VivaC 86 MC VivaC team TSUCHIYA
レースレポート
2016SUPER GT Rd.2 富士スピードウェイ
■日時
2016年5月3-4日
■車両名
VivaC 86 MC
■場所
富士スピードウェイ
■ゼッケン
25
■監督
土屋春雄
■ドライバー
土屋武士/松井孝允
■チーム
VivaC team TSUCHIYA
■リザルト
予選 2位/決勝 3位
職人、春雄監督の胸の内
「俺にもやらせろ!」
開幕戦を予選ポールポジション、決勝6位入賞という成績で終えて、今シーズン「やれる」という手応えと、「このままでは勝てない」という状況が分かり、ラウンド2富士戦までのインターバルの間、マシンを速くするための議論がガレージで飛び交いました。その筆頭は春雄監督。次から次へとアイデアを繰り出し、細かいところやスーパーアイデア商品となるような代物を誕生させたり、それはそれは大活躍でした! 本当に勝ちたいんだなぁということが伝わります。それに、開幕戦のポールポジションは私、土屋武士のセットアップによるところが大きかったので、よほど羨ましかったのだと思います(笑)。「俺にもやらせろ」的な感じでしょうか。ほっといても、どんどんマシンを速くしていこうとする職人が常にガレージにいるということが、私たちのチームの一番の強みなのは間違いありませんね!
富士スピードウェイはストレートが長く、エンジンパワーが必要なサーキットで、非力なマザーシャシー(MC)には不利と言えます。しかし今シーズンのFIAGT3勢の多くがダウンフォースを増やし、タイヤに優しいマシンに仕上げてきたことは開幕戦の岡山を見ても明白です。言い換えると、ストレートスピードを犠牲にしてもダウンフォースを増やし、コーナーを速くするマシン特性に振ってきたということ。ここにMC勢やJAF GT勢が富士でもチャンスがあるという根拠があります。エンジンの非力さは低ドラックパーツのフリックBOXなどを装着することで、改造ができないFIA GT3勢に比べ、効率的にセットアップすることができるし、非力さゆえの高燃費によって、500kmといういつもよりもピット回数が多い今回の決勝では、戦略面でも幅が取れます。昨年は後ろにつかれるとあっという間に抜かれていたMCですが、今年はそこまでストレートスピードの差が大きくないことから、今回のレース、密かに期待していました。その中でマークするべき相手としては昨年のチャンピオンマシン、日産GT-Rを筆頭に、トヨタプリウス、BMW M6、ランボルギーニ ウラカン、そしてフェラーリが強敵になるのではないかな……という予想でした。ガレージでしっかりと富士仕様のパーツを入れ込んで、私的にはかなり手応えを感じるセットアップを考えることができ、不安要素はほぼない状況で準備ができました。でも一つだけ……タカミツが開幕戦で思うように走ることができていなかったことが非常に気掛かりでした。
相棒、タカミツの苦悩と成長
発破をかけ続けることも、土屋武士の役目
昨年はいつでも数周で同じタイムを出してきていたのに、開幕戦では明らかに乗り切れていませんでした。原因としては「速いけど、狭い」というマシンセットが考えられますが、私が乗ってタイムが出ている以上、言い訳にはできません。正直、岡山の決勝中は非常に乗りにくい状況でしたが、私が500に乗っていた頃、同じような状況は多々ありました。もちろんチームとして勝つ為には、二人のドライバーが速く走れるセットアップということを優先すべき、という考えもあります。しかし、このチームは「次代の職人を育てること」という大きなテーマを軸として存在しています。タカミツをプロに育てることは、私のドライバーとしての最後の仕事と捉えていますし、そうなって欲しいとたくさんの人が願ってくれています。だから、ここから逃げることはできません。自分でこのハードルを乗り越えていかなければ、プロの世界で生きていくことなんてできない。この富士のレースは、タカミツにとって本当に大事なレースだと同じドライバーとして感じていました。だからこそあえてアドバイスは最小限に、難しいマシンの、グリップの薄いときのタイヤの扱い方だけを伝えて、サーキット入りしました。
このレースウィーク、決勝は午前まで雨予報ということで、予選前のフリー走行でレースセットアップとタイヤライフの確認をすることが重要になります。実際走ってみると、最初からとにかく乗りやすく、狙ったセットアップはバッチリでした! こうなると予定通りにスケジュールを進めることができます。すぐにガスを重めにしてロングランをしながらレースのセットアップを進めました。最後にはタカミツが新品タイヤで予選シミュレーションをして、やりたいことは全てできた状態でフリー走行を終えました。
そして予選Q1にタカミツが挑みます。台数が多く、クリアラップが取りにくいのが不安要素ですが、そこは祈るしかありません。富士ではBピットと言われる“2軍エリア”がピット出口に近い場所で、昨年度の成績や今シーズンのポイントで決まるAピットを獲得すべく各チームは努力します。ですが私たちのチームは戦略的に有利になるピット出口に近いBピットをあえて選択。取材されにくいとか、ピット内に部屋とトイレがないというBピットの環境ですが、一番先にコースインできることや、レース中のピット作業での優位性などを考えると、Aピットも魅力的なんですが、やはりレース屋としてはレース優先にしてしまいます。そんな細かいことも勝負に影響すると考えています。それにそういった準備をやった上でトラフィックに遭遇したら、これはもう仕方がないと思える……。
