2016年05月22日 10:12 弁護士ドットコム
法科大学院の受験者全員に課される共通テスト「適性試験」について、文部科学省の中央教育審議会・作業部会は、今後は利用するかどうかを各校の任意とする報告書をまとめ、5月11日の中教審・特別委員会に提示した。
【関連記事:「AV出演」が知人にバレた!「恥ずかしくて死にたい」・・・回収や削除は可能か?】
「適性試験」は、法科大学院受験の第一関門。法律の知識ではなく、法律家に必要な思考力や表現力を問う内容で、法科大学院制度が始まった当初から実施されている。報道によると、任意にする時期については、2019年度入試からとする案が示されたという。
法科大学院の受験者は、2004年度の約4万人から、2015年度は約9300人に激減。文科省が2015年10月、法科大学院45校に対して行った調査によると、41校が「適性試験が志願者確保の障害」と回答し、「実施場所や回数が限られており、受験しにくい」などを理由に挙げた。
適性試験が任意化された後、利用しない大学院が多くなれば、試験そのものが廃止される可能性もあるという。法科大学院制度ができた当初から行われてきた適性試験は、今後も必要なのか。それとも、廃止するべきなのか。弁護士ドットコムに登録している弁護士に聞いた。
(1)適性試験は今後も必要→3人(2)適性試験は今後、廃止するべき→11人(3)どちらでもない→5人<適性試験は今後、廃止するべき>との回答が半数以上を占めた。そのなかには、「『適性試験』も試験である以上、『慣れ』の部分が大きく、訓練によって高得点を獲得することが比較的容易」だとして、「『適性試験』では法曹の適性ははかれない」と主張する意見があった。「法律家に必要な思考力や表現力は、ロースクールでの試験や、司法試験、二回試験ではかれば十分」という意見もあった。
また、現在の法科大学院制度について、「あまりに行き当たりばったりで明らかに迷走しているので、制度廃止も含め、一度抜本的に見直すべきだ」「適性試験も法科大学院も廃止して、最低2年間の有給の司法修習を復活させるべき」という声もあがった。
一方、<どちらでもない>の回答の中には、現状の適性試験を継続するかはともかく、無試験や、各学校が独自に行う試験だけでは法律家としての素質が測れないとして、「全国画一的に、法曹を希望する人の能力を試す試験は必要」という意見が見られた。
また、法科大学院にはそれぞれ特色があるため、「適性試験にすら対応できない人材は不適切」と考えるか「適性試験が障壁となり優秀な人材が集まりにくい」と考えるかで、適性試験の要否は「法科大学院ごとの自由な判断に委ねるべき」という意見もあった。
なお、<適性試験は今後も必要>との回答について、自由記述欄で意見を表明した弁護士はいなかった。回答のうち、自由記述欄で意見を表明した弁護士13人のコメント(全文)を以下に紹介する。(掲載順は、廃止するべき→どちらでもないの順)
【濵門 俊也弁護士】「『適性試験』が法律家に必要な思考力や表現力を問う共通テストとしての機能を果たしているのかどうかについては、当職は疑問をもっています。『適性試験』も試験である以上、『慣れ』の部分が大きく、訓練によって高得点を獲得することが比較的容易であるからです。かつて実施されていた司法試験に合格し、法曹資格を得た当職らにしてみれば、『適性試験』では法曹の適性ははかれないと思います」
【武山 茂樹弁護士】「廃止が妥当だと考えます。適性試験の内容は、文章読解力と論理的思考力を見るもので、確かに、法曹の資質と一定の関係はあります。しかしながら、それらの能力は、大学院入試ではなく大学入試段階で測るべき能力です。数学を入試科目に課さない私立大学の法学部が存在することの方が問題だと私は思います。法科大学院入試では、適性試験とともに未修者試験も廃止し、純粋に法律学の試験のみで合否を決めるべきでしょう(法律以外の大学院はみなそうですし、法学の独学も不可能ではありません)」
【巨瀬 慧人弁護士】「大学生のとき、適性試験対策のために問題集を購入し、数か月間勉強しました。そのために予備校に行った友人も居ました。そうやって適性試験対策に費やしたお金と時間に、意味があったとは思えません。そのお金と時間を、社会勉強や法律の勉強にあてたかったです。法律家に必要な思考力や表現力は、ロースクールでの試験や、司法試験、二回試験ではかれば十分だと思います」
【居林 次雄弁護士】「全体的に弁護士が過剰であることは、明らかです。それゆえに受験者が増えず、社会から置き去りにされている感があります。適性試験が悪評なのは、試験のせいではなくて、このような、弁護士の需給バランスの不均衡に根差していると思われます。適性試験がたまたまやり玉に挙がったに過ぎないと思われますが、評判の悪い点は否めません」
