トップへ

A.B.C-Zはジャニーズの過去と未来をつなぐ? 好調のテレ東冠番組から伝わること

2016年05月17日 07:21  リアルサウンド

リアルサウンド

(C)タナカケンイチ

 『ABChanZoo』(テレビ東京系)が好調だ。2013年から始まったA.B.C-Zの冠バラエティだが、この4月から放送時間が移動した。これまで日曜の朝11時台だったのが、土曜の深夜1時台となった。真逆の時間帯と言ってもいいが、この移動が大きくプラスに働いている印象だ。


(関連:A.B.C-Zが紡ぎだす、ジャニーズの音楽史ーー新作に引き継がれた“50年前の夢”とは?


 まず、深夜バラエティ、特にテレビ東京の専売特許と言ってもいいユルいノリと、A.B.C-Zの相性が良い。


 A.B.C-Zは、2008年結成の5人グループ。グループ名のAの意味でもあるアクロバットが得意で、「体育会系ジャニーズ」と称される。実際、歌番組などで、テレビ局のロビーや廊下などを縦横に使ってアクロバット入りの見事なパフォーマンスを披露する彼らを見たことのある人も多いだろう。2012年のメジャーデビューが通常のCDではなく映像付きのDVDだったことも、そのセールスポイントからくるものだ。


 彼らは、元々A.B.Cだった五関晃一、戸塚祥太、塚田僚一、河合郁人の4人に橋本良亮が加わり現在のグループ名になった。ひとり年齢の離れた橋本が弟的ポジションという関係性だ。兄貴的な五関、戸塚、塚田、河合の4人のジャニーズ入所は1990年代の終わりのことなので、2012年のデビューまでに10年以上を要したことになる。同期や後輩のジュニアたちが先にデビューすることも経験し、下積みの長かった苦労人のイメージも強い。


 それもあってか、『ABChanZoo』での彼らには、現ジャニーズグループのなかでもデビューの新しい方でありながら、キャリアに裏付けられた懐の深さが感じられる。初の“NGナシ”ジャニーズとしてさまざまなロケやゲームに挑むなかにも、どこか余裕を残した風情がある。一生懸命ながらも程よいまったり感が醸し出されるのだ。それが深夜バラエティのユルさとしっくりくる。


 例えば、ジャニーズなのに「影が薄い」と言われてしまう五関晃一がヴィーナスフォートのなかに変装して隠れているのを探し出す企画「五関を探せ!」では、ミッションに成功した河合郁人がこの企画は二度とやらないでと神様に扮した五関に願い事をすると、せっかく自分をフィーチャーした企画なのに五関はそれをあっさり認めてしまっていた。


 また、メンバーのひとりが夜の街を歩いてユニークな素人のエピソードを聞き出し、それをクイズにする企画「クイズ出来ちゃいました」では、戸塚祥太が人見知りを発揮して店にもなかなか入れなかったり、塚田僚一が自分で問題を作っておきながら肝心の答えを忘れたりしていた。


 こう書くとただのグダグダにも思えるかもしれないが、見ているとそれが程よいまったり感になっていて思わず笑ってしまう。それは、他のジャニーズグループにないひとつの個性と言えるだろう。


 そんなユルさは、日曜放送時代からすでにあった。極めつけは、メンバーの“代役”を立てるシステムだ。


 番組は、昨年夏から観光地などへロケに出てのクイズ企画にリニューアルしていた。その際、早押しクイズで最下位になるとそのメンバーは強制的に帰宅となってしまう。その抜けたところに代役が入るのである。だからグループのセンターである橋本良亮が番組の冒頭で脱落して、そのまま映らなくなってしまうこともある。


 代役になるのは「46歳コンビニ店長」、「36歳自称・家庭教師」などただの素人である。何となく雰囲気は寄せていたりもするが、よく見ると別に似ているわけでもない。それだけでも十分ユルいが、この代役が単なる出落ちではなく、本物を押しのけてしまうこともあった。


 究極だったのは、番組の最後に代役しか残らなかった回だろう。5人中3人が脱落し、敗者復活クイズをそれぞれの代役との対戦形式でやったものの、それでも勝てず最終的にエンディングに代役しかいなくなるという回があった。ここまでいくと自虐のし過ぎにも思えるが、それでも成立してしまうところがA.B.C-Zらしくもある。


 そして移動後の5月8日と15日の2週に渡って放送された「ジャニーズモノマネレストラン」も、同じ意味でA.B.C-Zだからこそできた企画のように思える。


 ものまねは、テレビでは定番の企画である。ものまね番組やものまねネタを目にしない日はないと言ってもいいほどだ。


 かつては「声帯模写」と呼ばれたように、芸能人や有名人の声色にとにかく似せることが物まねだった。ところが1980年代くらいからだろうか、歌手なら歌っているときの一瞬の特徴的な表情や仕草をデフォルメしながらまねる芸が現れた。コロッケの岩崎宏美や野口五郎の物まねが斬新なものとして人気がでたのもその頃のことである。


 最近では、ものまねの目の付けどころはますます細かくなっている。とんねるずの番組の「細かすぎて伝わらないモノマネ選手権」を思い出せば、わかりやすいだろう。


 「ジャニーズモノマネレストラン」は、そんなものまねをジャニーズ限定で、しかもそれを現役ジャニーズであるA.B.C-Zが評価するところが新しい。実際、続々披露されるネタは、コンサートやテレビの実に細かいポイントを拾ったものが多かった。


 それはいわば、ジャニーズへの愛の表現でもある。「声帯模写」時代の政治家の物まねなどは、風刺の要素が強かった。それに対し、細かいところまで再現するいまの時代の物まねは、対象への愛の表現になっている。今回のジャニーズものまねもそういうものだろう。だからこうした企画で楽しむことができるのも、ジャニーズ文化の成熟の表れと言えるに違いない。


 このときの放送で印象的だったのは、ジャガーズによるタッキー&翼とジャニーズJr.のステージの絡みをまねたネタに、塚田僚一が自分の経験を踏まえて足の細かいステップの“ダメ出し”をした場面である。そこからは、A.B.C-Zのジャニーズへの愛も深いものであることが伝わってくる。それは、河合郁人が得意とするジャニーズのものまねレパートリーにも共通する部分だろう。


 2週続いたこの企画のラストは、A.B.C-Zの「Za ABC~5stars~」の振りを完コピするというもの。ところがよく見ると五関晃一役だけがいないというフリがあって、最後は彼が加わって本物と偽物のコラボが実現した。バラエティ的なオチではあるが、そうしたなかで自分のパートをしっかり真面目にこなす五関晃一も良かった。


 こうしたことから見えてくるのは、A.B.C-Zが、ファンだけでなく一般の視聴者とジャニーズの懸け橋になってくれる豊かな可能性を秘めたグループだということだ。


 一方で、「体育会系ジャニーズ」として彼らが見せてくれる華やかなパフォーマンスは、まさにジャニーズの原点にある、徹底して楽しませるエンターテインメントの哲学を受け継いでいる。またもう一方で、「苦労人」とも呼ばれる経験が培った彼らの懐の深さ、そこからにじみ出る飾らなさや親しみやすさは、ジャニーズの魅力を一般視聴者にも伝える最良の武器になりうるのではなかろうか。


 ジャニーズの過去と未来をつなぐ存在としてのA.B.C-Z。そんな彼らのこれからに注目だ。(太田省一)