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藤原さくら、Anly、感覚ピエロ……ドラマで新人アーティストの楽曲起用が増えている理由

2016年05月19日 16:01  リアルサウンド

リアルサウンド

藤原さくら『Soup』(初回限定盤)

 2016年4月期放送開始のドラマが、それぞれ物語の中盤を迎えている。テーマとしては不倫、アラサー、弁護士ものが目立つ傾向にある今期は、作品を彩る主題歌においても、ひとつ目立ったトピックがあった。それは、新進のミュージシャンらによる印象的な主題歌が多く起用されているということだ。


(関連:藤原さくらが語る、プロとしての覚悟と成長「歌っている瞬間がいちばん輝いている」


 極めて異例だったのは、新人シンガーソングライター・藤原さくらの月9『ラヴソング』(フジテレビ系)ヒロイン&主題歌のダブル起用だろう。このドラマは、吃音症により対人関係が苦手になってしまった藤原演じるヒロインが、福山雅治演じる元ミュージシャンで臨床心理士の主人公と音楽で心を通わせていくというラブストーリー。そして、ヒロインを務める藤原が歌う「Soup」が主題歌に起用された。彼女の素朴で味わい深い歌声は、ドラマの役柄にも合っている。ドラマで彼女のことを知った視聴者が過去曲を調べる流れがあるようで、今年2月にリリースされた1stアルバム『good mornig』リード曲「かわいい」のYouTubeでの再生回数も、5月19日現在200万回に迫る勢いで再生されている。


 木村佳乃演じる妻が、伊藤英明演じる不倫夫に対して熾烈な復讐劇を繰り広げる『僕のヤバイ妻』(関西テレビ・フジテレビ系)。オープニング曲として颯爽と流れるAnlyの「EMERGENCY」も印象的だ。“日本版『ゴーン・ガール』”と言われるほど、緻密で恐ろしい復讐を繰り広げる物語のはじまり、または物語の転換時に流れる同曲が、スリリングな展開を盛り上げる。Anlyも藤原同様、今年3月にデビューしたばかりの沖縄出身のシンガーソングライター。これまでもドラマ『サイレーン』(関西テレビ・フジテレビ系)『ぼくのいのち』(日本テレビ系)や、『カロリーメイト』CMに楽曲が起用され、そのハスキーで特徴的な歌声が多くの人々の関心を集めてきた。主題歌である安室奈美恵「Mint」にも負けないインパクトを視聴者に残す楽曲である。


 デビューシングル曲「あなたに恋をしてみました」が、月9ドラマ『デート~恋とはどんなものかしら~』主題歌に起用され、歌謡テイストの耳馴染みよい楽曲で注目を集めたchay。2作目となる「それでしあわせ」は、松下奈緒が主演を務める『早子先生、結婚するって本当ですか?』(フジテレビ系)主題歌に起用された。同曲は本編ラストのクライマックスシーンでBGMのように自然と流れ出し、chayの優しい歌声と温かみのあるサウンドが、感動的なラストの雰囲気を演出する。また、歌詞については、chayが主人公と自身を重ねあわせ、自分らしく生きることの大切さを綴ったとのこと。このドラマを楽しむ視聴者は、同曲の歌詞に共感することも多いようだ。


 ここまで女性シンガーが続いたが、バンドシーンでの主題歌起用も紹介したい。清野とおるのエッセイ風漫画 『その「おこだわり」、俺にもくれよ!!』をフェイクドキュメンタリーとしてドラマ化(松岡茉優が「松岡茉優」役として出演)した『その「おこだわり」、私にもくれよ!!』(テレビ東京系)の主題歌に起用された、SUPER BEAVER「人として」。様々なこだわりを持つ人々をレポートしていくというストーリーにマッチした、「かっこよく生きたい」という思いを力強く歌うバラードナンバーだ。物語冒頭のオープニングシーンで流れる同曲は、バンドの持ち味である歌声と言葉が強く印象に残る。彼らはバンドとしてのキャリアは長いものの、ここ数年で飛躍的なファン層の拡大をみせている。この“歌力”に引き寄せられるリスナーが多いのだろう。


 今期ドラマでもっとも印象的な主題歌といえば、『ゆとりですがなにか』(日本テレビ系)の感覚ピエロ「拝啓、いつかの君へ」。このドラマは、岡田将生、松坂桃李、柳楽優弥ら演じる「ゆとり世代」が、日常の問題と向き合いながら“今”を生きていくストーリーだ。ドラマの公式サイトにある水田伸生監督の「ドラマにとって主題歌は、作品テーマの音楽的具現です」との言葉のとおり、作品テーマを代弁するように登場するバンドの演奏シーンが新しい。「ゆとり」という新時代のテーマが扱われているだけに、これまでにないオープニング映像が起用されているのだろうか。


 これまで挙げたアーティストは、音楽性こそ異なるものの、歌声や歌詞に特出した新たな才能・魅力を持っている。また、新人アーティストの主題歌を起用するドラマは、テーマ設定が新鮮かつ現代社会に寄り添ったものが多く、作品に新たな“風”を取り入れるべく新人を起用する傾向があるのかもしれない。ドラマと主題歌は、それぞれを多くの人々へ届ける役割を相互に担っており、作品と楽曲のマッチングが重要であることは間違いない。今後もドラマと主題歌の関係性は、作品テーマやアーティスト性の多様化とともにますます発展を遂げていきそうだ。(久蔵千恵)