2016年05月20日 10:51 弁護士ドットコム
夫の預貯金「1億円」を、義妹(夫の妹)が相続してしまう! そんな驚きの相談が、Yomiuri Onlineの「発言小町」に、寄せられました。トピ主さんは50代で、子どもはいません。夫婦で事業を営んでいたといい、生活に困窮しているわけでもないそうです。
夫は生前から、「親の面倒を見てくれた唯一の血縁である妹に自分の財産の一部を渡したい」と言っていました。その予告どおり、義妹が夫の四十九日明けに、夫の書いた遺言状を持って現われました。遺言状には、「夫の預貯金すべてを夫の妹に相続させる」と書いてあったそうです。
夫名義の財産は預貯金1億円、不動産5000万円(トピ主が住んでいるマンションの時価)のみになります。トピ主は、夫が自分に預貯金を残してくれなかったことに不満を持ち、「私は不動産だけで我慢しなければなりませんか?」と質問しています。
この書き込みに対してレスには、遺言書が本物かどうか確認するようにとの助言もみられました。また、「その遺言書が本物なら、妻としての切なさは否めませんね」と同情する声とともに、遺言書がある以上「夫の意思を尊重しましょう」と、丸くおさめるべきとの声も。そして、義妹に「遺留分」の請求を勧める声もあったのは、さすが家庭内の問題にくわしい発言小町のみなさん!
トピ主は、夫の遺言書どおりに、不動産だけで我慢するしかないのでしょうか? あるいは「遺留分」を請求することができるのでしょうか? 山本 直樹護士に聞きました。
(この質問は「発言小町」に寄せられた投稿をもとに、大手小町編集部と弁護士ドットコムライフ編集部が再構成したものです。トピ「夫の遺産が、夫の妹のものに。」はこちらhttp://komachi.yomiuri.co.jp/t/2016/0413/758531.htm)
A. 妻は7500万円の「遺留分」を主張できます
被相続人(今回の相談では夫)」は、遺言によって遺産分割の方法や、相続人それぞれの相続分を定めることができますから(民法第902条)、夫は「妹に預貯金全てを相続させる」と遺言することができます。
レスには「夫の妹に遺留分を請求しろ」と勧めるコメントがあったとのことです。「遺留分」とは、一定の「相続人」に、法律上、最低限の取り分として保障された相続財産の一部のことです。遺留分を有する人(「遺留分権利者」といいます)は、「被相続人」による遺言などに関係なく、相続財産の一部を受け取る権利があると主張できます。
今回の相談のケースでは、「相続人」は妻であるトピ主と夫の妹です。「被相続人」の財産の2分の1が「遺留分」となり(民法第1028条2号)、その「遺留分」の全てをトピ主が有することになります(民法1028条本文により兄弟姉妹には「遺留分」がないため)。
「遺留分」の具体的な計算は、贈与や債務の有無によって変わりますが(民法第1029条第1項)、これらがなければ、夫の財産は預貯金1億円、不動産5000万円の合計1億5000万円ですから、トピ主はその2分の1にあたる7500万円について「遺留分」を主張できます。
そうすると、仮に5000万円の不動産をトピ主が相続したとしても、夫の妹が1億円の預貯金を相続すれば、夫の妹はトピ主の「遺留分」のうち2500万円分を侵害していることになります。したがって、トピ主は、夫の妹に対し、預貯金のうち2500万円を渡すように求めることができます(この権利を「遺留分減殺請求権」といいます)。
「遺留分減殺請求権」を行使するかどうかは、遺留分権利者であるトピ主が自由に決めることができますが、原則として1年以内に行使しなければならないため、注意が必要です(民法第1042条)。
【取材協力弁護士】
山本 直樹(やまもと・なおき)弁護士
「社会貢献できる仕事をしたい」との想いで弁護士を志す。交通事故・相続・離婚問題など、身の回りで起こる身近な法律問題をまじめ一筋にサポートしている。
事務所名:弁護士法人みお綜合法律事務所 京都駅前事務所