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Drop's・中野ミホが示す、強いバンドになるためのビジョン「誰かが引っ張らないとブレちゃう」

2016年05月24日 17:01  リアルサウンド

リアルサウンド

Drop's

 映画『無伴奏』(原作:小池真理子 監督:矢崎仁司 主演:成海璃子 池松壮亮 斎藤工)の主題歌「どこかへ」、映画『月光』(監督:小澤雅人 主演:佐藤乃莉 石橋宇輪)の主題歌「月光」を含む4thフルアルバム『DONUT』を完成させたDrop’s。メンバー全員が作曲に参加した前作『WINDOW』から約10カ月という短いスパンでリリースされる本作は、メインソングライターの中野ミホ(V&G)がイニシアティブを取り、彼女自身のリアルな感情が表現された作品となった。


 リアルサウンドでは中野ミホの単独インタビューが実現。「“こういうアルバムにしたい”と方向性を自分で示したほうがいいと思った」という本作『DONUT』について語ってもらった。(森朋之)


・「自分に近い曲のほうがもっと強く届くんじゃないか」


ーーニューアルバム『DONUT』が完成しました。前作『WINDOW』からわずか10カ月でのリリースですね。


中野:『WINDOW』をリリースした直後に「次は、行き当たりばったりではなくて、ビジョンを持って作ろう」ということになって、早めに曲を作り始めたんです。そういうことは初めてだったんですけどね。


ーー当初はどんなビジョンがあったんですか?


中野:『WINDOW』はバンド全員というか、私以外のメンバーが作った曲もあったり、みんながやりたいことを詰め込んだ感じのアルバムだったんですよね。歌詞に関しては物語の要素が強い、フィクション的なものを書いていたんですが、今回はもうちょっと私の個人的な部分、パーソナルな色を出せたらなって。自分に近い曲のほうがもっと強く届くんじゃないかって思ったし、“自分をどこまでさらけ出せるか”というか、正直になればなるほど、聴いてくれる人も“自分の歌だ”って思ってくれるんじゃないかなって。だから“歌詞ありき”の曲作りも増えたんですよ。


ーー歌詞を先に書くということですか?


中野:一行目からガッツリ書いていくという感じではないんですけど、テーマみたいなものが先にあって、そこから膨らませていくことはありましたね。去年、アコギを買ったことも影響してると思います。ひとりでアコギを弾いてるうちにフレーズが浮かんで、そのまま曲にしていくことも増えたので。なので、自然とスロウな曲が多くなったところもあるんですけどね。“ライブで盛り上がる”とかではなくて、たとえば仕事帰りとか、ふとしたときにじっくり聴ける曲というか…。私もそういう音楽が好きだし、より素の自分に近いものが作りたくなったんだと思います。


ーーアコギと歌がメインになっている「ダージリン」あたりは、まさにそうですね。バンド全体のことよりも、まずは中野さん自身に近い歌を作ることを優先したと。


中野:そうですね、自分のことばっかり考えてました(笑)。何て言うか、もうちょっとワガママにやろうと思ったんですよね。メンバーに「どの曲がいいと思う?」というアンケートも今回は取らなかったんですよ。『WINDOW』のときに作りかけていた曲もあったんですけど、それも見送らせてもらって、「今回はこうやります」という感じで進めたので。バンドはそれぞれ違う人の集まりだから、作品を作るときは誰かが核にならないといけないと思うし、それは自分の役割だなって。


ーーリード曲「ドーナツ」の〈わたしはドーナツ からっぽなだけの〉という歌詞にも、中野さん自身の心情が表れているんですか?


