2016年05月21日 10:51 弁護士ドットコム
岐阜県池田町は、停職中2回にわたってフェイスブックに旅行写真を投稿していた30歳の女性職員を、地方公務員法違反(信用失墜行為の禁止)に当たるとして、懲戒免職処分にした。処分は5月2日付。
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この女性は昨年11月2日、兼業が禁じられている公務員でありながら、時間外の副業で約300万円を得ていたことが分かり、停職6カ月の懲戒処分を受けていた。
問題となった写真の1回目が掲載されたのは、停職を命じられた11月の下旬。カニの写真や「ママ友と海鮮ざんまい」とのコメントを投稿。フェイスブックを見た住民らから「停職中に不謹慎」などの批判が町に寄せられたという。町はこのとき厳しく注意したが、女性は今年3月、奈良県を旅行し、肉や野菜の写真とともに「食べ過ぎて撃沈。動けない。誰か助けて」などと投稿していた。
池田町の担当者は弁護士ドットコムニュースの取材に対し、処分について「停職中、これをしてはいけないと明文化しているわけではありません。ですが、どうすれば反省になるのかを考えれば、自ずと何をしたらいけないかは分かるはず。『町は何をやっているんだ』という住民からの指摘もあり、町の信用が傷ついたと判断しました」と話している。
町がくだした処分は、法的に妥当と言えるのだろうか。古金千明弁護士に聞いた。
公務員は、国民全体の奉仕者であり、公共の利益のために働くことが求められています。ですので、公務員に対する懲戒処分は、公務における規律と秩序を維持するための制裁という位置づけになります。
地方公務員についての場合、地方公務員法等に基づく懲戒事由がある場合、どのような懲戒処分を行うをくだすのかは、懲戒権者である地方自治体に一定の裁量権が認められています。
一方、公務員側も処分が不服であれば、審査請求や裁判で争うことができます。処分の内容が社会観念上著しく妥当性を欠いており、裁量権が濫用されたと裁判等により判断された場合には、当該懲戒処分は取り消されることになります。
今回の案件では、勤務時間外(停職中)に、フェイスブックに旅行の写真を投稿したことが懲戒免職の原因になっています。まずは、勤務時間外の行為が懲戒の対象になるかどうかを検討しましょう。
公務員が職務に関連して非行を行えば、懲戒の対象となり得るのは当然です。また、プライベートでの行為であっても、公務に悪影響を与える場合は、公務員の信用失墜行為となり懲戒の対象となることがあります。
例えば、公務員が勤務時間外に飲酒運転を行ったり、常習賭博やわいせつ事件を起こしたりした場合は、懲戒の対象となる場合があります。ですので、勤務時間外であるからといって、懲戒処分の対象とならないというわけではありません。
しかし、今回の案件では、懲戒処分をすることの適否、そして、懲戒処分をするとしても懲戒免職という最も重い処分をすることの妥当性については、疑問が残ります。
まず、停職中だったということですが、停職は懲罰として職務に従事させず、その間の給与を支給しないという制裁にとどまります。停職中であるからといって、旅行や外食をしてはいけないとか、プライベートな行為が当然に禁止されるわけではありません。
また、町が職員に対して、純粋なプライベート上の行為を禁止する法的な権限があるとも思えません。勤務時間外の国内旅行の写真をフェイスブックに投稿するといったプライベートな行為を禁止する権限までは、町にはないと思われます。実際、町には、停職中の職員が旅行や外食をしたり、SNSへの投稿をすることを制限する明文の規定もなかったようです。
そうなると、停職中にフェイスブックに旅行の写真を投稿しないようにという町の指示に従わなかったからといって、懲戒処分をすることが果たして妥当なのかという疑問が生じます。処分の直接的な理由は、「信用失墜」ということですが、仮に懲戒処分が妥当だとしても、戒告、減給、停職ではなく、懲戒免職にしたことは重すぎるのではないかという疑問も生じるところです。
国家公務員の場合、懲戒事由と処分内容の関係について、「懲罰処分の指針について」という基準が示されています。岐阜県の場合にも同様の基準があり、この指針をみると、勤務時間外の非行で懲戒される典型事例は、殺人・詐欺・飲酒運転・淫行などの犯罪に該当する場合とされています。
しかし、犯罪の場合であっても、必ず懲戒免職となるわけではなく、停職や減給や戒告にとどまる場合もあります。実際、勤務時間外の飲酒運転が理由で懲戒免職となった事案について裁判となり、処分が重すぎるとして懲戒免職が取り消された裁判例もあります。
こういった事情を踏まえると、今回の案件については、職員に懲戒処分歴があったことを考慮しても、勤務時間外(停職中)にフェイスブックにプライベートの国内旅行の写真を投稿したことを理由に懲戒免職とするのは、他の事案とのバランスを考えても重すぎるように感じます。
報道されている事実以外に懲戒事由があれば別ですが、もし、報道されている事実関係だけで、裁判となった場合には、懲戒権者である町が裁量を逸脱しており、懲戒免職を取り消すという裁判所の判断が出てもおかしくないと思われます。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
古金 千明(ふるがね・ちあき)弁護士
「天水綜合法律事務所」代表弁護士。IPOを目指すベンチャー企業・上場企業に対するリーガルサービスを提供している。取扱分野は、企業法務、労働問題(使用者側)、M&A、倒産・事業再生、会社の支配権争い。
事務所名:天水綜合法律事務所