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今宮純の決勝インプレッション:ベテランとの接近戦をしのぎ、勝つべくして勝った18歳

2016年05月16日 16:21  AUTOSPORT web

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5月15日は、きっと今シーズンの“メモリアル・デイ”になるだろう。衝撃の30秒にメルセデス勢が4コーナーで全滅、歓喜の111分レースでマックス・フェルスタッペンが初優勝。レッドブルへ緊急移籍した24戦目の18歳オランダ少年が、世界最速ドライバーとして名を刻んだ、記憶に残るレース。

 第4戦スペインGPは、ここまで繰り返されてきたパターンを突き破るゲームで始まった。ピット戦略にも中盤変化が加わり、最後はコース全域で「トップ2」と「セカンド2」の4人がコンマ数秒内のドライバーズレースを展開。あらゆる予測やデータ情報、分析シミュレーションを覆すハラハラドキドキの攻防をリアルに見るF1スポーツの醍醐味。新鮮さと懐かしさが入りまじるなか、10代のフェルスタッペンが勝ってしまった。

 勝因を3つ挙げよう。勝因1は、無欲な態度。実走テストなしのマシンで心がけたのはトロロッソとの違いを早くつかむこと。フリー走行1回目で29周、レッドブルのダイナミック・ダウンフォースに驚いた彼はセクター1で試した。どのラインでも安定して強い風にも耐えられる。先輩ダニエル・リカルドよりアクセル開度が高い。だが、7つコーナーのあるセクター3では敵わない。TAGホイヤー(ルノー製パワーユニット)はフェラーリ製と中速域ドライバビリティが違い、それはエンジニアからのデータで学ぶしかない。新入生は謙虚に初対面の彼らと接したという。スペインGPは出発点、テストととらえればいいと無欲に真っ白な気持ちで臨んだ金曜だった。



 まわりが騒がしくなった土曜。勝因2は、落ち着き。リカルドとの走行データ上の違いはセクター3にあった。それを意識してセッティングをいじると全体バランスが狂う。あせらずに良い部分は活かし、欲をかかずに行くことだ。この見きわめが若い未経験者には難しい。父ヨスは以前、幻に終わった「1999年ホンダF1開発ドライバー時代」がある。ベネトン現役期と違うヨスのテスター能力、その沈着冷静な判断指示能力をマックスはDNAに受け継いでいるのかもしれない。予選では最終的に、先輩に0.407秒の大差をつけられても平然と言ってのけた。「僕は、まだ限界を探る階段を上っているところですから」。こういう言葉を発する落ち着いた態度は並の新鋭ではない。

 勝因3は、基本に忠実なこと。終盤47周目からキミ・ライコネンが1秒以内で真後ろにつけ、ミスを誘うプレッシャーをかけてきた。狙った獲物を36歳のベテランは毎周あちこちのコーナーで揺さぶる。具体的には右ミラー、左ミラーに自分を入れ込むように迫り、一瞬見えない真後ろに動いて不安感を抱かせ、ミスを誘う手だ。こういうスキルが絶妙なライコネンの技との競演が続いた。



「トップにいても、あまりナーバスにはなっていなかったです。とにかくセクター3に注意して、最終コーナーではトラクションを心がけてメインストレート加速を伸ばそうと……」

 このコメントからも基本に忠実、絶えずコーナーで左右ミラー・チェックを怠らなかったことが見てとれる。64周目にライコネンは、あたかもあきらめたかのように、いったん1.177秒差に下がった。相手の油断を誘う最後の手で、65周目に0.963秒差に迫ると、66周目ファイナルラップにタイヤはもうボロボロなのに最終攻撃をかけたのだが──。

 フェルスタッペン0.616秒差の1勝目。106人目ウイナーの凄さは105人目のリカルド、パストール・マルドナルド、ニコ・ロズベルグ、マーク・ウェーバー、101人目のセバスチャン・ベッテルたちと違い、接近戦を制したことだ。常勝メルセデスが全滅し、首位リカルドが異なるピット戦略を採ったという要因もあるが、18歳ウイナーは勝つべくして勝った。大人のドライバーたちも、この現実を生々しく受けとめただろう。