メルセデスはF1スペインGPで、シャシーとパワーユニットの両面に技術的なアップデートを投入してきた。
ルイス・ハミルトンはレースの週末に新品のMGU-HとTC(ターボチャージャー)を使用。これらは中国とロシアで起きた信頼性の問題を解決するため、トークンを使わずにアップデートした新しい仕様だ。中国とロシアで起きたトラブルの根本原因は明らかにされていないが、MGUのコイルの絶縁体が破損して、その結果としてモーター/ジェネレータが故障したのではないかと見られている。
ただし新仕様は1セットしか間に合わず、ニコ・ロズベルグはスペインでは旧仕様のものを使用。なお、ロシアGPのレース中にMGU-Kのトラブルに見舞われたロズベルグのクルマには新品のICE(エンジン)とMGU-Kが搭載された。
W07シャシーもアップデート部品の投入によって大きく変わっている。新しい空力パーツは、いずれもボディワークに、さらに多くのセレーション(ノコギリ状のギザギザ)を取り入れ、形状に「ひねり」を加えるという2016年のメルセデスの基本方針に沿うものだ。
具体的な変更点は、ノーズ先端、フロントウイングの翼端板、ターニングベーン、サイドポンツーン、リヤウイングなど、マシン全体に及ぶ総合的な空力アップデートだ。
スリムでウイングパイロンの間隔が狭い2016年型ノーズは、微妙に手が加えられて先端が尖った形状になった。これは従来のノーズに別部品を追加したもので、基本構造は変わっていないため、新たにクラッシュテストを受ける必要はない。
フロントウイングの両端部分は、翼端板のベーンに2枚の外向きのフィンが追加されている。この複雑な形状の部品は、3Dプリンティング用の樹脂で作られ、カーボンファイバー製のベーンに接着されたように見える。
フロントサスペンション下に取りつけられているターニングベーンのアッセンブリーにも、セレーションが追加された。オリジナルは左右それぞれ4枚のベーンが1枚のフットプレートにつながる形状で、テスト中このフットプレートへ一列に並んだ6つのセレーションが加えられていた。今回のアップデート版では、フットプレートが1枚ではなく7枚の独立した面で構成されている。これによりフットプレートに沿って流れる気流が、いくつかの小さい流れに切り分けられて、より複雑な気流の制御が可能になると考えられる。
ヨーロッパ・ラウンドに入り、気温も低めになるとの予想に基づいて、サイドポンツーンはスリムになり、インレットの形状にも手を加えてきた。また「モンキーシート」と呼ばれる排気管上のウイングレットは、スロットをひとつ追加して、3エレメント構成に変更されている。
アップデートの多くは、おもにリヤエンドの空力効率の改善を狙いとしている。したがってメルセデスは、必要があればドラッグを増やさずにリヤウイングを立てて走れるようになり、あるいはウイングレベルを維持しても以前と同じドラッグの大きさで、より大きなダウンフォースを稼げるようになるだろう。