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SHE'S 井上竜馬、メジャーへの決意を語る「“ピアノロック”というワードのアイコンになりたい」

2016年05月23日 18:01  リアルサウンド

リアルサウンド

SHE'S井上竜馬(写真=下屋敷和文)

 トリッキーに進化するダンスロックと、いわゆるYOUTH WAVEと称される次世代インディバンドだけが若い世代のバンドの中軸を成すわけじゃない。メロディがこれほど推進力になっているバンドは久しく表舞台に登場しなかったのでは? と思うほど、バンド全体が歌うように曲を組み上げていく、それがSHE’Sの特徴だろう。アンサンブルの重要な位置にピアノを配置した彼らの音楽は、これまで、ポップシーンはともかく、日本のロックシーンでメインストリームに駆け上がることはなかった“ピアノロック”。なぜこのスタイルを選び、掲げるのか? メジャーデビュー・シングル『Morning Glow』のリリースを機にソングライターでフロントマンの井上竜馬にその理由を訊く。(石角友香)


SHE'S「Morning Glow」動画はこちら


■「好きなバンドの芯には、メロディが豪快で覚えやすいという共通点がある」


――井上さんの最初の音楽体験ってなんですか?


井上:小学校1年の時に一回り上の従兄がピアノを弾いてるのを見て、「僕もピアノ弾きたい」と親にお願いしたのがきっかけです。それからもJ-POPなどは全く聴かず、クラシック音楽を聴いて、ピアノを弾いてって感じやったんですけど、小学校の4、5年頃、母の車で流れるJUDY AND MARYやBUMP OF CHICKENを聴くことが、ロックサウンドに触れるきっかけでした。でも自分から積極的にCDを買うとか聴き漁るとかではなく、車でかかってたら聴く程度だったんですけど、中学の時にラジオでELLEGARDENが流れてきたのを聴いて、初めてどハマりしてCDを買い漁って、コピーバンドしてっていうのが、バンドをやることになったきっかけですね。


――自分からピアノをやりたいと言ったのは、何が楽しそうだったんでしょう?


井上:ちっちゃい頃なんで、そこまで衝動的な感動は覚えてないんですけど、でもそっから辿ってきた音楽とか、聴いている音楽を考えても、ピアノのきれいな音や透明感が好きなんやろなと思いますね。


――ピアノ教室は何歳まで?


井上:中学3年生までですね。当時の映像を見ると、「うわ、俺うま!」とか思うんですけど、今はもう独学で。高3でSHE’Sやろう、ピアノロックやりたいなと思った時には、指は全然動かないし、楽譜も読めなくなってて、高校からはずっと耳コピでやってます。あれ、不思議ですよね。


――ピアノ、どれぐらいまで上達しましたか?


井上:練習が嫌いなガキで(笑)、先生にわがまま聞いてもらって好きな曲を好きな時に弾くっていうスタイルで。ベートヴェンやモーツァルトは好んで弾いてたけど、ショパン全然弾けへんとか。


――自分で好きな作曲家が分かってたんですね。


井上:単純に曲のクセってクラシックにもあるんで。バッハは賢いスーツ着たメガネの人っていうイメージがあって。ベートーヴェンは言葉数も少ないし近寄りがたいけど喋り出したら実はフレンドリーみたいな(笑)、そういうイメージがあったので、とっつきやすい作曲家の曲を弾いてました。何考えてるかわからない人は弾かなかったですね、シューマンとか。


――井上さんは、モーツァルトが好きそうですね。


井上:(笑)。一番弾いてました。楽しんでそうな感じがすごい好きやったんですよね。


――クラシックピアノに挫折して、他のジャンルに転向する人もいると思うんですが、井上さんの場合ELLEGARDENに出会ってしまったと。でも何か相通じるものを感じます。


井上:そう言われますね。メロディの感じとか歌い方とかも。でもクラシック以降に聴き始めた音楽って、全部洋楽で。僕にとってたぶん、体や耳に馴染むのが邦楽より洋楽やったっていう。


――ELLEGARDENも邦楽と思ってなかった?


