広報5人を集めた「新卒広報懇親会」を2016年1月に開催すると聞き、学生だった私も参加させてもらうことにしました。
そこで分かったのは、社会人として活躍している先輩たちも数多くの悩みを抱えていること。そして社内には相談相手が少ないということ。不安だらけの私は、同じように困っている新人広報たちがいるのではないかと思い、「じゃあ、皆さんで合宿しましょうよ!」と思わず提案していました。
「結局、何のリリースなの?」と根本的なダメ出し
こうして実現したのが「広報U-24強化合宿」(4月22・23日開催)。仕事終わりの金曜日、大宮の「おふろカフェ utatane」に集まったのは、私を含む15人の新任広報たち。社会人のほか、19歳と21歳の大学生広報も参加していました。
参加者に共通するのは右も左も分からない中で、いきなり広報を任され、会社から成果を求められている点。入社早々、いきなり壁に打ち当たっている状況です。
お風呂に浸かって週の疲れを取り、カフェのおいしいご飯で腹ごしらえをしたら旅行気分は終わり。20時を回ったところで、いよいよ本格的な合宿がスタートです。栗田さんと東邦レオの広報室長・熊原さん、埼玉新聞経済部の記者さんが講師を務めます。
講義では、記者さんがどんなプレスリリースを求めているのか、マスコミの方へのプレゼンで気をつけることなどを学び、私たちがプレゼンする場も設けられました。実際に使用したプレスリリースを披露すると、早速「公開処刑」に遭うことに。「結局、何のリリースなの?」「誰に読んでもらいたいの?」といった根本的なダメ出しから、
「リード文までしか読まないので、そこにメッセージを込めないと」
「何がニュースなのか、どういう記事を書いてもらいたいのか分からない」
「会社が言いたいことを言っているだけのリリース。記者が知りたいこと、その先にいる読者が知りたいことを書くべき」
など基本的な事項に関する指摘が相次ぎました。
「4社合同企画」の内容を夜中まで議論
見た目を整えても伝わる内容にはならず、プロから見たら全くの駄作という評価。しかし「広報」の仕事を知る上司や先輩が社内にいないため、そんなリリースでも通ってしまう現状があります。厳しい外部の目を意識する必要性を痛感しました。
時計が23時を回っても、まだまだ終わらぬ広報強化合宿。参加者を3つのグループに分け、共通点を見つけて「4社合同企画」を考えるグループワークに進みます。サービス内容や規模も全く異なる企業が集まり、マスコミに売れる企画を考え出さなければなりません。
タイムリミットは翌朝8時。まずは組織や制度、社長や社員、事業など会社のさまざまな情報をシェアし、共通点を探します。しかし単に共通ということだけではネタにはならないので、ニュース性のあるトレンドと上手につなぐ必要があります。
私たちが取り上げたのは、ベンチャー企業ならではの「社員のモチベーションアップ施策」。制度やイベントの内容が似ているだけでなく、その目的を確認することで共通する会社の課題があることに気づき、そこに世の中のトレンドや季節ワードを絡めて企画に落とし込んでいきました。
構成は「企業の五月病対策」という切り口で大手企業の取組みを調べ、そこに予算の乏しいベンチャー企業ならでは企画を絡めるというもの。こうして夜通し納得のいくストーリーになるまで話し合っていると、最初は照れくさかったメンバー間にも、いつの間にか団結が生まれていました。
同じ悩みを持つ良きライバルができた収穫
朝を迎え、いよいよプレゼンの時間。企画として甘い部分は多々あるものの、異なる企業が集まってゼロから造り上げる感覚は、とてもワクワクする瞬間でした。幸い講師陣からも「面白い!」と高い評価。他のチームも「アルバイトスタッフの活用と戦力化」や「女性の働き方」など興味深いテーマで発表していました。
全チームの発表が終わった後、栗田さんから「皆さんの発表内容に共通して加えられる要素がひとつありますね?」との問いかけ。参加者から「ゆとり!」の声があがりました。「ゆとり世代」の視点でストーリーを作ってみると、私たち自身が感じていることや置かれた境遇などを赤裸々に語れるため、企画に魂がこもる、血が通ったストーリーになるというわけです。
この合宿で一番の収穫は何だったか。もちろんプレスリリースの書き方やプレゼンの仕方、メディアに売り込むストーリーの立て方など具体的なノウハウを学べたことは大きな収穫ではありますが、それ以上の価値は「社外同期」ができたことでした。
社内に閉じこもらず社外に出て、アンテナを張りながら互いに助け合える、同じ悩みを持つ仲間。未知の世界で戦う新米広報には心強い支えになり、良きライバルとしてお互い成長し合える気がします。
まだまだ広報という仕事の入口に立ったばかりで、自信をもって仕事ができる状態にはありませんが、これからの社会を一緒に歩んで行ける仲間を得られた強化合宿。1泊2日という短い時間の中に、ぎゅっと可能性が凝縮されたような濃い時間でした。
あわせてよみたい:なでしこ広報が行く!