中野:そうですね。「ドーナツ」は弾き語りライブのために作った曲で、バンドでやるかどうかも考えていなかったんです。誰かにこの気持ちを伝えたいというよりは、独り言をつぶやくように書いたというか……。もともと私には「自分はこうだ!」って世の中に訴えたいものがあまりないんですよね。あと、好きな音楽とか映画、本とかについても、人から影響を受けてるなって思うこともあって。いろいろ考えていると「自分の中身って、ホントは何もないんじゃないか」って……。


ーーでも好みはハッキリしてるじゃないですか。オーセンティックなブルース、ロックンロールが好きとか、カフェよりも純喫茶とか。


中野:(笑)じつは流行を気にしている部分もあるんですよ。純喫茶が好きだけど、雑誌に載ってるようなオシャレなカフェも気になったりとか。でも、それも毎日のように変わっていくことだし、そういう自分も肯定すべきというか「からっぽでいいんじゃないか」と思えるようになって。それが最後の曲「からっぽジャーニー」につながっていくんですけどね。


ーーなるほど。映画の主題歌として制作された「どこかへ」「月光」も、このアルバムのポイントだと思います。まず「どこかへ」は映画『無伴奏』の主題歌。『無伴奏』は1969年の東京を舞台にした作品ですが、この時代、中野さんもすごく興味があるんじゃないですか?


中野:はい(笑)。だから最初はすごく意気込んでしまったところもあったんです。まず原作の小説を読ませてもらって、その物語を頭に入れながら1曲書いたんですけど、監督さんに「この曲じゃないな」と言われて。「映画のことは気にしなくていいから、たったひとりの人に向けたラブソングを書いてほしい」という監督さんの言葉を受けて書いたのが「どこかへ」なんです。自分とメンバー以外の人と一緒に作る体験は初めてだったし、すごく刺激的でしたね。


ーーしかも「ひとりの人に向けたラブソング」というテーマは、アルバム全体の方向性とも合致してますよね。


中野:そう、この曲の影響はすごく大きかったんです。「どういうストーリーにしようかな」って考えるのではなくて、一行目から日記みたいな感覚で素直に書いていって。「どこかへ」が出来たとき「自分史上、いちばんいいな」って思えたんですよね。私は『無伴奏』の時代を生きていたわけではないですけど、昔も現在も未来でも、人からポロッと出てきた歌だったり、その素直な部分はどんな時代も変わらないんじゃないかなって。そういう書き方って大事なんだなって実感できたし、それはこのアルバム全体の空気にも影響していると思いますね。


・「個人的なことを歌っていたとしても、あまり感情的になりすぎるのは良くない」


ーー「月光」(映画『月光』主題歌)はどうですか? この映画は女性に対する性暴力がテーマになった、非常にシリアスな作品ですが。


中野:まず台本を読ませていただいたんですが、扱っているテーマ、メッセージ性がすごく強くて、「どうしたらいいだろう?」ってすごく悩みました。「最後に光が見えるような曲にしてほしい」という話もあったし、自分もそのほうがいいと思ったので、そこから曲を作り始めた感じですね。あとは映画のなかでピアノが大きなキーになっているので、ピアノをフィーチャーした曲にしてほしいという話もあって。暗い夜のなかでピアノの音が聴こえてきて、月の光が差してくるというイメージだったり、しんどいこと、きついことはあるけど、それでも誰かとの関わりを求める気持ちだったり…。映像を観る前に作ったんですけど、映画にちゃんと合ってる曲になって良かったです。


ーー「月光」は歌の強さも印象的でした。アルバム全体を通して中野さんの歌が前面に押し出されていると思うのですが、ボーカルのスタンスにも変化があったんでしょうか?


中野:そうですね…。個人的なことを歌っていたとしても、あまり感情的になりすぎるのは良くないと思っているんですよね。それは『HELLO』(2014年7月リリースの2ndアルバム)くらいから思ってることなんですが、スッと歌ったほうが届く場合もあるんですよね。ユーミンさんが好きなんですけど、曲を聴いているとすごくサラッと歌ってるなって感じることもあるし。レコーディングのときに「どっちのテイクがいいかな」って迷ったときも、力が入ってないほうを選ぶことが多いんですよ。


ーーライブの歌い方も同じ考え方ですか?


