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海外R&Bはなぜ“下ネタ”をアーバンに歌う? 高橋芳朗 × 古川耕が語る“馬鹿リリック”の世界

2016年05月21日 21:01  リアルサウンド

リアルサウンド

『R&B馬鹿リリック大行進 ~本当はウットリできない海外R&B歌詞の世界~』

 TBSラジオ『ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル』で大反響を巻き起こした伝説の特集を一冊にまとめた書籍『R&B 馬鹿リリック大行進~本当はウットリできない海外 R&B 歌詞の世界~』(発売中)が、各所で話題を呼んでいる。オシャレでアーバンなサウンドながら、その歌詞が“しょうもない下ネタ”になっているR&B楽曲に、鋭いツッコミを入れながら紹介していく本企画は、果たしてどのように生まれたのか。企画の生みの親である音楽ジャーナリストの高橋芳朗氏と、番組構成作家であり本書の編集を手がけた古川耕氏に、こうした歌詞が流行した背景や、歌詞の翻訳にまつわる裏話、現在の洋楽の歌詞をめぐる状況についてまで、大いに語ってもらった。


参考:Zeebraが明かす『フリースタイルダンジョン』ヒットの理由 「はっきり言って“無理ゲー”のつもりだった」


■高橋「下ネタを歌うシンガーはたくさんいるけれど、R師匠は着眼点が違う」


ーー本書では、R&B界の帝王といわれるR・ケリーを、その下ネタの素晴らしさから「R師匠」と敬っています。彼はいつから下ネタをアーバンに歌うようになったのでしょう。


高橋:もちろんいまほどゲスな感じではありませんでしたが、1993年にアルバム『12プレイ』でソロ・デビューした時点ですでに性愛路線を打ち出しています。このあとR&Bのセックス描写が過激化していくのはやっぱりR・ケリーの影響によるところが大きいわけですが、ひとつ付け加えるとヒップホップに感化された部分も当然あるでしょうね。単にエロいことを言うだけでなく、どれだけおもしろい話ができるか。これはまちがいなくヒップホップ的な美意識が持ち込まれた結果だと思います。


ーーR師匠の作品群をそういう目線で見たとき、一番強烈だと感じたのはどの辺ですか?


高橋:僕はやっぱり2013年リリースの『ブラック・パンティーズ』が衝撃的でした。5曲目の「マリー・ザ・プッシー」は出だしから凄くて。


疲れ目には
プッシーを見るのが一番さ


って(笑)。


古川:これには宇多丸さんも唸ってたよね。「俺は正直『やられた!』って感じ。プッシーが好きとか見たいとか、そういう気持ちをこうやって表すのかと」と、驚きを隠しませんでした。


高橋:同じアルバムの「クッキー」という曲も凄かったな。


オレオクッキーみたいに
真ん中を舐めるのが好きなのさ


オレオクッキーを女性器に見立てて、クリームの部分を舐めるという“例え”の圧倒的なしょうもなさ。下ネタを歌うシンガーはたくさんいるけれど、R師匠は着眼点が違いますよ、やっぱり。ただ馬鹿なことを言っているだけではない。


古川:言っていることは本当にしょうもなくて、“例え”のクオリティも別に高くはないんだけど、なにか別格感が漂っているんですよね。ジェイ・Zとコラボしたアルバム『アンフィニッシュド・ビジネス』の9曲目「ブレイク・アップ(ザッツ・オール・ウィ・ドゥ)」も印象に残っていますね。我々が「セックスすごろく」と呼んでいる作品なんですけれど、


バスルームからキッチンに
移動しながら
セックスするのさ
キッチンからリヴィング・ルームに
移動しながら
セックスするのさ


こんな風にどんどん移動していくんだけど、後半になるとエスカレートしていって、


汚い芝生の上でも
セックスするのさ
近所の連中に犬までビックリしてるぜ
俺達のセックスを見て


って、表に出ちゃうんですよ。ジェイ・Zが相手だから容赦しないのか、畳み掛ける感じがたまりません。


高橋:犬までビックリしてますからね(笑)。パンチラインではなく歌詞全体で笑えるという点では、ボビー・ヴァレンティノの「スリー・イズ・ザ・ニュー・トゥ」も忘れられません。この曲の訳詞を小島慶子さんが読み上げたときに『馬鹿リリック大行進』の成功を確信しました(笑)。内容的には彼女に3Pをうながす歌なんですけど、自分から誘ってるくせにあくまで「エロいのはお前のほう」ってスタンスなんですよ。