そんな中でタカミツは無事に5番手のタイムを記録し、Q1を突破しました。タイムも#2 エボーラの加藤選手と同じタイムだったので、ポテンシャルはかなり引き出せたと思っていいでしょう。相当なプレッシャーがあったと思います。予選後の表情がめちゃくちゃ明るくなりました(笑)それこそ岡山のレース後からずっと引きずっていたものがやっと吹っ切れた感じで。同じ会社で働いていて、常に近くにいるので余計に伝わりますが、開幕戦後のインターバルはすごく辛かったと思います。でもこれが確実に肥やしになる。こういった経験をできるだけ繰り返し、本当のプロの勝負になった時に自分で乗り越えていける力がついていくと思っています。そして私にとってもすごくホッとした予選になりました。タカミツの成長が私たちチームのリザルトに直結するのは間違いないですからね。
さてQ2です。スピード勝負ではかなり厳しいなと思っていたので、ちょっと昔を思い出してタイヤのピークを1周だけに使い切る走りをしようと思っていました。500を降りてからはリスクを減らしてアベレージで走ることを心掛けていたので、一発で決めにいくことはあまりしていませんでした。もちろん500に乗っていた時代はずっとやっていましたが、タイヤテストをガンガンやっていた時と比べて精度は落ちています。でも今年はTOYOTA GAZOO Racingのプロジェクトでニュルを走ったり、開発テストでマシンに乗る機会が増えていたことで、身体のセンサーが戻ってきてるのを感じていたのでやってみよう、と。
そのトライは、とてもうまくいきました(笑)たぶんコンマ2秒くらいはいつもの自分より速く走れたと感じています。そう考えると3つポジションをゲインできた感じですね。大成功の2番手、フロントロー獲得です。こうやってタカミツに次から次へとハードルを設定していくのが私の役目ですから張り切らないと!
悔しい経験、自信につながる経験。
多くの経験がプロとしての覚醒につながる最高のスパイス
そして決勝日の朝、幸運なことに雨は上がりドライ路面でのフリー走行になりました。ここでも最後の確認をし、万全の準備をして決勝を迎えることができました。スタートはタカミツ。私が戦略を考えているので、距離の長いレースはできるだけ私はピットにいてフレキシブルな対応ができるようにしておきます。だいたいスタンダードなプランとオプションを二つ、セーフティーカー(SC)が入った場合のプランを用意しておき、あとはその場で決めていきます。今回はいい位置からのスタートができたので、展開によっては優勝もあるのではないかと、密かに楽しみにしていました。
が、スタートしてどんどん抜かれていく映像が……。この辺で終わるだろうなぁ~と思っていた以上に抜かれていくという予想外の展開。なにかトラブルでもないとここまで抜かれないだろうなと思っていたら、春雄監督が「スタート前に大量のタイヤカスを拾っていた」と。それでスピードが出なくて抜かれまくっていることが分かりました……。「予選の頑張りを無にしやがって」と思いましたが、まだまだ序盤で戦略的にも這い上がれる状況でしたので、いろいろと考えを巡らせながら、ひとまず予定通りのプランで進めることにしました。
今回のスタンダードプランは、第1スティントをギリギリまで引っ張り、タイヤ4本交換をして、第2スティントはタイヤ交換なしという戦略でした。詳細は話せませんが、まぁ、これが一番効率的な戦略だったので、これができるように予選日のフリー走行から準備を進めてきました。タカミツと無線でタイヤの状況をやり取りしながら、どうやら問題なさそうということで、スタンダードプランを決行することを決め、44周目に1回目のピットイン。私が乗り込み、トップ10以下(一時は15番手)だった順位はシングルポジション(8~9番手)まで戻して走行を続けます。そしてこのスティントからはハード目のタイヤを履きましたが、約60周を走る計算だったので、労わりながら前とのマシンのタイム差を縮めつつ走っていました。うまくいけば4位くらいまで戻ることができる計算だったのですが、SCが入ればもっとチャンスが広がります。と、そう思っていた時にSCが入りました! こうなるとかなり戦略がはまります。2回目のピットストップはどこよりも短いことが分かっていたので、大きなチャンスの到来です。リスタート後はいつでも入れる状況でしたが、周回遅れの集団に追いつく前にピットに入ることを決断。理想的な展開で2回目のピットインをすることができました。
私からタカミツへ交代し、タイヤは無交換、給油のみでピットアウトしてトップ#3GT-Rのすぐ後ろでコースイン。2番手に浮上です。タイヤはすでに33周を走行し、残り25周ほどを持たせなければならない状況。ハードタイヤのため、グリップはかなり薄く、私の脳裏には岡山のレースが蘇ります。状況的には非常に似たコンディションでタカミツは、トップグループに送り出されたのです。2輪をミディアムに交換することもオプションでは考えていたのですが、ここはタカミツにハードルを越えてもらおう、とハードタイヤを選択。それに第1スティントのダサさを埋め合わせるには、これくらいのことができないとダメでしょ?という気持ちも。
