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アイドル刺傷事件「警察が迅速に動けるための改革が急務」悲劇を防ぐためには?

2016年05月23日 17:02  弁護士ドットコム

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東京都小金井市のライブハウスが入る建物の入り口で5月21日、音楽活動をしている女性が、男に刃物で首や胸などを刺されるという事件が起きた。被害にあったのは、都内の私立大学に通う冨田真由さん(20)。病院に搬送されたが、23日午後段階で、意識不明の重体と報じられている。


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報道によると、住所、職業不詳の岩埼友宏容疑者(27)が傷害の疑いで、警視庁に現行犯逮捕された。調べに対して、岩埼容疑者は「冨田さんのファンだ」「プレゼントを送り返された」「殺すつもりだった」などと供述したという。



冨田さんは事件前、岩埼容疑者とみられるツイッターやブログの執拗な書き込みについて、警視庁武蔵野署に相談していた。その際、冨田さんは、岩埼容疑者の名前などを署員に伝え、「やめさせてほしい」「プレゼントをめぐってトラブルになっている」と訴えていた。



冨田さんは最近、アイドルからシンガー・ソングライターに路線変更していたようだ。この日、現場のライブハウスで開催されるイベントに出演する予定で、武蔵野署も把握していた。武蔵野署はイベント会場を管轄する小金井署に「110番があったら対応してほしい」と依頼していたが、岩埼容疑者に連絡をとったりはなかったという。



今回の事件は、アイドルとファンの関係性を考えるうえで多くの議論を呼んでいる。なぜ、事件は起きてしまったのか。防ぐことはできなかったのか。甲南大学法科大学院教授の園田寿弁護士と元検事の落合洋司弁護士に聞いた。



●園田寿教授「法律をうまく生かしきれていない」


「アイドルや芸能人が襲撃されるという事件は、新しいものではありません。古いものでは、こまどり姉妹や美空ひばりが襲撃された事件があります。いずれもファンの屈折した心理が原因だったといわれています。



一方、近年の事件の背景には、情報化の進展があると思います。アイドルが日常的に、プライベートなことをSNS上でつぶやています。ファンがネット上で簡単にアイドルの行動を調べられることで、『自分が世界の中心にいる』『アイドルを支配している』という幻想を抱きやすい状況にあるといえます。



今回、被害者は事前に警察に相談していたと報じられています。もちろん警察がうまく対応できていない部分があったのかもしれませんが、問題は、ストーカー規制法など法律をうまく生かしきれていないことでしょう。



そもそもストーカー事件では、カウンセラーやケースワーカーなどの役割が非常に重要になってきます。しかし、被害者がまず相談する相手は、警察です。対応する警察官は専門家ではありません。



韓国では、性犯罪被害者のためのワンストップセンターがもうけられています。その1か所で、すべてが終わるというものです。日本でも韓国のように、いろんな専門家がチームを組んで対応するシステムや施設が求められていくことになるでしょう」



●落合洋司弁護士「警察は相談レベルで解決、処理しようという傾向が根強い」


「ストーカー規制法で規制・処罰対象になっている『つきまとい等』は、一定の目的の下で、法律に列挙されている行為に及ぶことで、社会通念上『つきまとい』『ストーカー』といわれている行為すべてが対象になっているわけではありません。



今回の刺傷事件の前に、容疑者がSNS上で執拗に書き込みをおこなっていたことが問題になっています。『執拗な書き込み』の内容によっては、つきまとい等に該当したりしなかったりという限界があります(都道府県の迷惑防止条例で処罰範囲がやや広がっていることもありますが、場所により異なります)。



警察がこの種の事件で被害者から相談を受けた場合、ストーカー規制法や条例の規制対象にただちに該当しないことも少なくなく、また、警察が該当すると判断しても、『相談』レベルで処理、解決しようという傾向が根強いのが現状です。



今後は、ストーカー規制法の改正により処罰対象を現実に沿ってさらに広げたり、警察の体制をより強化して、現におこなわれている行為自体がただちに犯罪構成要件に該当していなくても、人身の危険があれば防犯のため迅速に動けるようなものにするといった改革が急務ではないかと思われます」



(弁護士ドットコムニュース)