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97年生まれのブレイク有力株 高月彩良が『重版出来!』で見せた演技の“実力”は?

2016年05月19日 11:41  リアルサウンド

リアルサウンド

高月彩良オフィシャルブログ「brilliant.」

 毎週火曜22時に放送されているドラマ『重版出来!』。漫画雑誌の新人編集者を主人公に、出版物に携わる人々の物語を描き出す中で、やはりドラマの中枢に大きく働きかけているのは、漫画家たちの姿である。第1話では小日向文世演じる大御所のスランプを描き、第2話では前野朋哉演じる新進漫画家のブレイクを後押しし、第3話では人気絶頂の漫画家と打ち切りを言い渡された漫画家を対比するように描き出していた。そんな中、第4話からは漫画家を志す若者たちの姿が描き出されはじめる。


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 持ち込みで認められた中川大志演じる大塚シュートは、一気に単行本化まで漕ぎ付ける。また、天性の才能を持っていると見込まれながらもすこぶる作画が下手な中田伯(永山絢斗)も、黒沢の手厚いサポートによって新人賞を獲得するまでに上り詰めた。しかし、このドラマで唯一の女性漫画家として登場する東江絹は、黒沢からのサポートの半ばで、夢を追うことへの壁にぶち当り、黒沢と同じ編集部にいる安田顕演じる“新人ツブシ”の異名を持つ安井から依頼されたコミカライズの仕事を請け負うことを選ぶのだ。


 この東江絹を演じているのは現在18歳の高月彩良である。彼女は10歳の頃にスカウトされ芸能界に入ると、11歳で初めて出演した民放連ドラで演じたのが、なんと岡田将生の幼少期の役という、あまり類を見ない女優キャリアのスタートを切った。その2年後に同じ事務所の桜庭ななみらと共に「bump.y」を結成。アイドルグループではなく“歌って演じる集団”をコンセプトに、女優業と歌手業を兼任する。「bump.y」時代にはいくつかのドラマや映画に端役として出演することばかりであったが、2014年のグループの活動終了後、急速にブレイクを果たすこととなった。


 そのブレイクの火付け役となったのが、2014年夏に公開されたスタジオジブリの『思い出のマーニー』だ。のちにアメリカのアカデミー賞で長編アニメーション賞候補となる同作で、高月は喘息の療養で田舎町を訪れ、湿地に佇む屋敷で金髪の少女・マーニーと出会う内気な主人公・佐々木杏奈を演じている。感情を表に出さず、落ち着き払った12歳の少女の役を初声優ながらも好演しているのだ。初めての声優業がスタジオジブリ作品で、しかも若手女優の中でも人気筆頭株の有村架純とのダブル主演は、グループ卒業後の最初の仕事としては充分すぎるスタートとなった。


 男役から歌手、そして声優と、あらゆる経験を積み、ようやく最近になって女優として本格化し始めている彼女の最大の強みは、実年齢以上に大人びた印象を受けるルックスだろうか。注目の若手俳優たちが一堂に会したSF映画『ストレイヤーズ・クロニクル』では、狙った相手を麻痺させ、キスで毒を流し込む能力を持つ女性を演じ、女性メインキャストの中で最年少とは思えない、独特な魅力を放つ。さらに、昨年暮れにドラマで放送され、今年2月に劇場版が公開された『黒崎くんの言いなりになんてならない』では、小松菜奈演じる主人公・赤羽由宇の親友で、“黒悪魔”に想いを寄せる芽衣子を演じている。少女漫画のヒロインを演じるタイプではないが、ヒロインを支えて後押しする役柄というのは、実にハマリ役である。


 今回のドラマで彼女が演じている東江絹というキャラクターは、抜群の画力を持ちながらも自分の才能に自信が持てない大学生で、サークルではBL漫画に勤しむ。実年齢より上の役柄には違いないが、特別大人びた印象を必要としない、いわば等身大の彼女の演技を見られる役柄である。周りからの後押しで意を決して同人誌即売会の会場に設けられた出版社ブースに出向いた東江は、黒沢心と巡り会い漫画家を志す。一度は就職するか漫画家を目指すかの選択に迫られ、すぐに漫画家としてデビューできる可能性に頼った彼女は、まんまと“新人ツブシ”の手中にはまってしまうわけだ。


 第6話ではその“新人ツブシ”安井の誕生秘話が物語の中心となり、それと同時に、東江絹の漫画家としての大きな前進が描かれていた。構図や展開に不安を抱えながらも編集者に相談できず、ひたすら孤独に締め切りと戦い続ける彼女を救ったのは、またしても主人公・黒沢心の超ポジティブな言葉の数々であった。ラストで安井から新しいコミカライズの仕事を提案された彼女は、その仕事を断る。そして出版社の前で黒沢に会うと、彼女は一生懸命自分に向き合ってくれた黒沢から離れたことをずっと後悔していたと語る。すると黒沢は彼女の手を取りこう言う。「離した手は、もう一度繋げばいいんですよ」。


 この第6話で、新人漫画家・東江絹の物語はひと段落したことになるだろう。この後、彼女が自分の書きたい漫画を書いて、再び黒沢心のもとを訪れるエピソードが登場することに淡い期待をしながら、最終話までの展開を楽しもうと思う。まさに、劇中で主人公が掲げる「自他共栄」という言葉に相応しい、漫画家と編集者の物語であった。(久保田和馬)