トップへ

バックドロップシンデレラ、なぜ名曲を“ウンザウンザ”で踊る? 各国民謡とBUCK-TICKカバーが並ぶ異色作を分析

2016年05月17日 16:41  リアルサウンド

リアルサウンド

バックドロップシンデレラ

 今年結成10周年を迎え、3月にワンマンツアー<10周年でウンザウンザを踊る>を終えたばかりのバックドロップシンデレラが、カバーアルバム『いろんな曲でウンザウンザを踊ってみた』を5月11日にリリースした。


「前々からメンバー内で『カバーアルバムを作りたいね』という話はしていてたんですけど、10周年の節目としてちょうどいいかなと思って」(豊島“ペリー”渉/Gt & Vo)


 得体の知れない音楽性と破天荒な存在でシーンを掻き乱している連中(参考記事:音楽シーンを撹乱する異能バンド、バックドロップシンデレラ登場 10年のバンドキャリアを紐解く)だけに、カバーアルバムとはいえ、一筋縄では行かない内容である。世界民謡から『おかあさんといっしょ』、ピンクレディー、BUCK-TICKに至るまで、我々の想像の遥か斜め上を行く全10曲。一見、ブッ飛んだ選曲であるが、音を聴けばインパクトや話題性に特化したような企画モノでないことが解るはず。日本人誰もが慣れ親しみ、一度は耳にしたことのある無差別なジャンルの名曲群を、見事なまでの華麗なる“ウンザウンザ”に昇華しているのだ。


「前から考えていたことなので、いくつかやりたい曲はあったんです。『これはこういう風にやればいいな』というイメージがあったりもしていて。曲決めが一番時間掛かったし、大変でしたね。曲が出揃った段階で、もう制作の半分は終わった気分でした(笑)」(ペリー)


 タイトル通り、本作は彼らの掲げるウンザウンザがこれまで以上に炸裂している。ロマ音楽、アイリッシュ、フォルクローレ、スカ……、あらゆる民族音楽をきちんと体現しているところにバンドの本気と実力を見る。ただのカバーアルバムで片づけられないほど、聴き応えのある作品である。
 
「ウンザウンザにすることがテーマなので。僕らがやってるイメージがちゃんと浮かぶものを絞っていきました」(ペリー)


「みんなで候補曲を出し合って、原曲聴いて、ああだこうだ話合いました。『だんご3兄弟(おかあさんといっしょ/速水けんたろう・茂森あゆみ)』と『bubamara(ロマ民謡/エミール・クストリッツァ)』が最初にやりたいと決まって」(アサヒキャナコ/Ba)
 
「『だんご3兄弟』をやりたい、というのが先ず最初にあったんです」(ペリー)


 結成10周年というバンドの大事な節目に「だんご3兄弟」を持ってくるセンスに脱帽する。しかし、自由奔放に見せながら、タンゴ調の童謡をあやしくも奥ゆかしいジプシーな雰囲気の無国籍な音楽として深化させている。


「ウンザウンザとはなんなのか? 細かい説明の前に『だんご3兄弟』を聴けば、だいたい理解できる仕組みになっています」(ペリー)


「バンドとは別にDJをやったりもするんですが、民族音楽やウンザウンザっぽいものをかけて……あまりウケないんですけど(笑)。そこで前から『だんご3兄弟』をかけたいなと思っていて。でも、ロックではないじゃないですか。テンポも遅かったり、フワフワしている曲だし。DJでかけられるようなガシっとしたものになっていればいいのになと。だったら、自分がそういうアレンジでカバーしてしまえばいいんだ、と思ったんです。DJの持ちネタになるようなイメージですね」(ペリー)


 特筆すべきは、全曲通して「○○風」「○○調」といった中途半端なリアレンジでなく、本格的な民族音楽に取り組み、ウンザウンザしていることだ。これまでもさまざまな音楽要素を持ち込んでいたわけだが、あくまでロックバンドが基盤にあるサウンド&アレンジだった。しかし、今作では編成や型に捕らわれず、楽曲アレンジを第一に考えている。ヴァイオリンはちゃんとフィドル(※民族音楽で用いられる際のヴァイオリンの俗称であり、より幅広い奏法が求められる)としてフィーチャーしているし、ウッドベース的なフレーズやガットギターの導入など、アコースティックなサウンドも多い。また、メフテル(※オスマン・トルコ帝国の軍楽)のようにけたたましく打ち鳴らされるリズムや、チョチェク(※ジプシー・ブラス、バルカン・ブラスとも呼ばれる)を彷彿とさせる旋律など、多様な異文化アプローチも随所に鏤められている。サウンド、リズム、楽曲展開……、細部にまで行き届いたアレンジにより、クオリティの高いワールドミュージックとして成立させているのである。


「ライブのことを考えると作れないということもあり、ライブで演奏することを一切考えずアレンジしました。アイデアを含め、作品としてやれることは全部やろうと。だから、今までできなかったことまで挑戦してます。ライブでやらない、という前提があるからこそ、そこまで踏み込めたんです。以前はアイデアはあっても『それ、ライブでできないじゃん』ということでボツになったりもしていたので」(ペリー)


