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突然の通知書で始まった「離婚調停」…涙と怒りの5か月間、強くなれた私

2016年05月22日 07:21  弁護士ドットコム

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夫の浮気が発覚して、夫婦喧嘩が続いていたある日、突然、届いた1通の通知。そこには裁判所にくるように、と書かれていました。夫が離婚したいというのです。そこから始まった「離婚調停」は驚きの連続でした。この「離婚調停」って、どんな制度なのかご存知でしょうか? 当初は離婚に応じるつもりがなかった私ですが、調停を通して、この結婚生活は続けられないのだと、状況が理解できるようになっていきます。泣いたり、怒ったり、しみじみしたり。離婚が決まるまでの5カ月間を振り返りました。(ライター・亀井一乃)


ある日突然、届いた一通の茶封筒。差出人は女性の名前がゴム印で押されていて、役所関連の通知だということはすぐに分かりました。封筒をあけると、〈調停期日通知書〉と大きく記されていて、申立人には、夫の名前。相手方には、まぎれもなく、私の名前が記されていました。


「頭書の事件について、期日が下記のとおり定められましたので、同期日に当裁判所へお越し下さい。横浜家庭裁判所●●支部 ●階 家事書記官室」


慌ててネットで調べると、「離婚調停」なるものを申し立てられていたことがわかりました。「離婚したいって、こっちのセリフだよ!」。〈調停期日通知書〉を手に、怒りと驚きとで、わなわなと震えたことを、今でも思い出します。


当時、私たち夫婦は34歳、結婚して7年目の出来事でした。


■ポイント1:双方の同意がなくても「離婚調停」は申し立てられる


さかのぼること、6カ月前。夫の浮気原因で夫婦喧嘩が勃発し、家庭内別居状態となっていました。そして、問題の茶封筒が届く1週間前から、年末年始のために実家に帰省していた私。自宅に戻ると茶封筒が届いていた上、そこにいるはずの夫もいなくなっていたのです。


突然の通達に腰を抜かしたのも当然。夫婦喧嘩は確かに長期戦に突入していましたが、お互いに「離婚したい」と話を進めていたわけではありません。


「離婚調停」を起こすことは、どちらか一方の意思でできます。一方が申し立てれば受理され、「夫婦関係調整申立事件」として家庭裁判所から相手方へ通知されます。そう、私のように、不意打ちでくるんです。


封筒には、家庭裁判所へ出向く日時と場所を知らせる通知書が一枚。そして〈申立ての趣旨〉と書かれた、調停に申し込んだ理由が記された用紙が一枚同封されていました。


そこには、「婚姻関係を円満調整する」、「関係解消」の項目には「申立人と相手方は離婚する」に丸がつけられていました。続いて「申立ての理由」の欄に「同居・別居の時期」が記入されており、さらに「申立ての動機」として、13の理由の中から「当てはまる番号を○で囲み、そのうち最も重要と思うものに◎を付けてください」とあります。


私の夫が選んだ理由は、「性格が合わない」「性的不調和」の2つでした。ちなみに、他の項目としては「異性関係」「暴力をふるう」「酒を飲みすぎる」「家庭をすててかえりみない」などがありました。


しかし、何か月も続いた夫婦喧嘩の末に、一方的に「離婚したい」と調停を起こすなんて、身勝手すぎる! しかも、仕事もあるのに、平日の日中に拘束されるのは最悪すぎる・・・。不満いっぱいで、重たくなった身体をひきずりながら、「指定日」に、家庭裁判所へ向かいました。


■ポイント2:調停では、双方、顔を会わさない


家庭裁判所に入ったら、「家事書記官室」を訪ねます。用件を伝えると、慣れた様子の受付員に「○階の待合室でお待ちください」と案内され、相手方専用の待合室で待機することに。弁護士らしき方を同伴をした方もいれば、私のように1人の人もいます。


調停では、基本的に申立人と相手方に別れ、時間差で行われます。同意がないままの同席はありません。


部屋に呼ばれると、年配の男性と女性の調停員の二人が座っていました。今回の調停を最後まで担当してくださる方です。こちらに選択の権限はありません。


弁護士のOGとOBだそうで、慣れた様子でした。離婚調停に回数の区切りはないようですが、あまりにも決着がつかなければ離婚裁判に持ち込まれるとのこと。話し合いの内容によるので、平均的な回数はあまりあてにならないものかもしれません。