井上:そうです。最初、洋楽やと思ってたし。でも聴いていくうちに日本語もあって「日本人なんや」って気づいたぐらいで。そこからELLEGARDENのルーツになってる音楽を辿っていって、ウィーザーとかニュー・ファウンド・グローリーとか、ポップパンクに手を出していって。YouTubeの関連動画でピアノロックバンドを見て、「うわ! 何これ?」って、その新鮮さにカルチャーショックを受けたんです。J-POPにピアノの音があるのは当たり前なぐらい馴染みがあるんですけど、ロックの衝動感のあるサウンドの中に、すごい透明感と存在感があるピアノが舞ってるように鳴ってるっていうのは、僕にとって新しさしかなかった。今でこそピアノロックってちょっと浸透しつつあるんですけど、その時は全然なくて。なので、「これは自分がやるしかない」というか、「俺ピアノ弾けるし、できんじゃない?」と思って始めました。


――ちなみにウィーザーやニュー・ファウンド・グローリーの関連動画では何が出てきたんですか?


井上:最終的にジミー・イート・ワールドに行って、ジミー・イート・ワールドはピアノはないんですけど、エモのジャンルをどんどん掘り下げていったときにメイってバンドにたどり着いて、もうそれが僕にとって人生変えるぐらいの出会いやったというか。だからピアノエモとかピアノロックをやろうと思ったのはメイがきっかけですね。


――井上さんの場合、それらの音楽にエモやクラシックの概念ありきで惹かれてるわけじゃないですね。


井上:すごく根源的な話ですけど、ジャンルレスでいいものはいい。メロディを第一に聴きますし、クラシックだとしてもストリングスのメロディラインだとか。リスナーから入ってるからリスナーが一番聴く部分を理解してるつもりなんで、作曲でもこだわるのはメロディラインっていう風にはなりますね。


――ELLEGARDENも楽曲が良かったわけですよね?


井上:そうですね。それまで別にパンクロックが好きだったわけでもないし。彼らの曲って、今のメロコアや2ビートの感じではなく、普通の8ビートでちょっと疾走感がある曲が主体だったんです。「これがメロコアか」とかじゃなくて、単純にロックサウンドで声がよくて歌がよくてメロディがよくてって感じでのめり込んだんで。好きなバンドの芯には、だいたいメロディが豪快で覚えやすいという共通点はありますね。


■「誰かが新しい音楽に触れるきっかけになれたら」


――SHE’Sの曲って驚くほど踏みしめるようなスケールの大きい曲が多いじゃないですか。メンバーにどうバンドの方向性を説明したんですか?


井上:まずは参考音源を聴かせるとかではなく、ストレートに「ピアノ入ってるロックやりたいねん」と。でも最初はみんなわからなかったんです。「え? ピアノ入ってるロック? 例えば?」「例えば、じゃあメイって知ってる?」「知らん」。……これは、どうしようかと。で、たまたまその時一番近いイメージとして、シンプル・プランのセルフタイトルのアルバムが、ポップパンクでロックサウンドやけどピアノが入ってて美しいなぁと思ってたんで、それを聴かせたりしましたね。


――自分のやりたいことを明確に伝えないとバンドとしてスタイルが確立できない?


井上:そうですね(笑)。でも、みんな大学行って就職するつもりやったし、結構ラフに始まりはしたんです。「面白そうやん、やろか」ぐらいの。でも大学は1年行って、2年の時に辞めました。結局、SHE’Sがやりたいんやったら高いお金を払ってもらって卒業するのは違うんちゃうかな? と思って。「お金返すから辞めさせてくれ」と親に頭下げて、辞めさせてもらいました。


――何かきっかけが?


井上:大学をやめた年にちょうど「閃光ライオット」で決勝に残ったり、いいタイミングやったんかな? と、今になったら思います。


――2012年ですね。その時のバンドのテンションはどうだったんですか?