君がもう一人
パートナーを追加したらどうなるか
妄想してるって話を聞いたけど
ホントにそこまで
いっちゃってもいいの?
もしそうなら
ベイビー
トライしても構わないよ
キミの女友達に電話して
後で3人で会う約束しよう


この「しょうがないからやってやる」的な物言いが腹たちますよね(笑)。


古川:宇多丸さんはこの時、笑って喋れなくなっちゃって。本にも、「俺もうダメだ~!(笑いすぎて泣いている)」って書いてありますね(笑)。


高橋:大作ということでは、R・ケリーのフォロワーとして出てきたトレイ・ソングスのアルバム『Ready』の冒頭を飾る三部作も強烈ですよ。「俺の歌を聴くと女の子たちのパンティが勝手に脱げていく」と歌う「Panty Droppa」から始まって、次が「俺のセックスがすごすぎてカノジョが俺の名前を叫ぶもんだから近所の奴らはみんな俺の名前を知ってるのさ」と豪語する「Neighbors Knows My Name」。そして最後は「セックスは俺が発明した」と言ってのける「I Invented Sex」。


ガール、思っちまうだろうな
ガール、思っちまうだろうな
ガール、思っちまうだろうな
ガール、思っちまうだろうな
セックスを発明したのは俺だって
思っちまうだろうな
セックスを発明したのは俺だって
思っちまうだろうな


この「I Invented Sex」なんかは先ほど話したヒップホップのボースティング(自慢)の感覚がそのままR&Bに持ち込まれたわかりやすい例と言えるでしょうね。


古川:あからさまに嘘だからなぁ……。宇多丸さんは押尾学の名言とされる「オマエらの彼女がオマエらと付き合ってんのは、俺と付き合えないからだ」を引き合いに出していますね。押尾かトレイかってことで。ただ、この曲はR&Bチャートで1位になったものの、ポップチャートでは42位で、さすがにアメリカでもドン引きされている。


高橋:トレイ・ソングスの曲では、馬鹿リリック史上でも屈指の名作といえる「ストア・ラン」にも触れておきたいですね。これはガールフレンドとしっぽりいい雰囲気になってさあコトに及ぼうかって段になったとき、「あ、コンドームがねぇ!」となって慌てて車を飛ばして買いに行く、その様子を事細かに歌った曲になります。これがまた、そんなことを歌っているとは到底思えないめちゃくちゃ美しい曲なんですよ。


さっくり店まで行ってくるよ、
カウンターに売ってる
3個入りのアレを
速攻で店までゴー、
30分以内には戻ってくるからさ


去年ラジオでこの曲を紹介したあと、学校の保健の先生から「セーフ・セックスの観点から見てすばらしいメッセージの曲。ぜひ性教育の教材に使いたい」というメールをいただいてびっくりしました。そういう見方もあるんだな、と。


古川:そんな良いもんじゃねぇから(笑)。


■古川「どちらが正解とはいえないところも、生きた文化を翻訳する難しさ」


ーー『R&B 馬鹿リリック大行進』はもともと、雑誌の企画から始まったと伺っています。改めて本書が刊行に至った経緯を教えてください。


高橋:最初に特集を組んだのは確か1999年だったと思います。当時僕は『blast』というヒップホップ雑誌の編集部で働いていたんですけど、音楽を使って遊ぶような企画を組むのがすごく好きで。ちょうどそのころヒップホップの影響を受けた行き過ぎた性豪自慢みたいな歌詞がR&Bに増えてきて、これをまとめたらおもしろいことになりそうだなってスタートしたのがきっかけです。古川くんと、R&B系のライターの川口真紀さんに協力してもらいました。


古川:僕は当時、ライターだったんですよね。でも、R&Bに関しては全く詳しくなくて、むしろちょっと抵抗があるくらいだったんですけれど、だからこそ客観的にいろいろ突っ込めるかなって。


高橋:当時宇多丸さんは『blast』の連載陣のひとりだったんですけど、その連載上で馬鹿リリック特集を大絶賛してくれたんですよ。ただ、この企画は決してR&Bの歌詞を自分たちでおもしろおかしく訳しているわけではなく、国内盤CD封入のブックレットに掲載されているオフィシャルの対訳に準拠したものだから、好評だったからといって量産できないのが玉にキズなんですよね。結局、紙面では1~2度しかやってないんじゃないかな?


