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喫茶店でトイレに行った隙に「会社貸与PC」盗難・・・賠償責任はあるのか?

2016年05月18日 10:52  弁護士ドットコム

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仕事帰りに立ち寄ったコーヒー店で、会社から貸与されたノートPCを盗まれた――。4月下旬、このような内容がネット掲示板に投稿されて、話題になった。


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投稿者は、仕事帰りにコーヒー店に立ち寄った。そこで資料を読み込んでいたところ、急に腹痛に襲われ、トイレに駆け込んだ。席に戻ってくると、置いていたノートPCとカバンがなくなっていたという。店員に防犯カメラを見せてもらうと、マスクをつけた人物にノートPCとカバンが持ち去られるところが映っていたそうだ。



ノートPCは、会社から貸与されたばかりで、その中には、研修資料のほか、営業先の担当者名や連絡先などのデータが入っていた。投稿者は「会社にバレたらクビになる」とおびえながらも、会社に報告せずにごまかそうと考えているようだ。



投稿を見たネットユーザーは「早く上長に連絡しろ」「正直に報告しろ」とアドバイスしている。もし、今回のように、貸与されたノートPCを盗まれた場合、従業員は会社から賠償を求められたり、クビになる可能性はあるのだろうか。片上誠之弁護士に聞いた。



●負担割合はどのようにして決まるか


「会社からノートPCを支給・貸与された従業員は、雇用契約上、ノートPCを紛失することのないよう十分注意して保管につとめるべき義務を負っています。



ですので、一般論として、従業員の不注意(過失)で、ノートPCを紛失したとなれば、義務違反として損害賠償責任を負うことになります。もっとも、従業員の過失の程度が軽微な場合には、損害賠償責任が否定されることもあります」



片上弁護士はこのように述べる。今回のケースはどうだろうか。



「今回のケースでは、盗難とはいえ、ノートPCを席に放置したまま、トイレに行ってしまったということです。しかし、どんな腹痛だったとしても、ノートPCをトイレまで持って行くことや、一時的な保管を店にお願いすることはできたと考えられます。



したがって、この投稿者には、過失が認められ、損害賠償責任を負う可能性が高いと考えられます」



すべての損害を負担する必要があるのだろうか。



「過失があったとして、損害賠償責任を負うとしても、従業員はかならずしも、会社に生じた損害のすべてを賠償しなければならないわけではありません。



会社が従業員を使用して収益を上げていることとの関係で、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる程度にかぎり、従業員は損害賠償の義務を負うこととなります」



その負担割合はどのように決まるのだろうか。



「さまざまな事情が大きく影響してきます。たとえば、ノートPCを社外に持ち出すことを会社が認めていたのかどうか、持ち出すノートPC内に研修資料や営業先担当者名や連絡先を保存することが許されていたのかどうか、コーヒー店でノートPCを広げて仕事をすることが許されていたのかどうか、会社がノートPCの紛失に備えた保険に加入していたのかどうかなどの事情も、負担割合にかかわります。



たとえば、会社として、従業員がノートPCを社外に持ち出して、業務をおこなうことを認めていたのであれば、ノートPCを紛失する可能性は常にあるため、従業員が負担すべき額は小さくなるものと考えられます」



●クビになる可能性は?


今回のケースでは、会社から支給・貸与されたノートPCには、研修資料のほか、営業先の担当者名・連絡先などの情報が入っていたという。ノートPCの価格以上に、従業員が損害を負担することがあるだろうか。



「ノートPCとともに情報を紛失したことで、会社に損害が生じた場合、その損害も賠償の対象となりえます。



たとえば、ノートPCの中には、顧客の個人情報が含まれていることがあります。会社が対象となった顧客に相応の賠償を行うようなケースでは、損害額はノートPCの価格以上に増えることになる可能性もあります。ただ、会社に現実に損害が生じていなければ、従業員として負担する必要はありません。



今回のケースでは、ノートPCに営業先の担当者名と連絡先が含まれていたということです。これらの情報が流出することで、会社に具体的な損害が生じたといえるのかが問題となります。



あくまで一般論ですが、営業先の担当者名・連絡先の流出自体で、会社に具体的な損害が発生するとは考えにくいのではないでしょうか」



もし、会社に紛失したことを報告しなかった場合はどうだろうか。



「会社から支給・貸与されたノートPCを紛失した場合、従業員は、雇用契約や就業規則上、会社に対して報告する義務を負います。



したがって、ノートPCの紛失を報告しなかったとすれば、その従業員は、雇用契約や就業規則に違反したものとして、懲戒の対象となりえます。



懲戒の種類は、けん責、減給、降格、解雇などがあります。具体的事情によりますが、ノートPCの紛失程度であれば、解雇(クビ)にはできないと考えられます。



なお、懲戒されなかったとしても、人事評価上、大きなマイナス評価となることは当然でしょう」


片上弁護士はこのよう述べていた。


(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
片上 誠之(かたかみ・さとし)弁護士
上場企業から中堅・中小企業まで、事業者からの依頼案件(相談、交渉、訴訟等)を多く取り扱う。また、窮境に陥った事業の再生関連業務もてがける。

事務所名:石井法律事務所
事務所URL:http://www.ilo.gr.jp