実際の調停では、先に申立人の夫から話を聞いていたので、調停員は夫婦関係について大筋は把握していた様子。私も長年我慢してきたことがあるものの、未経験の場できちんと伝えられるか不安だったので、交際から今日に至るまでの年表を作成して持参しました。


離婚騒動に発展した経緯から、夫婦生活の実態、どういう暮らしをしていたか、二人の性生活や家族構成まで、聞かれた質問に答えていきました。「最後に性行為があったのはいつですか?」、「どれくらいの期間、性行為をしていないのですか?」など、率直に聞かれるのだなと感じました。


また、恐らく1000倍くらいに薄めて伝えたであろう先方の言い分も聞かされ、彼や離婚についてどう考えているのかを聞かれました。当然、初回であるため答えは出ず、「1ヶ月かけて気持ちを整理しましょう」と、次回の日程を別室にいる夫にも伝えられ、双方合意の上で第一回目の調停は終わりました。


冷静に話を聞いてくださるうちに泣いてしまい、言葉につまる場面も多々ありました。調停員はどちらかに肩入れするようなことは一切なく、あくまでも中立的な立場を保った上で丁寧に接していただきました。ただ、同情を誘うような会話の仕方は好まれないという印象は受けました。調停員の方との対話を通じて「しっかり一人立ちをしなければ」と悲しみに暮れてばかりではいけないと、当時者意識が芽生え、背筋が伸びる思いでした。


■ポイント3:離婚成立の時、初めて元夫と対面


不倫を認めず、ただ離婚したいと主張する夫、見知らぬ女にとられてたまるかと意地を張る妻。調停員の方々には、そんな夫婦に見えたのではないかと思います。


いざとなると悪い思い出よりも、いい思い出ばかりが頭に浮かびます。でも、調停員から伝えられる現実は厳しいものでした。「現在進行しているだろう浮気については否定しています」、また元夫がセックスレスについて話していたこともあり「セックスはスキンシップです、それがないのは一つの答え」と客観的立場から現実を突きつけられたことーー。


調停員は傷つけるわけでもなく、かといって過剰に擁護するわけでもなく。対話を通して状況の整理や客観的な立場で情報をくれます。何度か重ねていくうちに、気持ちが少しずつ整理されていきます。調停員の前で何度泣いた事でしょうか。


でも、逃げてる場合じゃない。泣いてでもはってでも、向き合わなければならないのだと、徐々に状況を冷静を見ることができるようになっていきます。


調停の方は、こんな言葉をかけてくれました。「きっと彼は最後まで(浮気の事実について)口を割らないと思います」、「人の心は一度離れたらそう戻るものではない」、「解決の方法としてお金という手段がある」、「あなたもまだ若いのだから、終わりにして新たな生活を考えてみては」。


調停員の言葉がずしりとのしかかります。1ヶ月に1回の調停ですが、2回、3回を経ても平行線のまま。それでも回を重ねるごとに頭や心の整理がされていき、「春らしいワンピースかわいいですね。服装が変わりましたね」と調停員さんから言われた頃には心境の変化があったのか、泣くことはしなくなりました。


そしてついに4回目の調停で離婚が成立しました。


最後は、双方合意の上で同室に入り、調停員二人と裁判所書記官が同席の元、慰謝料の確認や事務手続き、マンションの退居日など、合意した件について改めて確認して、書記官が今回の調停の概要を読みあげて解散。これにて私たち夫婦の離婚調停は全て終了です。


なんと、最後は一緒に部屋を出て、エレベーターまで一緒になる二人。家庭裁判所の門を出たところで「離婚、決まっちゃったね」、「うん」。妙にお互いを思いやる会話で駅まで歩きました。


「こんな会話をずっと続けていられたら良かったな」、そんな思いもよぎりました。でも、この調停で、自分としっかりと向き合ったことで、強くなったのだと今になって思います。


3年前の、新緑のまぶしい5月。7年に及ぶ夫婦生活は、こうして終わりました。