古川:2007年に宇多丸さんのラジオ『ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル』が始まって、僕は構成作家として入ったのですが、番組開始からしばらく経ってから、高橋芳明さんを呼びたいねって話になって。その時に、改めてこの企画をラジオでやってみようということになりました。結局、雑誌でやってから10年くらい経ってラジオ化したのですが、蓋を開けてみたら大反響で。


高橋:あのしょうもない歌詞をアナウンサーの方に朗読していただくことでまた新しい面白味が出るというのは発見でしたね。深夜ラジオと下ネタの相性の良さも手伝って、たちまち人気企画になりました。


ーーそれがいまになって書籍化したのはなぜでしょう?


古川:『ウィークエンド・シャッフル』で昨年、番組の特集をまとめた『 “神回”傑作選 Vol.1』っていう本を出したんですね(2015年3月発売)。その時にもちろん、馬鹿リリック大行進も活字化しようという話はあったんですけれど、5回くらいやっている人気企画なので、これだけで一冊にできるかなと。要するに、『“神回”傑作選』と合わせて進めていた企画だったんです。


高橋:ちょうどR・ケリーの新作『ザ・ビュッフェ』のリリースと重なっていて、タイムリーでしたね。


ーー書籍としての形式も面白いですね。横書きでトークを展開した後に、プレイボタンが出てきて、次のページをめくると、とんでもない歌詞が出てくるという。


古川:書籍にした時に、いちばん面白い見せ方は何かを考えて作りました。ひと昔前の書籍には、こういう遊びのある単行本っていろんなジャンルであって、僕自身がそういう書籍を好んでいましたし、『“神回”傑作選』が割と文字がぎっしり詰まった本だったので、それとは全然違うスタイルにしたかったので、こうなりました。『“神回”傑作選』は、あえて喋ったそのままを掲載し、脚注をつけるという作りにしましたが、『馬鹿リリック大行進』は、とにかくキレの良さ重視で、かなり編集しています。書籍化したときに快適に読めるようにするというのは、今回かなり意識したところなんですよ。というのも、今後は文字起こしの意味合いが変わってくると考えていて。最近はコンピューターやスマートフォンの音声入力の精度が上がってきて、喋ったことをかなりの精度で文字化できてしまうんです。たぶん近い将来、ラジオで喋ったことをそのまま文字データとして残すことは可能になるはず。でも、喋ったことを単に文字にしても、書籍に適したコンテンツになるかというと、必ずしもそうではないんです。本として最適な見せ方をするには、やはり人による編集の力が必要で、それを本書では特に示したかった。


ーー書籍を刊行して、どんな反響がありましたか。


高橋:作家の高橋源一郎さんが『アサヒ芸能』の書評で取り上げてくださったのはびっくりしました。あと、Base Ball Bearの小出祐介さんがツイッターで「歌詞のヒントにならないかと思って読んでみたら全然参考にならなかったうえに笑いすぎて仕事にならなかった」とポストしていたのはうれしかったですね。先日は星野源さんにもお渡しできたので反応が楽しみです。


古川:良いケミストリーを期待したいですね。


ーー改めて書籍に収録されたコンテンツでいうと、翻訳家のKana Muramatsuさんの対談もとても興味深かったです。


古川:翻訳とはなにか、歌詞カードとはなにかというテーマも、本書には含まれているんですよ。この本を制作していて一番驚いたのは、洋楽の対訳歌詞カードは実はすごくグレーな存在だということ。非常にデリケートな権利関係のもとに作られているにも関わらず、おそらく日本に洋楽文化が入ってきてからずっと曖昧にされ続けてきた部分なんです。