 たとえば、キャナコがメインボーカルを取る「サウスボー(ピンク・レディー)」は昭和歌謡ポップスにフラメンコテイストを盛り込んでいるが、シンプルでフォーキーな仕上がりというのもこれまで無かったバンドの新境地だろう。


「この曲のアレンジが一番大変でした。レコーディングの後半はずっとこればかりやっていて、かなり時間が掛かりましたね……」(キャナコ)


「原曲のレベルが高すぎて。スカにすればイケるんじゃないかと高を括っていたら全然ダメでした。どう切り崩して行ってもダサくなってしまうのが悩みの種で……。歌詞含めて凄まじい曲ですね」(ペリー)


 日本人でも子どもの頃に親しんだ「マイム マイム(イスラエル民謡)」「一週間(ロシア民謡)」といった異国情緒溢れる民謡との親和性、中でも70年代を代表するディスコナンバー「ジンギスカン(Dschinghis Khan)」の無国籍感は、バックドラップシンデレラと異様なまでにハマっている。ギラギラとした派手なアレンジはもちろん、でんでけあゆみ(Vo)の人を喰ったような歌声と相まって、ペリーによるオリジナルの日本語詞も強烈なインパクトを放つ。


「英語は歌いたくても歌えないバンドなので、変えざるを得なかった(笑)。ウチらの今までの流れを踏まえつつ、池袋と埼玉で。『池袋は埼玉県民ばっかり』というのが定説じゃないですか。そのテーマで書いていたんですけど、ふと『本当にそうなのか?』と思い立ち、調べてみたら、どうやら最近の事情は違うという事実が発覚しまして。今はみんな、池袋来てないらしいんですよ。急遽、真逆の内容に(笑)。湘南新宿ライン恐るべしっ!」(ペリー)


 対照的に、ロックサイドというべき曲もある。ペリーのボーカルによる「シュラバ★ラ★バンバ(サザンオールスターズ)」は原曲よりテンポをあげ、リズムの跳ね具合も心地良く、ガッツリとしたギターリフがたまらない。ファンクとハードロックが融合したアレンジだ。そして、アクの強い選曲の中でも、一際異質感があるのは「イメージしてたボーカルの声があって。それに一番近いのがアイツだった……(ペリー)」と語る、鬼ヶ島一徳(Dr)ボーカルの「ICONOCLASM(BUCK-TICK)」だろう。オリジナルはハンマー・ビートが反復するインダストリアル・ナンバーだが、「こうきたかっ!」と思わず唸ってしまうほどのバックドロップシンデレラ節が襲いかかる。


「2トーンのスカのイメージですね。ボーカルもそれっぽい煽りで。僕、BUCK-TICK大好きですから、『『ICONOCLASM』をカヴァーするってことはさぁ~、』って、一人で熱く語ってました(笑)。ファン的に見れば、シングルではないけど特別感がありますからね。『TABOO』(1989年 アルバム)に入ってるオリジナルバージョンから『殺シノ調ベ』(1992年 アルバム)バージョン、ライブでもずっとやり続けて未だに進化している曲」(ペリー)


「メジャー・コードでやってみようというのもあったんですけど、結局、そのままの感じがカッコイイということで。やっぱり、あのベースラインがカッコイイです」(キャナコ)


 狂気の「だんご3兄弟」ではじまったアルバムは、型破りと意外性を交錯させながら、メランコリックな和情緒の漂う「にっぽん昔ばなし(まんが日本昔ばなしオープニング)」で幕を閉じる。最初から最後まで濃い内容だが、思わず何周でもリピートしてしまう楽しさがある。


 ここで、全曲、主メロ・歌メロを弄ってないことに気付いた。


 加えて、奇抜なアレンジを用いながらも、無理矢理感も違和感もないどころか、原曲のイメージがまったく損なわれていない。何気にオリジナルの延長線上にあるのだ。しかしながら、どこをどう聴いてもまぎれもなくバックドロップシンデレラの唯一無二な音楽になっているから不思議だ。アップテンポの曲をバラードに仕立てるとか、またその逆であるとか、方向性を180度変えることが多く見られる中で、こうしたカバーも珍しい。オリジナリティを追求するバンドの力量と、原曲に対するリスペクトと愛に満ちあふれているアルバムである。


「好きなアーティストのルーツを探るのが好きで、そういう聴き方をして、いろんな音楽に出会ってきたんですね。民族音楽やワールドミュージックは、一般的に馴染みの薄い音楽だと思うけど、僕らがこういう音楽をやることによって、こうした未知のジャンルや音楽との出会いになれたらなと思っています」(ペリー)


 誰もが耳馴染んだ楽曲を、オリジナリティを以てして新たな側面を引き出していく。同時にそこではじめて触れる異国の音楽に出会う人も多いことだろう。マニアックだけどキャッチー、解りやすくも深い、まさにバックドロップシンデレラというバンドを象徴するようなカバーアルバムだ。


 次から次へと我々を驚かすアイデアで攻め立てるバックドロップシンデレラ。今後も何か企んでいるに違いない。(冬将軍)