中野:ライブではどうしても歌が聴こえづらくなるので、「言葉がハッキリわかるように歌う」ということは気を付けてます。それもこの2~3年で気付いたことですね。まあ、ライブのときに感情的になってしまったら、それはそれでいいんですけど(笑)。


ーーサウンドの幅も確実に広がってますよね。たとえば「グッド・バイ」は海外のインディーロックのテイストが感じられて。こういうアプローチはいままでなかったんじゃないですか?


中野:そうですね。流行ってるサウンドの取り入れ方はわからないですけど、古いものばっかりでも良くないというか、自分たちにとってもおもしろくないし。最近、いわゆるUSインディー系のバンドを聴いたりしてるんですよ。ぜんぜん知らなかったんですけど、偶然Summer Twinsというバンドを見つけて、そこから同じレーベルのバンドをチェックしたり。詳しくはないですけど、ネットでCD買ったりはしてますね。


ーーやっぱりCD派なんですね!


中野:札幌に住んでるから、届くのが遅いんですけどね(笑)。CDだとそのままメンバーにも貸せるし、“CDを買った”という満足感もあるので。ダウンロードってやったことがないんですよ。お金の払い方が分からないので…。


ーー(笑)。でも、最近気になってる音楽のモードもちゃんと反映されているということですよね。


中野:あ、そうです(笑)。いい意味で脱力感があるというか、作り込み過ぎてない部分も欲しいなって。「LONELY BABY DOLL」もそうなんですよ。アルバムの休憩地点じゃないけど、遊びみたいな要素の曲を入れたいと思って。この曲、カセットテープに録音して、ラジカセで鳴らしたものをマイクで録り直してるんですよ。


・「ひとりでは出来なかったアルバム」


ーーカッコいいですよね、音の粒子が粗くて。楽曲、サウンドの両面でDrop’sの新しい分岐点になる作品だと思うのですが、中野さん主導でアルバムの制作を進めたことで、メンバー同士の関係性にも影響があったんじゃないですか?


中野:私が思い描いている景色だったり、「こうしたい」という意図をメンバーがすごくわかってくれるんですよね。たとえば「この曲は冬の朝のイメージなんだよね」とか「単調なんだけど、ギターは歪んでいて」みたいなことを言っても、「そう、それそれ!」という演奏をしてくれるし、想像以上のものを持ってきてくれることもすごく多くて。ホントに理解してもらってるんだなって改めて感じたし、ひとりでは出来なかったアルバムだと思いますね。メンバーには「ワガママばっかり言って、すいません」って言いましたけど(笑)。


ーー中野さんが自分の意志を明確に示すことで、バンドの結束が強くなったというか。


中野:ひとつの方向性を示したことは良かったなって思います。レコーディングの雰囲気もすごく良かったし。さっきも言いましたけど、やっぱり誰かが引っ張らないとブレちゃうんですよね、バンドは。だったら、そこは私が前に出ていこうと。音楽を作るときはワガママを言うことが必要だけど、そのぶん、そうじゃないときは優しくなろうとも思いましたね。「言い過ぎたな」と思うこともホントに多いので。


ーーソングライターとしても良い経験になったのでは?


中野:何だかんだ言っても、自分の生活とか、本当に感じていることじゃないと、曲は書けないんだなって思いました。自分のことを歌うしかないんだなっていうか…。


ーーふだんの生活を充実させることも必要かも。


中野:家に閉じこもってないで、出かけたほうがいいですよね(笑)。本を読んだり映画を観るのはすごく好きなんですけど、「良かった」だけで完結しちゃうところもあるんですよね。本屋に行くのは好きなんだけど……何の話でしたっけ?(笑)。


ーー(笑)。『DONUT』リリース以降はどんな活動になりそうですか?


中野:ライブをやって、曲も作りたいです。…普通ですね(笑)。でも、曲は常に書いておいたほうがいいと思いましたね、ホントに。『DONUT』の曲、季節感が偏ってるんですよ。秋冬の曲を書いてたのが、すごく出ちゃってて(笑)。曲を書くモードに自分を引っ張って、いっぱい作りたいですね。(取材・文=森朋之)