高橋:日本で洋楽歌詞の評論本を出すのは結構たいへんかもしれませんね。


ーー海外の文化を翻訳して伝えるのは、メディアの役割のひとつだと思いますが、その難しさの一端が伺えますね。


古川:そうですね、文化を翻訳するということは、予想以上に本当に困難なことです。R.ケリーの歌詞対訳をなさっているMuramatsuさんは、たとえば「ニガー」という単語はそのまま翻訳しないことがあると仰っていました。その言葉を黒人同士が使うような気軽さで第三者が安易に使ってしまったら、本当に大きな問題が起こる。極めて取り扱いがデリケートで、誤解されてはいけない言葉だから、彼女の判断でそうしているんだそうです。もちろん、翻訳者の意思を入れずにそのまま訳するべきだという意見もあるだろうし、それも間違っているわけではない。単純にどちらが正解とはいえないところも、生きた文化を翻訳する難しさだと感じました。


■古川「時代の中で歌うべきテーマを探した結果として、こうした表現が生まれている」


ーー日本とアメリカでは、本書で紹介するような楽曲の受け止め方に違いはあるのですか?


古川:日本人の目から見るから、変てこで面白いのかと思っていたんですが、ブラックミュージックってアメリカでもエキゾチックなところがあって、やっぱり変てこだと思って聴いている人も多いみたいです。


高橋:R・ケリーの『ブラック・パンティーズ』は、海外の音楽メディアでも「最高に馬鹿げたリリック」として特集が組まれていたりしていたから、この『馬鹿リリック大行進』はある意味ユニバーサルなR&B歌詞の楽しみ方といえるかもしれないですね。TBSの若い女性アナウンサーも大笑いして読んでくれたみたいだし、R&Bに明るくない人でもぜんぜんいけるんじゃないでしょうか。


古川:R師匠の曲は音楽的に素晴らしいですしね。ラジオ的なコンテンツとして、変な歌詞の曲を紹介するのはというのはよくありそうですけど、音楽ジャーナリストの高橋芳明さんがやるとなると、音楽的な価値も重視しなければいけない。そういう意味でも、R師匠の楽曲群は特別です。


高橋:R・ケリーはマイケル・ジャクソンにも楽曲提供しているR&B史上でもトップレベルのメロディメイカーですからね。それでいておもしろい歌詞を書くことにも意識的で、優れたストーリーテラーでもあるんですよ。ラジオで紹介しているのはフレーズ単位でおもしろいものがメインになっていますが、他にもまさかのオチがつくアッシャーとのデュエット「セイム・ガール」とか、ソープドラマ仕立ての大作「トラップト・イン・ア・クローゼット」シリーズとか、めちゃくちゃ凝っているのでぜひ歌詞をチェックしていただきたいですね。


ーー性愛をテーマとすること自体は、R&B以前にもありますよね。


高橋:映画のラブシーンにもよくそういうシーンがありますけど、アメリカではもともと性行為に及ぶときに音楽を流す文化があるんですよね。マーヴィン・ゲイ、バリー・ホワイト、アイザック・ヘイズといったシンガーは昔からセクシャルな歌を歌ってきていますし、そういう場で有効活用されてきたみたいです。映画『シェフ 三ツ星フードトラック始めました』でもおっさんたちがマーヴィン・ゲイの「セクシャル・ヒーリング」を大合唱して子供がドン引きしてるなんてシーンがありましたよね。


古川:ロマンティックなムード音楽として、エロティックな歌詞を歌うほかにも、反社会的なトピックスとして表現されているケースもありますよね。アブノーマルな性癖を歌うことで、カウンターカルチャーとして成立させるというか。


高橋:そういう部分では、先日亡くなったプリンスは先駆的存在といえるでしょうね。本のなかでも西寺郷太さんやKダブシャインさんと話しているんですけど、初期のプリンスが近親相姦やフェラチオを題材にした曲を歌っていたのはちょっとした衝撃でしたね。彼が表現のキャパシティを広げたようなところは確実にあるんじゃないでしょうか。


古川:プリンスは、過激な性愛を歌うことでトリックスターとしての存在感を補強していたんでしょうね。ただ、最近のヒップホップやR&Bでは、ちょっと性愛を歌ったくらいではトリックスターになれないから、さらに工夫が必要になっている。そういう意味では、最近は女性アーティストが性愛について面白い表現をしているように感じるんだけど、その辺はやはりフェミニズムとかも関係しているんですかね。