【中村 晃基弁護士】「適性試験は読解力・論理力のほか、数的・科学的思考力をはかる試験をはかる試験です。ですが、当然のことながら、法曹として最も重視すべき適性は、法的知識・法的理解・法的思考力であり、これは法律科目試験で確認すべきものです。個別の法科大学院での試験実施に不安があれば、予備試験の短答式試験の成績や法学検定などを考慮するというあり方もあると思います。さらに言えば、適性試験が不要であることは、実施当初から分かっていたはずです。省庁間の利権(法務省と文科省)の中で入ってしまった制度ではないかと思います」
【大達 一賢弁護士】「適性試験は論理的思考能力を探るためのテストであるが、法科大学院教育を徹底するのであれば、入学後にトレーニングする術もあるのであり、教育機関たる法科大学院としての性格を徹底するのであれば、何も適性試験にこだわる必要はない。ただし、現在の法科大学院制度はあまりに行き当たりばったりで明らかに迷走しているので、制度廃止も含め、一度抜本的に見直すべきだ」
【鐘ケ江 啓司弁護士】「あのパズルを解かせるような『適性試験』が法律家としての適性をはかれるものであったか疑問ですので、廃止は当然と思います。ただ、ロースクールで多大な費用と時間がかかることを考えると、事前に法律家としての適性をはかる、というアイデア自体は良かったと思います。例えば、旧司法試験の択一式試験、論文式試験を簡単にしたような試験を前置するのであれば賛成です」
【大和 幸四郎弁護士】「法科大学院が毎年のように廃校になっています。法科大学院の費用が高すぎるからでしょう。弁護士も就職口がなく、多くの人が就職できない状況が改善されていません。仮に就職できたとしても、奨学金の返済や修習時代に給料が不支給のため、多額の借金を抱えての出発になります。また、東大法学部も定員割れと聞いてます。かかる法律学校不人気の回復のためには廃止が望ましいと考えます」
【吉田 孝夫弁護士】「適性試験が無意味な、そして一部の人々にとっては美味しい、デコレーションに過ぎなかったことが明らかになってきました。本体である法科大学院制度そのものが、司法修習制度の縮小、廃止を目立たなくするためのデコレーションです。そして、一番の問題は、司法修習制度の縮小、廃止が憲法違反だということです。すべては司法試験合格者を激増させるためですが、それ自体、司法の崩壊を招いています。適性試験も法科大学院も廃止して、最低2年間の有給の司法修習を復活させるべきです」
【鈴木 崇裕弁護士】「適性試験は読解力や論理力をある程度測れる試験だとは思いますが、これらは大学院入試の論文試験、司法試験や二回試験でも測れますし、実務では仕事の速さや質に顕れ、依頼者に測られます。したがって、適性試験の受験を必須としてまでこれらの能力を測る必要性は乏しいと考えます。法科大学院にはそれぞれ特色がありますので、『適性試験にすら対応できない人材は不適切』と考えるか『適性試験が障壁となり優秀な人材が集まりにくい』と考えるかによって、受験の要否は法科大学院ごとの自由な判断に委ねるべきだと考えます」
【岡田 晃朝弁護士】「現状の適性試験であるべきかどうかはさておき、全国画一的に、法曹を希望する人の能力を試す試験は必要でしょう。無試験であったり、各学校が独自に行う試験だけですと、法律家としての基礎素養に問題がある人でも入学できる可能性があり、結果、法科大学院全体の能力が低下し、その結果、法曹自体の能力の低下につながる危険があるかとおもいます」
【加納 雄二弁護士】「法科大学院そのものが法曹養成制度にとって有害であり、適性試験なるものに存否には余り関心が無いというのが本音です。そんなこと議論するより、法曹志願者数を増やすには、司法試験合格者数をまず1000人位に減らすべきです。適性試験の受験者数H15でまあ、4万人として、H27は約4000人なんと10分の1!放っておいても、法科大学院は殆ど無くなるのではないでしょうか」
【川面 武弁護士】「現在、司法試験法4条1項で法科大学院(1号)と予備試験(2号)が等しく本試験受験資格の与えられるルートとされています。適性試験なるものはそのうち前者のみにかかわることで、ある意味どうでもいい問題と考えます。重要なことは、予備に過ぎない試験の合格者を絞りすぎることなく、三流法科大学院をぎりぎり修了するレベルで合格させることです(本来数を絞る必要のあるのは本試験の方です。)。法科大学院は、そうした状況下においても進学したい者が好きに行かれたらいいでしょう」