井上:2011年は組んで1年目で。すぐデモ音源を「閃光ライオット」に面白半分で送って。でもその時は二次審査、スタジオライブで落ちたんですけど、「まぁ、そりゃそうやな」と。で、その次の年の2012年は応募する気はなかったんですけど、大阪のライブをソニーの人が見にきて「閃光ライオットに応募しない?」と声をかけられたのがきっかけで。結局、決勝まで行って。メンバーの意識が全員、クッと音楽に傾いたというか。結構大きなきっかけやったんじゃないかなと思います。


――そこからバンドに本腰を入れたものの…。


井上:トントン拍子ではなかったですね(笑)。それから別に何があるわけでもなく、自主制作でCD作って、自分らでツアー組んでやってましたね。でも、自分たちで活動をするにあたって、初めてライブハウスに連絡とって、対バンも探してもらって。で、突然日程が変わったりして、ホテルももちろん取れないんで、車中泊4泊してライブとか(笑)。でも自分たちで全部やるっていう精神を培えたのは、あの時期があってこそなのでいい経験をしたと思います。


――ミニアルバム3枚でもどんどん変わって行きましたね。


井上:客観的に見ると、面白いぐらい変わっていきましたね。1枚目の『WHO IS SHE?』は迷いながらでもあったし、演奏や編曲に変に凝ろうとしてた時期なので時間もかかりました。でも2枚目の『WHERE IS SHE?』以降は余計なものは取っ払っていくという志向に変わって、曲作りがスムーズになったことが大きいですね。特に、歌いたい内容が変わったとか、対象が変わったというのは大きな要素ではあると思います。最初の『WHO IS SHE?』は、特定の忘れられない女の人という相手がいて、その人に対して歌ってる歌が多かったんで、歌詞を書く上でそんなに苦労はなかったんです。でも、2枚目以降は対象が目の前の人達や自分に変わったので、そこからかなり語感に加えて意味もつけていくようになったので、すごい丁寧な作業にはなりましたね。


――対象が目の前のお客さんや自分に変化していったきっかけというのは?


井上:うーん、変わらないといけないなと思ったのがきっかけというか。「忘れたくない」っていう意地があるから歌ってたんやと思うんですけど、そこから一歩進まないとなぁっていう風に思ったら、じゃあどこに行こう? と、自分ともう一回向き合う機会ができて。お客さんもちょっとずつ増えて、ワンマンもできて……という風になると、ちゃんと伝えないといけない相手っていうのは目の前の人達でしかない。自然と一個ずつほどいていくような感覚ではありました。それがより強固になったのが3枚目の『she’ll be fine』だったんですね。


――SHE’Sの楽曲って例えば「Un-science」とか、ど直球にコールドプレイみたいな匂いがして。日本人だったらちょっと照れてひねるでしょ? ってところが感じられなかったのが衝撃で。


井上:(笑)。むしろ邦楽ロックとかギターロックとかと同じことをしたくないっていうひねくれ方なんです。その意識はたぶん一生曲げないと思いますし、そういう曲書いてって言われても、絶対洋楽っぽくアレンジすると思います。それが好きっていうのが一番大きいんですけど、日本の音楽シーンやったら今までのレールに沿ったものが受けるの分かってるし、日本人が好きな音楽がそうやって愛されてきてるんやから「いい」って判断されるのはもちろん分かってるんですけど、そこ以外で自分たちが大好きなものが認められたら最高じゃない? と思ってやってるので。それができなくなったら僕らが音楽する必要ないですし、曲げるところではないと思ってます。


――今、世界のメインストリームと比べると日本のシーンは独自の流行があるじゃないですか?