高橋:女性ラッパーの歌詞を見ると、クンニリングスを丁寧にやる男性を評価していたりしますよね。


古川:ここ数年のアメリカ映画ではクンニの場面がすごく増えたんじゃないかという話もあり、性愛的な意味でも男女フェアに描くという風潮が高まっているんでしょうね。


ーー最近だと、ジ・インターネットのシド・ザ・キッドが同性愛について歌ったりと、LGBTの方による性表現も増えていますね。


高橋:彼女のほかにも、20013年のグラミー賞で『ベスト・アーバン・コンテンポラリー・アルバム』を受賞したフランク・オーシャンが同性愛者であることをカミングアウトしていますし、その翌年のグラミー賞で4部門を受賞したマックルモア&ライアン・ルイスも同性愛や同性婚をテーマにした「Same Love」で高い評価を得ました。かつてはマチズモが横行していたヒップホップの世界もだいぶ変わってきた印象を受けますね。


古川:あるアメリカ在住の方のマンガを読んでいたら、ニューヨークのティーンの間ではフランク・オーシャンを聴くのがクールだとされている、みたいなことが書いてあって、へぇと思った記憶があります。


高橋:ヒップホップも以前と比べてファッション業界やセレブリティの世界と深く関わるようになってきたから、もはやホモフォビア的なことを言ってる場合じゃないのかもしれないですね。


古川:何をテーマとして歌うかは、どの時代のアーティストも常に追求していますが、中でも性的マイノリティの問題は彼/彼女らが長らく抑圧されてきたこともあって、いま歌うべきトピックスとして成立しやすいのかもしれません。つまり、それぞれの時代の中で歌うべきテーマを探した結果として、こうした表現が増えてきているのだと。アメリカを離れてみれば、それぞれの国で歌うべきシリアスなテーマというのがあり、そしてそれらに僕らも容易にアクセスできるようになった。いよいよこれからはアメリカ/ヨーロッパだけの時代ではなくなるのかもしれないですね。


ーー南アフリカ共和国のラップグループ、ダイ・アントワードも独特なパフォーマンスでレディー・ガガをディスったりして、世界的な注目を集めましたよね。彼らは日本のカルチャーにもなかなか詳しくて、きゃりーぱみゅぱみゅのツイッターをフォローしたりしていました。


高橋:彼らはニール・ブロムカンプ監督の映画『チャッピー』にも本人役で出演していましたね。デビュー当時の衝撃が忘れられないですけど、いまのシーンにおいても突出して過激な存在でい続けているからすごい。


古川:語るトピックスのハードさたるや、凄まじいものがありますよ。アラブのヒップホップとかも凄いですよね。


高橋:馬鹿リリックからこんな話の展開になるとは(笑)。まあ、いまは「Genius」みたいな歌詞研究サイトもあるし、以前よりもラップやR&Bの歌詞の大意を理解しやすい環境にはなってきているから、楽しみ方に奥行きが出てくるでしょうね。


古川:やっぱり歌詞って聴き流して良いもんじゃないんですよ。よく意味を調べたら公共の場で流せないようなことを歌っていたりするし、逆に「こんな表現があるんだ!」って驚きもある。僕自身、この企画をやってから音楽の聴き方が変わりました。高橋さんも言うように、いまは簡単に歌詞も読める時代なので、洋楽もさらに楽しめるようになったんじゃないかな。Apple Musicみたいな新しいサービスも出てきたし。昔は限られたお金で音源を購入していたのが、いまはいくらでも聴き放題なわけで、それによって絶対に音楽観も変わってきますよね。きっといまは、ポップミュージック史の中でも大きなパラダイム・シフトの時期なんじゃないかな。


高橋:Apple Musicの登場によって、またディスクガイドの需要が高まってくるかもしれませんね。ビギナーはそれなりのマップを手にして足を踏み入れないと、ちょっと広大すぎて途方に暮れてしまうと思うので。


古川:そこはいま、圧倒的に足りないですね。いままでみたいに雑誌ベースじゃないかもしれないけれど、キュレーターの存在はまた必要になってくるはず。音楽批評の価値ももう一度、上がるはずですよ。(取材・文=松田広宣)