本当のところを言うと不安もありましたが、タイムをみると私と同じような感じで並べているので、これなら大丈夫だなと思いました。岡山の時のタカミツのままだったら同じように抜かれてしまっていたと思います。
こうなればターゲットは表彰台です。地力を考えれば#55 BMWは抑えることは無理でしたので、#18 MCが現実的なライバルでした。無線で#55 BMWは無理にブロックしてタイムを落とさないように、#18MCとのギャップを意識して走ることを伝えてあとはタカミツに任せます。意外と#55を抑えることができていましたが、やはり抜かれてしまい3番手に。しかしそこからは#18MCとのギャップをコントロールしながらタイヤをマネージメントすることができ、3位表彰台でチェッカーを受けることができました。
振り返ってみると、今回のレースウィークは理想的な展開だったと思います。特にタカミツにとっては、いいところもあり悪いところもあり、そして最終的にはいい結果で終わることができたこと。これは巡りあわせに感謝するしかないですね。昨年も言いましたが、成長するには「自信になる経験」と「悔しい想いをする経験」、そして何より「失敗をたくさん経験すること」が肥やしになっていきます。この2戦でタカミツは濃厚な経験を積むことができたことは、本人にだけでなく、チームにとっても非常に有意義なものになったと思います。
MCはFIA GT3に比べ、ドライビングは非常に難しくシビアです。正直、おじさんドライバーには暑いし、辛い! でもドライバーが成長する上では絶好のマシンと言えます。タイムだって数年前の500と同じなんですよね。これまでメカニックにとって素晴らしい教材という話はたくさんしてきたと思いますが、MCやJAFGTのマシンはドライバーにとっても非常に勉強になるマシンなんです。本音はFIA GT3のマシンで楽したいな~と思いますが(笑)、若い人の成長ができる場を提供することも、私の役目だと思っていますので、もうちょっと頑張ってみようかと思います。
常に終わりとの背中合わせ
だからこそ今この瞬間を全力で!
そして頑張ったご褒美として、前回開幕戦の「ZF Award for Best Mechanics」に続き今回は「J SPORTS BEST PERFORMANCE賞」を頂くことができました! 非力なMCでFIA GT3勢の中で表彰台を獲得したことを評価していただいたと思いますが、非常に光栄なことで、諦めずにコツコツ頑張ったことが報われる瞬間でした! そしてこの賞はチーム全員の気持ちが一致して、九州への義援金として全額寄付させていただくことにしました。
MCが富士で頑張る姿を、今大変な思いをしている九州の皆さんへ届けたい、少しでも勇気や元気が届けることができればという想いでこのレースを走っていました。そして今回実施したチャリティープログラムも、少しでも私たちのレース活動が、誰かの役にたてることができたら……という想いから行動に移したものです。(チームリリースをご覧ください)
私たちはたくさんの仲間に支えられ、素晴らしい環境の中で、大好きな仕事ができている恵まれた人間です。つちやエンジニアリングとしては昨年、7年ぶりにこのスーパーGTの舞台に復帰することができました。活動することができていなかった時期があるからこそ、今のこの環境が嬉しくて仕方がありません。私たちプライベーターは、いつまたここを去らなければならないかという不安が常にありますが、やれてるうちは、好きなことを好きなように、思いっきりやり切りたいと思っています!!
こんな私たちの活動で少しでも勇気や元気を与えることができるのであれば、こんなに嬉しいことはありません。私たちも、チームをたくさんの人が応援してくれていることで、勇気を頂いています。大変な時は支えあうことで乗り切っていきたい。同じ空の下、一緒にみんなで頑張っていきましょう!!
次回のレースまで時間が空きますが、まだまだやれること、やるべきことはあります。レース後、早速いろんなアイデアが出てきて、やりたいことが満載です。まだまだ頑張ります! これからも応援よろしくお願いいたします!!
【松井孝允コメント】
今回はフリー走行からマシンのバランスが良くてすごく乗りやすいマシンでした。その中で前回の反省も踏まえて、データエンジニアがすぐにデータを吸い上げ予選に向けて修正すべき点が見られたことはかなり自分にとって収穫でした。そして予選は前回の反省も踏まえアタックしました。足りない部分はありましたが、ワンアタックでQ1を通過できたことはほっとしました。決勝のスタートは抜かれるとはわかっていましたが、あまりにもひどすぎて今回の課題が浮き彫りになりました。この課題を次回のラウンドまでに何とかしなければ今後のレースでもかなり厳しくなっていくので早急に何とかします。レースペース事態は前回の反省からタイヤのおいしい部分を引き出せたと思います。スタートの失敗を戦略の部分でカバーしてくれた武士さんには感謝してます。そのおかげで3位表彰台というすごくうれしい結果を得ることができました。また岡山からメカニックの皆様がさらにマシンを速くしてくれたことに本当に感謝をしています。そしていつも応援してくださっている皆様、本当にありがとうございます。また次回も精一杯頑張ります!!