井上:それはめっちゃ思いますね。特に日本人の洋楽離れは切実に感じるというか。バンドマンと喋ってても、「こんなに洋楽聴かへん人がいっぱいおんねや」と。「あ、洋楽か、オアシスとかシガー・ロスなら知ってる」という人がとても多くて、「マジか」と。僕もたぶん、日本のバンドシーンのバンドマンに比べたら邦楽ロックを全然知らないんですけど、でも一応、何が受け入れられてるとか、売れてる理由っていうのは絶対あるから、聴くようにしていて。でもやっぱり洋楽聴いてる人は少ないので、僕らは自分たちのサウンドでやり続けたいというか、これでもう一回、いろんな人が洋楽聴くようになってくれたら嬉しいし。THE BAWDIESのROYさんとかもそういう感覚だと思うんですよ。毎日オススメの洋楽のYouTubeリンクをツイッターに貼ったりしてますよね(笑)。なんかいいなぁと思うんですよね、そういうの。誰かが新しい音楽に触れるきっかけを渡せたらなと僕も思ってます。


■「“変わること”にあまり恐怖は抱いてない」


――メジャーデビューシングルを”夜明け”という意味合いでも”Dawn”ではなく「Morning Glow」にしたのがSHE’Sらしいなと思いました。この曲を表題にした理由はありますか?


井上:理由というよりメジャーデビューシングルを作ろうと思って作った曲ですし、デビューシングルやから景気良く明るくアッパーに行こうってテーマのもと書いた曲なんで、特に難しいアレンジをするよりは、豪快にサビでドーンと大きなメロディラインを作って、余計なものはそぎ落としてシンプルな構成にしようと。その中でストリングスのアレンジも今までどおり加えて、随所にSHE’S感というか、今まで聴いてきた人は安心する、新しく聴いた人は「うわ、壮大!」「スケールがでかい」とか、自分たちが出したい魅力が出せる曲を作りたいってだけやったんで、それがうまく落とし込めたんじゃないかと思います。


――サウンドは輝いてますが、歌詞の内容は<いつかは夢から目覚めて 選ぶ事を迫られてしまうんだ>と冒頭から現実を突きつけられる内容です。


井上:それも狙いというか、ただ単に明るい歌を明るく歌い上げるというよりは、ちゃんと今までの軌跡を辿ってリアルなものを歌いたいんで。メジャーデビューっていう新しいフィールドに立ったから、今までのことリセットで希望だけ渡したいってことでもないんで、ちゃんと半生を噛み砕くような感じで書きました、大げさに言えばですけど(笑)。


――夜明けって、「夜明けが来るから大丈夫」というメタファーに使われることが多いですけど、むしろ否が応でも明日は来るんだっていうニュアンスで。


井上:だから朝焼けは嫌いやったし、ずっといい意味では捉えてなかったんです。でもやっと肯定的に捉えられる自分になれた瞬間やったんで、今この歌詞を歌う時なんじゃないかなと思ったんですね、結果的にはメジャーデビューまでたどり着けたっていうのが大きい理由なんですけど、それこそ2枚目のミニアルバムに入っている「Change」っていう曲では、ずっと変わらない生活を自分で認識してたから、逆に<ずっと変わらないものなんてここにはないよ>って自分に言い聞かせるように歌ってて。結果、動いてないように見える生活をこなして一生懸命にそういう現在だけを生きてたら、一つの自分の目標であったメジャーデビューというところまでたどり着けたってことは、変わってないようでも変わってたんや、あの時信じたことは正しかったと思ったし、それが「Morning Glow」の歌詞を書くきっかけでしたね。


――変わらないことを言い訳として使っちゃう時があるけど本当は変わりたかった、と。


井上:思い返してみても、変わりたくないことってずっと音楽続けたいことぐらいで。変わることにあまり恐怖は抱いてない、むしろ「変化ばっちこい!」ぐらいの気持ちで今はいれてるんで、書けた歌かもしれないですね。


――今後のビジョンは描けていますか? 夏フェスも出られると思いますが。


井上:フェスでのライブの仕方とかも自分たちのやり方がある気がしてて。フェスもそうですけど、テレビとかラジオ、いろんなフィールドから集まってくれるお客さんにまっすぐ音楽を届けられたらいちばん嬉しいですね。ピアノロックといえば一番にSHE’Sが出てきて、そのピアノロックっていうワードのアイコンになりたいなと思ってます。とは言いつつ、これからずっとピアノロックって言っていくつもりも実はなくて、その枠組みに囚われずロックバンドとしていろんな人に愛される曲を生みたいですね。